二十二話
俺はベッドの上で目を覚ました。
枕元には一本の刀が置かれており、霊力、妖力共に感じるものの、彼女は未だに目覚める事はなかった。
凶霊災は一昨日に終わってしまった。あの後、大天狗様からのありがたい説教を受ける事になってしまい、ばあちゃんからも、叱られてしまうという結果が待っていた。
無理をしてしまったせいで、傷が開いてしまい、二日、退院する期日が延びてしまった為に現在もこうしてベッドの上に寝転がっている現状にある。
コンコンと、ノックされる音が聞こえ、「どうぞ」と応える。入ってきたのは岸辺さんだった。
「体調はどうですか?」
岸辺さんからそう尋ねられ、「大丈夫です」と返事をする。別に痛いという感触はない。
「岸辺さんの方は大丈夫でしたか?」
「ええ、私の方は大丈夫でしたよ。それより、彼女の方は...」
「まだ、起きてないですよ。大分、無理させてしまったようなので、疲れてるんでしょう」
一昨日のあれは何だったのか、分からない。ただ、あれは彼女の明確な意志がそこにはあった。俺との一体化したような感触があったものの、あの時の彼女は意識を失っていた。だから、実際に考えてみると、普通にあり得ない事なのだ。
「そうですか...。また、来ますね。こう見えて、割りと忙しいので」
そんな訳で彼はすぐに帰ってしまった。まぁ、確かに彼だって働いている筈だ。社会人である以上は働かなければならない。どういう職業に就いているのかなんて分からないが、霊媒師で食っていける程、現実は甘くはないのだろう。
俺は彼女の本体である刀を抜いてみる。そこには鏡面のような刀身で、傷一つなく、出来た傷も跡がなくなってしまっていた。
彼女の能力は破壊されても修復するという性質を持っている。それ故にしぶといといった感じの印象を受けていたが、それでも、刀である彼女でも疲弊はあるらしい。
だから、こうして眠りに就いている訳だ。それでも、少し長いようにも感じてしまう。
俺は抜いた刀を鞘へと納め、枕元に置き直す。今、こうして入院している訳で、やる事はない。それなら、大人しく休養しておくべきなのだろう。それは彼女にとって、必要な事である。大きなダメージを負って、酷使させられたのだ。彼女には十分に休んでから起きてもらいたいものだが、このまんま、起きませんでしたって事にはならない事を信じておきたい。
岸辺さんが去ったすぐの後の事、再び、扉がノックされる音が聞こえた。入ってきたのは岸辺さんと、斎藤と天崎だった。
「再び、失礼します。ご友人の方がお見舞いに来られましたよ。それでは私は」
そう言い残し、そのまんま岸辺さんは去ってしまう。
「鬼条さん、本当に...入院しているんですよね?」
天崎からそう尋ねられてしまう。疑問を持たれるのも当然だろう。
医師や看護師でさえ、俺の事を認識していないのだから。この院内で俺の事を認識しているのはとある看護師一名ぐらいだろう。
「あぁ、入院してる。色々と説教されたけど、大丈夫だ」
「説教......ですか?」
「.........無茶しないで下さい」
斎藤は苦笑いして、そう言う。斎藤は俺がどういう状況に置かれていたのか、知っているのだろう。
「それより、刄さんは......」
「眠ってる。無理させたからな、無理に起こすのは野暮だろ」
「そうですか...。まぁ、その内、目を覚ますでしょ。本体からしっかりとした力を感じますから」
「そうか...。それなら、いいんだが...
そんな事より、ただ見舞いに来ただけじゃないんだろ」
何やら、暗い気配が漂っている。それは決していいものではない。何か憑かれていると考えた方が良さそうだ。その対象は斎藤から感じるものだった。力を持つ人間は憑かれやすい。斎藤の場合は出会った当初より霊力が増しており、そして、微量ではあるが妖力さえ感じさせる。どうやら、覚醒しつつあるようだ。
「斎藤、何に憑かれてるのか分かってるのか?」
とりあえず、そう尋ねる。暗い気配を感じるものの、姿が見えない。それでも、気配はやはり感じる訳で、それを辿ると斎藤から感じる訳だ。だから、やはり、取り憑かれているのは斎藤なのだろう。
「そうですね...。取り憑かれてるのは俺です」
そう言って、くるりと回って背中を向ける。そこにあったのは人の頭に何本かの蜘蛛のような足を持ったこの世の存在ではないおぞましい何かだった。
「何かいますか...?」と尋ねられ、「ああ...」と応える。どうやら、本人は気付いていたものの、背中に張り付かれてしまっていたせいで、視認出来ていなかったようだ。
「今、祓ってやる」と口にした途端に、そのおぞましい存在は飛び出してしまい、壁をすり抜けて、どこかに去ってしまった。
「気持ち悪っ!!」
逃げ出した相手を斎藤も見てしまったせいか、そういう反応をする。それもそうだろう。あんな姿はこちら側の世界では存在する筈がないのだから。
「逃がしたか...。追い掛けないとな」と口にした直後の事だった。
「薪君は安静にせんといけんじゃろ」と声が聞こえ、目をやるとそこにいたのは刄さんの姿があった。
刄さんは「んー...」と背伸びをして、長物袋に入った自身の本体を背負い、「おはようさん」と口にする。そんな姿を見て、少しながら安堵する。
「刄さん、大丈夫なのか?」
彼女に対して、そう尋ねる。彼女とて無理をして、無理をさせた訳なのだ。そんな無理が祟って、長い間、眠りに就いていた。だから、目覚めたばかりなのだから、無理をするべきではないと思う。
「おきよーって...、呼ばれたような気がしたんじゃけど、多分、そういう事なんじゃろうね」
そう彼女は俺を見てそう言った。それがどういう意味を指しているのか分からない。夢でも、見たのだろう。どういう夢を見たのかは定かではないが、彼女はやれやれ、といった感じで俺の方を見ていた。
「世話になりっぱなしじゃ。何も返せんかったけど、そういうのはいらんのんじゃろうけど......。やっぱしなぁ...」
そう彼女はため息を吐く。何に浸っているのか、分からないが、彼女の見た夢は自身の過去に繋がる物でもあったのだろう。
「とにかく、薪君は、安静にしときよ。こういうのは俺と斎藤君に任せとけばええけぇ」
そう彼女は言って、斎藤は「俺!?」と驚いたような反応をし、「いや、俺、何も役に立ちませんけど...」と口にする。確かに戦力面で彼は役には立たない。足手まといのようにも感じる。それなら、俺が行った方が良さそうだが...。
「何を言うるん。自分で持ち込んだんじゃけぇ。ちぃたぁ、役に立たんと意味がないじゃろ」
そう言って、彼女は彼の手を引っ張って、そのまま、病室の外へと出ていってしまい、「えぇー...」と不服の様子で、「それと安静しとくように」と言葉を残していった。
そんな訳で俺と天崎は病室に取り残されてしまった。
「悪いな、見舞いに来てもらって...。斎藤に聞いたのか?」
大方、そうなのだろう。彼と彼女は同じクラスで顔を合わせる程度には知り合いな筈で、話をするぐらいあるだろう。
「その、鬼条さんが怪我をして、入院してるって、又三郎さんに話を聞いて...」
成る程、そっちの方か...。猫にも猫なりの情報網があるのだろう。凶霊災はこの全域で起こった事でもある訳なのだ。それに動物というのは、そういう物に敏感だったりする訳だし、情報が回ってきたとでも考えておけばいいのだろう。
「そうか...。その猫又は元気にしてるのか?」
「はい。今はシロにご執心みたいで、毎日、うちに来てますよ。シロはシロで遊び相手が出来て、喜んでるみたいですけど」
「あれから何もないのなら別に構わない。何かあれば、話し掛けてくれ。解決出来る事なら、尽力する」
それが火葬士としての役割だ。依頼を受ければ、仕事をするし、困ってる事があれは手を貸す。それが俺にとって当然な事だった。
「それなら、一つ、鬼条さんにお願いがあります」
「お願い?」
困ってる事でもあるのだろうか?
「今度、私と付き合ってください。お礼も何も出来ていないので」
「別に礼なんかいい。礼が欲しくて、やったんじゃない」
「それじゃあ、私の気も晴れないので、付き合ってください。それに私としては鬼条さんともっと、仲良くなりたいんですよ。ダメ...ですか?」
彼女は俺の顔を覗くように、そして、接近して、そう尋ねる。そのせいか、彼女の顔が目の前にある訳で、どういう顔付きをしているのか分かってしまう。
中性的で整った顔付き、少年のような短い髪型に、話を聞く限りでは女子にモテているそうだが、何となく納得いってしまう。
「分かった」と思わず、ため息を吐いて、了承してしまう。彼女が礼をしたいと言っているのだから、無下にする訳にもいかない。
「やった」と彼女は静かにそう言う。その姿を見る限りでは、外見に反して、女子らしいと思ってしまう。仲良くなりたいと言われたのは、初めてだったかもしれない。幼い頃は積極的に同年代の相手と遊んでいた訳で、昔はこの体質の影響はなかった。自身の体質が顕著に出てき始めたのは小学に上がってからで、その時から俺の存在は周りに認識されなく始めた。だから、俺は嬉しいのかもしれない。
「それにしても、デートだなんて初めてだな...」
異性に誘われた事は全くない。まぁ、人間の友達だなんていた試しがないのだから、仕方ない。
「そうですね。デートです。楽しみにしていて下さい」
そう彼女ははにかんで応える。
そういう訳で、俺は彼女とデートへと行く約束を取り付けられてしまった。デートという物がどういう物なのか分からないが、とりあえず、楽しみにしておこう。
◇◇◇◇
現在、薪君と天崎星野は病室にて二人きりである。意図的にそういう事をした訳ではあるが、上手くやれてればいいが、と願うばかりだ。
まぁ、俺には関係無い事だし、それ以上の事は出来ないし、踏み込むつもりもない。
それよりも、逃げてしまった相手の仕留めるのが先決だ。あれは害を成す類いの悪霊だ。気配を追って、ぶっ刺せばすぐに終わるだろう。
「刄さん、大丈夫なんですか?」と不意に斎藤から尋ねられる。何が大丈夫なのかと尋ねられたのか分からないが一先ず、「大丈夫じゃけど?」と応えておく。俺は長い間、寝ていたような気がする。どれくらいの時間が経過したのかも分からない。それにあの時に力尽きた事も、当然ではあるが覚えているが、あの後、どうなったのか分からない。ただ、あの濃い気配も感じないようだから、きっと、凶霊災は終わったのだろうと俺の中で結論付いている。
「それより、斎藤君の方こそ、大丈夫なんかねぇ。少し顔色が悪いど」
少しながら、彼の顔色が悪い事に今更ながら、気が付いた。きっと、あの悪霊に取り憑かれていた影響が出てきたのだろう。少しながら、霊力に乱れが生じているのも、それが理由だろう。
「大丈夫ですよ」と彼は言うものの、少し休ませた方が良さそうだ。とりあえず、そこら辺の椅子に彼を座らせ、休ませる。病院で倒れてもらっても困る。
「斎藤君、ごめんよ。体調悪いの、気が付かんかった」
「いえ、俺が連れてきたんで...」
そう言うものの、気付かなかった俺に非がある。
「刄さんは元は人間なんですよね」
急にそう尋ねられ、「ほうじゃけど、あんまし、話せるような事はありゃせんよ」と応えておく。俺自身、話せる事はあんまりない。別に薄い人生を送ってきた訳でも、濃厚な人生を送っていた訳でもない。ただ、話したくない事が多くあるだけの事だ。
「別にそういうのは聞こうとは思いませんよ。ただ、そうなってしまってから、困ったりとかしなかったのかなって...」
「そりゃ、困ったし、どうすれば良かったのかも分からんかったよ。じゃけど、俺は運が良かったって思ってる」
「運が......、良かったですか?」
「悪い方向にいってないんじゃったら、運が悪いんじゃなくて、運がええ方じゃろ?
こうして、薪君にも出会えて、斎藤君にも出会えて、居場所も出来た
それに今、ここに俺があるのも、別に悪い事じゃないけぇね」
「前向きですね...。俺なら、そんな風には考えられないけど...」
「そうかねぇ?そんなん、簡単じゃろ。それに前を向かんと前には進まんし、俺とて前に進んどる実感はありゃせんけど、じゃけど、くよくよ悩んだとて何も解決せんけぇね」
人生は笑い飛ばせるのなら、まだまだ、前に進める。俺に何が出来るかなんて、分からないが、とりあえず、俺はそう考えるようにしている。
「ほれ、多少は回復したじゃろ。さっさと動いて、さっさと終わらせようや。たいぎー事はちゃっちゃと終わらせるに限る」
多少、顔色が良くなったのを確認して立ち上がる。あの気配はどっちに向かったのか、見失ってしまっていた。もしかしたら、もうここにはいないのかもしれない。
「どっちに行ったんかねぇ...」
気配が消えてしまっている以上、探しようがない。
「それなら、あっちに行ったみたいですよ」と斎藤が指差す。その方向というのは廊下の行き止まりで、そこにはあの不気味な姿の悪霊が壁にへばり付いており、こちらに気が付いたと思うと「■■■■■■■■」と奇怪な鳴き声を響かせる。
俺は刀を抜いて、相手へと向ける。そこから妖力を伸ばして、串刺しにしようとするも回避されてしまう。あんな不気味な姿をしている癖に素早い動きが出来るようだ。
この場で相手を逃がす訳にもいかない。逃げられてしまえば、また探さなければならない。
呼吸を一つ、精神統一をして、自身の力を循環させる。こんな相手に遅れを取る訳にもいかない。
足に力を回し、相手に向けて駆け出し、相手はこちらへと飛び掛かる。そんな相手に対して、刃を向けて、真っ二つに切り落とす。そうして、相手は動かなくなってしまった。一先ずは片付ける事が出来た。
「それにしても、よぉ分かったね」
俺でも気付かなかった。相手は気配でも隠していたのだろう。それを彼は見付け出してしまった。彼はそういうのに対して、才能があるのかもしれない。
「修行の賜物です。最近じゃ、意識すれば何がどこにいるのか感じ取れるようになっちゃって...、便利かどうか分からないけど
そんなのにより、鬼条先輩や刄さんみたいに戦えるようになれた方がいいんですけど」
「戦う力ねぇ......、そういうの、俺はよぉ分からんけぇね。俺の場合は刀として転生しただけじゃし、最初からあったモンじゃけぇねぇー...」
だから、力が欲しいと言われても、どうこう出来ない。はっきりと言ってしまえば、「うん、無理」と応える事しか出来ない。そもそも、他人に力を教えるような事が俺には出来ないし、俺は妖怪の類いなのだ。だから、人間である斎藤が力を使うとするのであれば、もっと別の人から教わる必要がある。
「まぁ......、そうですよね」
「とりあえず、薪君にでも、尋ねてみればええんじゃないかねぇ。そういう方面に俺より詳しいのは薪君じゃろうけぇね。それに人間の身で妖怪に立ち向かおうた人はおったじゃろ?」
鬼神寺のドラ坊主。ボクシンググローブを手にはめて、自身の妖力を溜めて、相手を殴り飛ばす。そういうスタイルで彼は戦っていた。それに人間でも妖力を宿す事が出来るらしい。それよって、力を発揮させる事が出来る訳だ。個人的には薪君よりも彼に尋ねた方がいいようにも思えるが...、そう言えば、寺にはいない状況だったな...。それに寺を継ぐつもりもないせいか、中々、戻ってこないとも住職が嘆いていた。
「あの人の場合......、というか例に上げるべきじゃないと思うけど」
「そうかねぇ...。あの拳にゃ、ちゃんと力が込もっとったけど?まぁ、とりあえず、薪君にでも尋ねてみればええが。俺じゃ、そういうのを教える事は出来んけぇね」
「どうだ、済んだか?」と薪君から尋ねられ、俺は「斎藤君のお陰で、どうにか終わったよ」と応える。
「そんな事より、どうじゃった?」と彼女へと視線を向けて、言ってみる。気を使って、退場したのだから、少しは進展があったと思いたい。そうでなければ、彼を連れて病室を出た意味がない。
「それはその...」と何やら、言いにくそうにしている。どっちに転んだって、俺にとってはどうでもいい事だが、彼女に対してストレートに聞くのは不謹慎だったかもしれない。
「...よぉ、分からん。ま、いっか。とりあえず、奮闘しぃよ。俺は援護する事は出来やせんけぇね」
「刄さん、それはどういう...」と唐変木がそう口を開く。まぁ、俺も彼と同じような物ではあるが、「そりゃ、俺に聞くよりか、こっちに聞いた方がええんじゃないかねぇ?」と応えておく。
これは俺が言うべき事でもないし、彼女の事でもあるのだから、彼女がどうにかするべき事だ。
「天崎さん、これはどういう事なんだ?奮闘って、まだ何か困ってる事でもあるのか?」
そう尋ねる彼に対して、彼女は顔を反らしてしまう。
「それはその...、何でもないです」
唐変木って、主人公補正にあったっけ?何て、メタ的な事を考えてしまうも、そもそも、彼にはそういうのは似合わない。まぁ、彼の場合は体質のせいもあって恋愛的な事に関して、疎い面があるのは仕方がない。だから、彼女にはガンガン、彼に対して攻めいってほしい。そうすれば、いずれは彼とて気が付くだろう。
「何でもない...か。それなら、いいが...。何かあれば、言ってくれ」
何でもない訳がないのは言うまでもない。何かあるのだから、ああして彼女は顔を背けてしまったのだが、それに気付く気付けないの話は放っておく事にして、というよりも彼女にとってライバルがいない訳なのだから、時間を掛ければ、彼を落とすのも確実だろう。そうすれば、彼も安泰だ。
◇◇◇◇
鬼条先輩の見舞いの後の事、俺は天崎さんと一緒に帰路へと着いていた。
「鬼条さん、元気そうで良かったね」
そう彼女は口を開き、「それと残念だったね」と慰められていた。
結論から言うと「お前には無理だ」と言われてしまった。いくら存在を感じられるようになったからとはいえ、思い上がり過ぎたのかもしれない。それでも何か力になりたいと思うのは間違いじゃないと思う。
そもそも、俺は鬼条先輩のように先祖代々から受け継いできた力がある訳でもない。
「しっかりしなよ、蓮」と天崎さんに言われて、「分かってる」と言葉を返す。
「そんな事よりさ、天崎さんは鬼条先輩とはどうなの?」
気を取り直して、気分転換を図る。どうやら、彼女は鬼条先輩の事が気になっているようだ。それは恋愛的な意味でというのは間違いない。
「どうって......、何が?」と彼女は誤魔化すように、そう言う。ここ最近では、人の霊力の揺れという物が俺には見えるようになってきた。昔から霊力が強い方でよく見えていたのだが、最近では生きている物の霊力の変化というのが見る事が出来るようになってきた。そして、その霊力は感情の変化と共に霊力も動きを見せる訳で、詰まる話、今の彼女は平然を装っているが、内心、動揺しているというのが丸見えだ。だから、どういう訳で彼女が俺を病室の外へと一緒に出たのかも分かっている。
「別にいいんだけど、多分、あの人、手強いよ。あんまり、物事には動じないし、一番、近い所には刄さんだろうからね。ま、でも、あの人も鬼条先輩の事を友達のようにしか思ってないみたいだから」
「いつから、気が付いてた...?」
「つい、最近だけど?」
「はぁ......。誰にも気付かれてないと思ってたのに...。まさか、蓮なんかに気付かれてたなんて...」
なんかは、余計じゃないか?なんて思いつつ、とりあえず、質問してみる事にした。
「気になり出したのはいつからなの?」と彼女に尋ねると、「おじいちゃんの事で、お世話になった時かな」と応える。
「おじいちゃん?でも、天崎さんのおじいさんって亡くなって...。あぁ...、そういう事ね」
何となく察しが付く。きっと、そういう事なのだろう。そう勝手に納得しておく。
「その反応は何なの?何か、納得がいかないんだけど」
そう彼女は不服そうに言う。仕方がない。大体は予想が付いてしまうのだから、こればかりは不可抗力でしかないのだから、許してほしい。
「まぁ、でもライバルとかいないんだし、デートでも誘ってみれば?」
恋愛経験がない俺からすれば、何一つとしてアドバイスは出来ない。何せ、根暗な陰キャなのだから、陽キャのする事がよく分からない。
「デートね...。うん、頑張ってみる」
そう彼女は笑ってみせる。
彼女の事は友達のようにしか思っていない。それは昔も今も変わらない。彼女がここに転校してきて、初めはスカートをはいた男子が転校してきたとおもったものだが、女子だと聞かされた時は驚いたものだ。彼女とは最初に話し掛けられ、数少ない友達となった。男女共に交友は広く、俺となんかとは比べ物にはならず、それでも俺なんかに声を掛けてくれる数少ない生徒だった。そんな彼女が恋をした。それも俺が慕う鬼条先輩とだ。応援しない訳にもいかない。
「鬼条先輩と付き合えたらいいな。じゃあ、俺はここら辺だから」
そう言い残して、俺は彼女と別れた。
◇◇◇◇
まさか、蓮にバレているとは思いもしなかった。何をどうやって、知ったのか分からない。鬼条さんが好きという事は刄さんぐらいしか話していない。それがどういう訳か、蓮にバレてしまっていた。もしかして、彼女がポロリと喋ってしまったのかもしれない。そんな事はないと思いたいが...、疑念を向けた所で意味がない。どちらにせよ、応援してくれると言ってくれているのだから、とりあえずは信用しておこうと思う。
「星野殿、今、帰りか?」とそう声が聞こえ、目をやるとそこには猫又である、猫柳又三郎さんがそこにはいた。今日もウチんちへやって来て、シロの相手でもしてくれたのだろう。
「うん、今から帰りだけど?」
「そうか...。気を付けて、帰ってくれ。そうでなければ、彼女も悲しむからな
それに少し前までは危険な気配が漂っていたからな。何がどこで起きるかなんてわかったモンじゃない」
「ありがとう、又三郎さんも気を付けてね」
「待て待て、星野殿は」
そう言われて、足を止めて、「何?」と尋ねる。
「星野殿はあの火葬士の倅に恋をしておるな?」
「.........何で知ってるの?」
もしかして、私の情報って世界全体に行き渡ってて、プライバシーとかそういうのなかったりする?それなら、凄く恥ずかしいんだけど...。
「猫の情報網は色々と侮れないからな。どこで聞き耳を立ててるか分かったモンじゃない。それに人間というのは油断し過ぎている」
「えっと、...つまり、猫達には知られてるけど、他の人とかには知られてない?」
「猫の言葉を知る人間などおらぬだろ。もしも、情報が流れるとしたら、人語を喋れる猫以外しかおらぬだろ」
「そうなんだ...」
それを聞いて私は少し安堵するも、蓮が知っているのは何故だろうか?そんな疑問が出てきてしまうも、意外と直感でそう言い当てたのかもしれない。
「それにしても、よりによって火葬士の倅とは、星野殿は物好きなのだな」
「まぁ、悪い人じゃないし、それに凄くいい人だよ。多分、これが好きって感情なんだなって」
「そうか...。それなら、止めようがないな。それにシロ殿とは仲良くさせてもらっているからな。応援をしようじゃないか」
「うん、ありがとう」
「ではな」
そう言い残して、又三郎さんはその場を去ってしまった。
◇◇◇◇
「薪君はさ、天崎さんの事をどう思ってる」と二人が帰った後の事、俺は薪君にそう尋ねていた。
「どうって...、どうとも思ってない。そんな事を聞いて、どうした?」
脈なしか...。どうとも思っていないと聞くと少しながら、残念と感じてしまう。出来れば脈があってほしかったが、そういう訳にはいかないようだ。
「いんや。何でもないよ。ちゃんと報われてほしいなって思ってさ。余計な事せんようにしとかんとね」
「だから、何の話だ?」
「気にせんでええよ。俺には関係ない話じゃけぇね
それよりさ、斎藤君の本当に無理そうかねぇ?」
「確かに妖力は微弱ながら感じたけど、あの程度だけなら、意味がない。力っていうのは、しっかり発揮出来るようになってから意味を成すんだ
それは刄さんだって、よく分かっているだろ」
それはそうだが、「お前には無理だ」だなんて言われた彼のガックリときた姿は何となく可哀想に見えてしまった。
「薪君がそう言うのなら、しょうがない...。諦めてもらう他ないか」
「まぁ......、方法は無くもないが、それでも、斎藤にはそのまんまでいてほしい。無理に危険な目に会いに行かなくてもいいだろ」
だから、彼は「無理だ」と言ったのか。それならば、彼でも力を得る事は出来る。考えた方が良さそうだ。確かに彼の言う通り、自ら危険な目に会いに行く必要もない。それに過ちを犯してしまうかもしれない。そう考えるのであれば、力を手にするのは危険と考えた方がいいのかもしれない。
「そういう訳なら、しょうがないか」
そう言う事ならば、わざわざ、力を手にする必要もない。そういう事ならば諦めてもらおう。




