八話
「ただいま」
「只今、帰りました」
鬼神寺の十一日目は早朝は片付けから始まり、寺の僧侶と妖怪達共々、一緒に片付けをした。それはそれで色々と大変だったものの、一先ずは無事に帰れた。
「おかえりなさい」
そう言って、出迎えてくれたのは彼の母親である鬼条萌だった。年齢は三十歳と若く、おまけに美人と何て言うか、早く結婚したんだなぁー。闇とかありそうだなぁー。なんて無意味に偏見を向けてしまう。だって、そうだろ?十五歳で子供を産むとか普通に考えたら訳にありのようにしか思えない。
「あら、薪、何か良い事があったのかしら?」
そう、自身の母親に問われてしまう。彼はあまり表情には出さないものの、確かに寺へ向かった時より、朗らかな表情になっているような気がする。
「まぁ......」
それもそうだろう。彼はあの三羽の烏天狗と和解が出来たのだ。今回の修行は彼にとっていい物だったに違いない。最後はハプニングがあったものの、無事に泊まり掛けの修行は終えた。俺自身も収穫があったし、多少は強くなれただろう。
「薪、帰ったのね。それと、刄ちゃんもお疲れ様」
そう玄関へと姿を見せたのは焔さんだった。何か用事でもあったのだろうか?
「ちょうどいいわ。来てちょうだい、あなた達に話があるの」
俺達は居間へと移動をする。何かあったのだろうか?そう思いながら、居間の畳の上に敷かれた座布団に座る。
「どうしたの?ばあちゃん、話って?」
「ええ...。大した事じゃないわ。緊急事態......とは、言っても大袈裟な事じゃない
私と篝がいれば、大方、片付く事なんだけど......、琴風高校の校舎裏に封印石と言われる物が奉ってあるんだけど、その封印が解けちゃったのよ
その石に封印されていたというのが1000年前に封印された妖怪らしくてね。現在、その高校は立ち入り禁止、外部から術士と地元の天狗達に手伝ってもらって封じ込めている状況なのよ」
話を聞く限りじゃ、結構ヤバい事になっているようだ...。1000年前に封印されたと聞くと、かなりの力があると想像してしまう。倒しようがなくて、封印するしかなかったと考えるのなら、そのヤバさを想像しやすい......、というかマジでヤバくないか?
因みに篝とは、鬼条篝、彼の父親の事で現当主である。力は彼の祖母、焔より同等以上の力を持ち、各地へ出張して忙しい日々を過ごしており、中々、帰ってこないようだ。現在は息子の夏休みという事である程度の期間は休暇として戻ってきている。
ヤバい、ヤバいと言ったものの、確かにあの二人が揃ったのであれば、どうにかなるだろう。各地へと転々として、あらゆる相手を葬ってきた彼の父親とかなりの実力を持つ前当主がいれば、これぐらいなら片付く筈だ。それにここらの土地の天狗達も手伝ってくれるのだから、まぁ、大丈夫だろう。
そう言い聞かせるように不安だった気持ちを楽観視させる。相手が相手なら下手にでしゃばらなくてもいいだろう。薪君はともかく、俺は役に立つとは思えない。力不足を痛感したばかりでもある訳で...。
「それで、薪と刄にも手伝ってもらおうって思ってね」
......はい?あの...おばあ様、何を言って...。
「修行での成果を見るのにちょうどいいって思って。あなただって、曲がりなりにも鬼条家の一員、火葬士だもの、期待してるわ。それと刄、あなたにも期待しているわよ。妖怪になったばかりとはいえ、あなたの伸び代は大きいもの」
「期待......。分かった」
そう前当主である焔へと返事をする。何やら期待という言葉に少し嬉しそうに見えるのはきっと、俺の気のせいじゃない。薪君さ、割りとチョロかったりしないか?
そんな訳で俺達はその琴風高校へと向かう事となった。琴風高校、それは地元で唯一の高校らしく、地元暮らす生徒達が多く通っているらしい。
その琴風高校へと到着すると黒いスーツを着た何人かの姿があった。彼らは外からの助っ人のようだ。
「状況はどうかしら?」
黒いスーツの男性に焔さんが声を掛ける。
「まだ、何とも...。結界は張っているので、外にはまだ出ていませんが、中々、姿を見せていませんし、気配も感じません
それと、ここの天狗達を本当に信用してもいいんですか?」
「ええ、彼らは私達と友好的な関係を築いているわ。何も悪い事なんてありもしない。ちゃんと、信用してちょうだい。それに今は彼らの力が必要よ。こんなにも頼もしい味方もいないでしょ?」
「あなたがそう言うのなら......」
彼らは妖怪との関係を築いた事がないのか、あまり信用してないように伺える。それと同時に鬼条焔という存在だけは知っているようで、彼女自身、顔を知られている有名人なのかもしれない。
彼の父親である鬼条篝は各地を転々としている訳で、祓う事に対しての仕事をしているのだから、有名人であっても何ら不思議じゃない。
それはそうと、確かに妖気らしい妖気を感じない。いや、妖気らしい妖気は感じるは感じるのだが、その妖気というのは俺の知っている物であり、しかも、それは上から感じる物で、上を見上げればそこには天狗達を飛行しているのが確認できた。
要するに俺が言いたいのは、封印から解き放たれた筈の妖怪の妖気が感じないという事だ。気配がないのなら、もうここには存在しないのじゃないだろうかと思いたくなるが、それでもこれだけ大掛かりになっているのであれば、確実なのだろう。
「ばあちゃん、父さんは?」
そう薪君が焔さんへと尋ねる。そう言えば、彼の父親が見当たらない。いや、顔を見た事がないのだから、この中にいる誰と断定する事は出来ないのだが...。
「篝なら中にいるわ。気になる事があるって言ってたわね」
気になる事...。妖気を感じない以外に何が気になるというのだろう...。
「やれ、たいぎーのぅ...」
そう小声で呟き、校内を見る。変哲もない校舎、大きなグランド、特に変わった物は見当たらない。
ようやく、帰ってきたというのに...、正直、やる気が出ない。俺自身、家に帰って休んでおきたいという気持ちが大きいが、そんな事は口が裂けても言えなさそうだ。
「ほんじゃあ、一先ず、入るかねぇ?」
面倒なのは仕方がない。相手がどういう奴なのかが分からないが、終わらさなければいけないのならば、手っ取り早い方がいい。早く、帰ってからだらけたいのであれば動かなければ、働かなければならないのだと、そう自分自身に言い聞かせる。
「そうだな...。まず、探してみないと分からない。それに何もしないよりはいいだろう。それに相手が敵だと分かっているのなら、容赦する必要もないし」
俺達は校舎へと踏み入る事にした。
「分かったわ。それじゃあ、行ってらっしゃい。何かあったら、引き返すのよ。それと決して無理はしない事、自分より強い相手に立ち向かわない事。それを守って、ちゃんと戻ってきなさい
何せ、相手は1000年前に封印された相手なんだから、得体が知れないもの
1000年前の記録はほとんど残ってないんだから...」
「分かってる。大丈夫だよ、俺には刄さんがいるし、それに天狗達もいる
それに外から来てくれた人がいるんだから、大丈夫」
そう言った後、俺達は校舎へと向かう。どんな相手かが分からない以上は気を抜けない。
気を張りながら、校舎内を歩くものの、本当に何の気配もない。それが逆に不気味に感じさせる。本当にここに封印されていた妖怪がいたのかと疑いたくなってしまう程だ。
「本当におるんかねぇ...?」
あまりの気配のなさに思わず、そう言ってしまう。妖気なんて一切、感じず、人の気配する感じない。本当に何もいないと思ってしまうぐらいに。
「そうだな、もうここにいない可能性もある。ここに封印されていたのがどんな奴なのか分からないが、どういう訳か、封印は解かれてしまった
こんなにも気配がないのなら、すでに外へ逃げ出してしまっている可能性は十分にあるだろうな
この手間は無駄かもしれないけど、しないで被害が出るよりかはマシだろ?」
確かにそうだ。何もしないで被害が出る方が最悪な事態だ。探して出てこないのなら、それに越した事はない。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
突如として大きな妖気を感じたと思うと、何らかの鳴き声が聞こえた。校舎内の廊下の足場から何やら小さな蜘蛛が大量に涌き、天井からも糸を引いて落ちてきた。
咄嗟に辺りは熱気に包まれ、足元の蜘蛛達は彼の炎によって焼き殺された筈だった......。そこには蜘蛛の死骸は存在せず、あるのは焼け焦げた床のみで天井から糸を引いて落ちてきていた蜘蛛の姿さえそこにはなかった。
「成る程な......」
彼はそう呟いて、何やら一人で勝手に納得してしまっていた。
「成る程って、......どういう事かねぇ?」
「奴らは分散するタイプの妖怪なんだろう。だから、小さ過ぎて何も感じない。そこには存在しないように錯覚させる。それで集まれば、大きな妖力へと変わる訳だ
結構、厄介な相手だな。分散するんだったら一度に校舎丸ごと焼き払うのがいいんだろうけど」
「そういう訳にゃいかんじゃろ...」
というより、物騒だな......。
「だよな......。もう逃げられてしまっている訳だし、今回は長くなりそうだな」
そう彼はため息を吐いてしまっていた。相手が分散して小さくなって、捉える事が出来ない上に見付けるのが難しいというのなら、他に手段を考える必要がありそうだ。
探すのが困難で、捉えようがないか...。見た感じ相手は蜘蛛の妖怪の妖ではあったが、あれが分散してこの校舎に姿を隠している訳なのだ。探すのが困難なら誘き寄せるとかそういう方法は出来ないだろうか?そうすれば、一網打尽に薪君の炎で焼き殺す事ぐらいは出来るだろう。
「誘き寄せるとかは出来んのんかねぇ?そうすりゃ、割りと簡単に薪君の炎で退治出来ると思うんじゃけど?」
一先ず、薪君にそう伺ってみる。
「そうだな......。確かに、出来れば簡単だな
それじゃあ、一度、戻ってばあちゃんに相談してみる。相手の好物は俺にも分からないしな」
そんなこんなで俺達はスタート地点に引き返し、焔さんへと相談する事となった。
「そう、相手は蜘蛛の姿をした妖怪で、しかも分散するタイプ...。確かに厄介ね。それじゃあ、捕まえようがないわね」
「刄さんが、相手が蜘蛛なら誘き寄せる事は出来ないかって、俺もそれには賛成なんだけど、肝心な餌をどうしたらいいのか...」
「それなら、すぐに手配しましょう」
彼女はそう言って、手をパンパンと叩いた後に、
「扇子丸さん」
そう名前を呼ぶ。すると、強風が吹き荒れ、地面に渦を作ったと思った直後だった。赤い肌に茶色い猛禽類のような翼、長い鼻の天狗、大天狗がそこにはいた。
「焔、ワシに何ようだ?」
大天狗は焔さんの事を呼び捨てにして、そう尋ねる。
「ちょっと、頼みがあるのよ。ネズミを捕まえてきてほしいんだけど、お願い出来るかしら?」
「ネズミ?それをどうするというのだ?」
焔さんは大天狗こと扇子丸へと俺達の考えを伝える。どうやら、蜘蛛の妖怪ならネズミ程度で餌にする事ぐらいは出来るようだ。彼女は説明し終えると扇子丸は頷いた様子を見せ、
「そういう事ならば、すぐに手配しよう」
扇子丸は何人かの烏天狗達を連れて、どこかへと飛び去ってしまった。おそらく、ネズミを捕まえに行ったのだろう。
「あなたを拾っておいて良かったわ
これなら、薪の事を安心して任せれる。これからも薪の事をよろしくね」
そう突如として言われてしまい、どう返したらいいのか、俺は分からないでいた。
「いえ、俺は何も......
薪君は、俺なんかよりずっと出来た人間で、多分、その気になれば友達なんてすぐに出来ると思います
俺がこんな事を言うのはあれですけど、中身がちゃんと整った人間だと思います」
そう言うしかなかった。彼の事を友達だなんて言えば、きっと、否定される。だけれども、俺にとっては彼は友人である。心を置ける友人、それはどれくらい大切なのか、俺は知っている。敵ではなく、信じて頼る事が出来る相手なんてそういない。
何か、すんげー、恥ずかしい事を言ったぞ、俺...。
「おべんちゃらはいいわよ。でも、ありがとう。この子、友達もいないし、精々、今回の修行の時みたい烏天狗達に遊んでもらうのを密かに楽しみにしてたぐらいだから」
「彼にだって、最近、後輩だけど友達が出来ましたよ。今はあの寺で修行してますけど」
「あぁ、そうだったわね。確か、斎藤蓮って言ってたわね。霊感のある子よね...。悪い子には見えなかったわ。やっぱり、あなたが来てから変わったわ」
「ばあちゃん、それはもういいから」と薪君は恥ずかしそうに口を挟み、「はいはい」と穏やかにそれでいて、嬉しそうに応える。
そんな状況を一先ず、置いといて、気持ちを切り替える。相手は蜘蛛だ。しかも、妖怪で分散するタイプの相手で掴み所がない相手でもある。刀である俺では相性が悪い。切り裂いた所で分裂する相手には効果を成さないだろう。それよりか、切り裂くよりは完膚なきまで焼き払った方がいい。つまり、俺には出る幕はない訳で、役には立ちそうにもない。
まぁ、誘き寄せた所を三人が焼き払えば済む話だ。前当主、現当主の二人が揃っていると考えれば特に問題もないだろう。ただ問題があるのであれば、どれくらいの相手なのかという事だ。霧散している蜘蛛を集まれば、どれくらいのサイズになるのかと、どれくらいの力を持っていて、どのような能力を隠し持っているのか。それが分からない。分からない上で戦わなくてはならないのだ。
一時間後、袋を担いだ天狗達が戻ってきた。その袋の中身はネズミの死体だった。どうやら、捕獲ついで息の音を止めてきたようだ。まぁ、それはそれで仕方ないし、生きてたら袋まで破かれてしまう。それより、この短時間で袋いっぱいに持ってくるなんて流石としか言いようがない。
「こんなので大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ。そうね...、早速だけど、グラウンドの真ん中に放り込んでもらえるかしら」
そういう訳で天狗達はグラウンドの真ん中にネズミの死体をばら蒔いた。すると、何やら黒い何かが集まり初め、何やら黒い何か蠢いていると思っていると、一つの塊となり、姿を現したのは巨大な蜘蛛だった。
「これなら、俺でも仕留める事が出来る」
彼はそう言うと自身の体内に力を循環させる。相手は食事に夢中なのか、こちらに見向きしない。それならば、絶好のチャンスだ。
巨大な蜘蛛の足場に炎柱を昇らせる。昇った炎は巨大な蜘蛛を飲み込み、炎が破裂し、蜘蛛の悲鳴が辺りに響く。そんな直後の事だった。炎柱が昇る、その足場で黒い何かが蠢いていた。それは一瞬にして、グラウンド一面を埋め尽くし、それは巨大な形を変えていく。その姿はまさに妖怪というより怪獣と呼んだ方が相応しいと思える程に見上げる程の巨大な蜘蛛の姿へ変貌してしまった。
「あら、まだ、いたのね...。仕方ないわ。多少、被害が出るのも仕方がないとして
容赦なんて必要ないわね」
焔さんはそう言うと、片手を前に出す。その直後、辺り一面はむせ返りそうな物凄い熱気に包まれてしまう。
「扇子丸さん、後ろに避難させてちょうだい」
「......承知」
そう短く、扇子丸は応えた後、法螺貝の笛を吹き鳴らす。どうやら、これが離脱の合図のようだ。
烏天狗達が避難した後の事、焔さんは「それじゃあ、始めましょうか」と言葉を漏らし、凄まじい熱気に包まれたグラウンドは煉獄へと変わってしまった。それは灼熱地獄と称しても、決して間違いではない光景であり、あの巨大な大蜘蛛をグラウンド丸ごとに真っ赤な灼熱の業火が飲み込んだ。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
大蜘蛛の悲鳴が聞こえ、崩れていく。しかしながら、崩れていくだけで逃げる事は許されず、灰塵と化していく。
その光景に誰もが終わった、片付いてしまったと思っただろう。こんな巨大で大きな妖気が溢れ出ている相手に対して、こんだけの力を叩き込んでいたら誰でもが余裕で片付いたと思ってしまう筈だ。実際に残ったのは真っ黒に焼け焦げたグラウンドとその他諸々だった。
飛び散る血を見た。それは焔さんからの出血であり、老体が地面へと倒れる。突然の事に呆気へと取られ、目を向けた先にいたのは一つの人型、妖怪だった。
「ばあちゃん!!」
そう声を上げて、駆け寄ったのは薪君だった。
蜘蛛を人にしたような様相に蜘蛛特有の複眼、手には蜘蛛だとは思えないような爪が見受けられる。
「烏天狗共!!」
そう大声で声を掛けたのは大天狗の扇子丸であり、その呼び掛けに対応するように返事をし、焔さんへと駆け寄り陣形を取り、扇子丸は自身が手にしている扇子を振るい突風を吹かせる。
それを回避するように後ろへと飛んで避けようとするも思った以上に威力が強かったようで転倒し、転がるように押し流されてしまっていた。
「私は......、大丈夫...だから、前を見なさい。私の事は......いいから」
苦しそうに薪君へと声を掛けるも、より一層に心配そうな顔となってしまう。
その状況をほっとく訳にもいかないけれど、俺には何も出来る事はなく、俺は薪君らよりも前に一歩、二歩、前に出て構えを取る。ここで殺られてしまっては元も子もない。
「妖刀、奴は強いぞ...。気を抜くな。抜けば、殺られる。だが、臆すな
守りたければ、生き延びたければ、前に出ろ。勝機を逃すな」
あの瞬間、俺は何も出来ず、気が付けば懐に潜り込まれ、今の現状に至る。そこに存在する妖力は大きく、されど洗練されたように整っている。あの大きな蜘蛛の塊はフェイクだったのだろう。それに気を取られてしまったせいというのもあるが、それでもこの相手はただ者ではない。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
真っ直ぐに相手は突っ込んでくる。スピードは鬼神寺に出現した相手よりは遅く捉えやすい物で、俺の十八番である居合を繰り出すも動きを読まれてしまい、後ろへと回避した直後、口からネット状の糸を吐き出されてしまい、咄嗟の事に反応出来ずいた。
それを吹き飛ばすような強風が吹き荒れ、その糸に捕らえられず済む。
「気を抜くな」
どうやら、扇子丸が風で反らしてくれたらしい。俺は一先ず、「はい」と返事をして、構えを取り直す。相手は千年もの封印されていた相手なのだ。それがアイツより遅くても、強敵なのは変わりがない。
扇子丸は自身が持っている扇子を振り下ろす。すると、地面を裂くような突風、風の凶器、鎌鼬が相手へと襲い掛かるも、それを右へとかわし、連続的に襲い来る鎌鼬を次々と回避していく。
気が付けば、俺達の目の前まで迫ってきており、扇子丸の鎌鼬を目の前で避けてしまい、扇子丸へと相手の爪が襲い来る。
それを俺は横から突きを繰り出すもやはり、後ろへ引いて回避されてしまう。
「■■■■■■■■■」
動きを止めたと思いきや、蜘蛛の妖怪である相手は口から大量の糸を吐き出した。
「ちょこざいな!!」
そう言いながら、扇子丸は扇子を一振し、竜巻を引き起こし、吐き出す糸を剥ぎ取る。
「これは......」
しかしながら、気が付けば、周りは糸を張り巡らせられており、ドーム状の糸で出来た大きな檻の中へと閉じ込められ、先程まで姿のあった相手の姿は消えてしまっていた。そして、頭上からネット上の糸が落ちてきているのに気が付いて、俺と扇子丸は横へと回避した直後だった。
「くっ!!」
扇子丸は上から降ってくる糸の他に上からぶら下がって降りてきた相手から吐き出される糸に捕まってしまい、身動きが取れない状態になってしまった。
どうやら、相手は頭上に気配を隠し、身を隠していたようだ。
続いてい、俺の方へと標的を変えて、捕捉する。口から糸を吐き出すもそれをかわす。次々と吐き出される糸をどうにか回避するも、俺の横に一本の糸が糸の檻の壁へと張り付いたと思った次の瞬間、相手は勢いよく、飛びか掛かる。
それに対して俺は距離を取る。構えは崩さず、相手に刀を前へ向ける。
一歩、踏み込んで循環させている力を両足へと向け、駆け出した。一瞬にして景色が流れ、剥き出し刃をあの蜘蛛へと突き出した。これは天狗の秘技、『駆跳隠』の内、『駆』の技、天狗の縮地である。完成には程遠く、それでも、俺にとって最適な選択肢だったと思える。
しかしながら、その突きは横へとあっさりと回避されてしまい、刃は届かず、回避された直後に相手の鋭爪が襲い来る。
その襲い来る中の事、糸で作られた壁が炎によって焼かれ、中へと噴き出すようにして破壊されてしまい、蜘蛛の妖怪へと襲い掛かる。
姿を現したのは薪君であり、自身が破壊した壁から相手が作った糸の檻へと侵入する。
「...悪い、遅くなった」
そうポツリと、謝罪の言葉を口にするも、彼の目付きが鋭くなり、本人自身、怒っているように見えた。
相手はというと、自身が吐き出した糸によって盾を作り出して、炎を防御し、相手には届いておらず、無傷でいる。
彼は相手を指差す。その指差した直後に炎の奔流が盾ごと、飲み込むも、相手には当たらず、頭上へと糸を伸ばし、回避する。
相手は相手で、糸を撒き散らそうとするが突風が吹き荒れて、照準が定まらず、続いて、鎌鼬によってぶら下がっている糸を切られてしまい、落下してしまった。
落下する相手に対して、薪君は容赦なく、炎柱を真上へと噴き出させ、蜘蛛の妖怪を飲み込んだ。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
悲鳴が聞こえ、悶え苦しむ様子が伺えるものの、その炎柱の中から身を焼かれながら飛び出してきた。
どうやら、まだ図太く生きているようだ。
飛び出してきた蜘蛛の妖怪はちょうど、俺の目の前まで飛び出してきており、俺はそれに対して、刀を納刀し、駆け出すと共に自身の最速を繰り出し、胴体を真っ二つへと切り裂き、地面へと崩れ、未だ燃える炎によって身を焦がし、ようやく絶命した。
俺自身、安堵してしまったのか、黒く焦げ付いた地面へと崩れるように座り込む。
「......疲れた」
本音を言えば、これである。緊張が張り巡る戦闘と鬼神寺の修行の疲労は未だに取れていないのだ。疲労困憊というのはおそらく、この事なのだろう。
ともかく、一先ずは仕事を終えた訳で帰ってしまえば、休む事が出来る訳だ。
「妖刀、へばっているな」
そう声を掛けてきたのは大天狗の扇子丸だった。彼はどうやら、あの糸から解放されたらしい。そうでなければ、あの突風も鎌鼬も放つ事は出来ないだろう。
「しっかりと休息を取るといい。疲れただろう
それと、まだまだではあったが、勇ましかったぞ。それでこそ、火葬士の倅の付き人だ」
そう労いの言葉を掛けられるも、疲れてしまった俺は返す言葉なんて思い付く事なんてなく、「そりゃ、どうも」と短く、言葉を返す。
前当主である鬼条焔というと傷は浅いようで烏天狗達の手当てにより、割りと元気そうしていた。
「無事か?」
そう駆け付けるようにして、話し掛けてきた男が一人。無精髭にスーツ姿、赤いネクタイが特徴的でオールバックの髪型のせいか厳つく見えてしまう。
「遅いわよ。皆、片付いた後、それで現当主なのかしら?」
そう辛辣な言葉を焔さんは彼へと言葉を投げ掛ける。
「...ああ、悪かった。確かに現当主、失格かもな
それより、見ない内に成長したな、薪」
「親父......、駆け付けるのが遅い。物を壊した時には怒る癖して、父親面するなよ」
そして、自身の父親に対して、投げ掛けた言葉も、辛辣な物だった。
別に彼自身、自分の父親を嫌っている訳でもないのだろうが、多少の恨みはあるようだ。
今日一日は終わり、帰宅した俺達は何一つ騒ぐ事もなく(普段から騒ぐようは事はしていないが)、訪れた休息に体を休ませた。
◇◇◇◇
「篝、もう一度、考え直したらどうかしら?」
畳のある居間にて、焔と篝は顔を合わせて、向かい合っていた。
「考え直す必要はない。薪じゃ、出力不足だ。後継者は灯で、変える必要はない
灯の秘めた力は俺をも凌ぐ。火葬士の一族にとって最強の矛になり得る存在だ」
「はぁ......、篝、あなた、何も知らないのね
あの子は確かに大きな力を持っているわ。だけど、それをコントロール出来ているのかというと、そうじゃないわ。あの子だって、分かってる筈よ、自分の力がコントロール出来ていない事ぐらい
過ぎた力を手中に置きたいんでしょうけど、もう少し子供達の事を考えたら、どうなの?」
「それなら、私に考えがある」
そう言われたとしても、彼女は不安でしかない。
そして、彼は何がなんでも次男を後継者にするつもりでいるらしい。
この後、待ち受けるのは、おそらくは波乱な物。それは野望とは程遠い物ではあれど、安定しない土台を立とうとしているのに過ぎなかった。
溜め込んだ物は出し切った...。納得はいかないけど、とりあえず、一区切り。
また、執筆したら投稿します。




