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二十一話


 あの狂気、狂喜の笑みを向けてくる糞野郎が私の前に立っていた。彼の名前、月代残影。かつては人間として生き、今は修羅へと堕ちた悪霊である。そして、萌さんと薪に怪我を負わした張本人である。


 「老いたね、前当主。だけど、衰えてはいなさそうだ」


 そう彼は口を開く。それに対して、私は


 「あなたは相変わらず、頭がイカれているわね」


 そう言葉を返す。私はコイツを殺す気でいるし、許す気もない。生かしておいて得する事なんてありもしない。

 空は未だ暗く、時刻は丑三つ時。場所は人気のない道路で、人が通る様子もない。

 相手に対して、炎を走らせる。範囲は抑え、それでも温度は抑えず、地面にコンクリートに焦げ目を付けて、目の前に向けて、襲い掛かる。

 それを軽々と回避したと思った瞬間に私の目の前まで距離を詰めてきている。そんな相手の顔面に爆炎を生じさせるも、後ろへと飛んで回避されてしまっていた。


 「やっぱりだ。俺が思った通り、衰えてる所か、激しくなったね。あの泣き虫だったのが、嬉しいねぇ。こんなにも殺し甲斐のある奴に成長するなんてね。感慨深いものだねぇ」


 そう口にして喜んでいるように見えてしまうのが気に食わない。


 「そんなに喜んでもらえるのなら、さっさと死んで下さる」


 私は相手に文句を口にして、訴える。


 「それはお前の腕前次第だよ、鬼条焔

 地獄で亡者共とじゃれ合うのもいいけど、まだまだ早い。まだ面白いのが残っているだろ?」


 笑みを浮かべて私を見ている。それが誰を指しているのかは大方の予想が付く。

 彼とは昔から因縁がある。それは私の代からではなく、もっと前からの話だ。いつから鬼条家と面識を持つようになったのかは分からない。ただ、殺すべき対象なのは今も昔も変わらない。害を成すだけの存在に意味なんてない。

 炎柱が彼の足元から噴き上げるも、回避され、移動した方向へと新しく炎柱を噴き上げさせる。それを連続的に繰り返して、次々と連発するも悉く、回避されてしまい、時折、小さな爆炎を繰り出すも赤い刃で炎を斬り伏せて、道を作る。

 ここで大きな爆炎を引き起こす事は出来ない。何故なら近くに住宅があるからで、関係のない人達を巻き込む訳にはいかないからだ。


 「駄目だよ。被害が出るかもなんて、考えてたら、俺なんか殺せないよ。時には小を殺して、大を得なくちゃ。じゃないと、目標なんて達成出来ない」


 そう目の前の相手はもっともらしい事を言うが、分かってて言ってるのが分かる。お前には周りを巻き込んでまで俺を殺す度胸がないとでも言っているのだろう。

 「下道」と思わず、そう言ってしまうも、「いや~、それ程でも」とわざと照れたように見せる。いちいち、腹が立つが気を荒立てるなんて、やってはいけない。相手を仕留めるのであれば、いつだって冷静にいるべきなのだ。


 「ごめんなさいね。私、そこまで器用じゃなくて、不器用だから」


 そう言って幾つかの炎柱を出現させ、彼、目掛けて襲わせる。それを今度は自身の手にしている刃で斬り伏せて、対処する。あの刃に妖力を振り払う力があるようだ。


 「不器用ねぇ~。その割には夜の営みは上手くやってたみたいだけどな」


 そう言った直後、爆炎を放つと同時に回避する方向へと火球を放つ。爆炎はやはり、回避され、避けた方向へと誘導へと成功するもその火球は相手の赤い刃で切り裂かれてしまった。

 「口が過ぎるわよ」と釘を刺すも...、


 「そりゃ、光栄だね。さぁ、俺を殺してみろよ。小娘」


 やはり、私はコイツの事を好きになれない。人を嗤い、血に飢え、強者を求める。自身が死ぬ事なんて恐れておらず、戦いに喜びを見出し、強者に勝ち、殺す事に喜びを見出だす。

 そろそろ、本気を出すとしようじゃない。力を抑えていては目の前の相手を倒す事が出来そうにないわ

 周りの空気を一気に熱し、空間がゆらゆらと歪み始める。それと同時、前方全域へ細かい爆炎を引き起こすも、私の真上に相手の妖気が出現する。

 見上げるまでもなく、私の真上に相手の刃が振り下ろされるのが分かる。

 私の周りを守護するように炎渦(えんか)が回り、自らを守る。その渦を切り裂いて、私の目の前にアイツの姿が現れるも、先程の細かい爆炎が襲う。


 「あっついねぇ~~~!!好きだよ、そういうの」


 爆炎を回避したのか、声が聞こえるも、その声は少し離れた所からで、どうやら、後ろへと跳んで回避したのだろう。相手は一筋縄でいくような相手じゃない。そんな事は分かりきっているけれど、ここまで極めてきた私が攻め切れないというのも腹立たしい事だ。


 「そう...。それじゃあ、もっと熱くしてあげるわ」


 「そりゃ、いい」


 歓喜に狂喜の笑みを浮かべ、駆け出す修羅に私は苛烈に業火を奮う。私は攻めきれず、相手は踏み込み切れず、不毛な攻防が続き、結局、決着は着かず仕舞いで終わってしまった。

 気が付けば、アイツは「もう、そろそろ、面白いモンが見える」と言い残して、この場から去ってしまっていた。

 「逃しちゃったわね」と、そう思わず、ため息を吐いてしまった。年甲斐もなく熱くなり過ぎてしまった。手加減なんてしていないものの、倒しそびれてしまったのは悔しいと思ってしまう。孫をあんな目に合わした相手を許しておける訳もないが、この歳じゃ追いかけるのも無理がある。


 「残念。私の負けね。今度、合ったらただ済ませないわ」


 今はそう認めるしかなかった。


◇◇◇◇


 遠くで遠吠えが聞こえたような気がした。先程まで漂っていた筈の妖気が一点に集中し、集まってきているのを感じる。おそらく、そこが中心地なのだろう。そして、そこから何かが目覚めてしまっている。それはとんでもなく力を溜め込んだ強大な存在。

 それが遠目からも分かってしまう。まさに化け物、怪物、その言葉では足りないような気がした。


 「ほんで...、行くんかねぇ、薪君」


 俺は恐る恐る、苦笑いを含めながら、薪君にそう尋ねる。


 「......あぁ、死にたくはないが、あんなのを放っておく訳にはいかないだろ」


 そう言う薪君の顔から冷や汗が流れていた。きっと、脅威を感じているのだろう。それは強大過ぎる相手から感じる圧による物であり、実力の差があり過ぎるからである。


 「駄目ですよ...。あんなの、勝ち目なんてある筈がないじゃないですか。行かないで下さい。行ったら、死にます。必ず、死にます。...だから、行かないで下さい」


 そう、薪君以上に冷や汗を流し、ガタガタと体を奮わせて、顔を青くしているのは岸辺だった。彼は恐怖にまみれてしまったのか、震えが止まる様子もない。ついで、目から涙さえ溢れている。


 「俺らは行きます。岸辺さんはここを守っていて下さい。これは火葬士の役目です」


 「はぁ...ああ~、死にたくないのぅ」と言いながらも、「それじゃあ、刄さん、残るか?」と言われてしまった。俺自身、そんなつもりはない。彼が、友が行くのであれば、行かない訳にもいかない。


 「いんや、行くよ。たいぎーけど、俺は薪君の付き人じゃけぇね」


 これは俺の強がりである。本当は怖いし、死にたくないし、痛いのも嫌だ。だけれども、取り残されるのも嫌だ。何も残らない状態で残されるのも御免だ。


 「止めて下さい。そんな、ヒーロー気取りなんて、格好が悪いですよ!!あなただって、本当は怖い筈だ。あんなの、あなた達の手には負えない

 自ら死に行くだけです。自己犠牲だなんて、格好が悪いだけですよ!!」


 そう彼から止められてしまう。


 「別に構いませんよ。元から格好悪いですから、俺は。俺は自分のエゴの為に生きてるんです。この力だって俺が誰かを助けたいから、磨いてるだけであって本当は意味なんてない

 それでも、繋ぎ止めるだけの事が出来るのなら、それは俺にとっての価値になる

 だから、俺は行きますよ」


 そんな事、俺には言えない。まるで漫画の主人公のような台詞だ。きっと、彼は俺の理想とする主人公(ヒーロー)なのだろう。そして、その信念は俺には抱き抱える事も出来ない。精々、友の為だと胸を張る程度しか出来ない。

 俺達は岸辺を置いて、この病院から離れる。彼は間違っていない。寧ろ、正しい。自身の実力を見誤っておらず、そして、無謀な事をせず、自分の出来る範囲の事を黙々とこなす。踏み出す事の出来ない正義が揺れても、強くある事は出来ないでいた。

 俺達は走って、力が感じる方向へと向かうも、


 「薪君、それ...」


 服から血が滲み出しており、どうやら、無理が祟ったようだ。


 「気にするな。まだ、動ける」


 「無茶せん方が」


 「いや、今だから無茶するべきなんだ。火葬士として全うしなくて、どうする」


 言っても、聞いてくれないのだろう。


 「分かった...。じゃけど、無理そうなら容赦せんけぇね」


 だから、俺はそう忠告を入れる。友を失う訳にはいかない。死んでしまっては元も子もない。

 そんな訳で俺は気を引き締める。力の循環を行い、意識を集中させる。周りに敵はいなくとも、油断だけはしないでおこう。それが今、俺に出来る事だから...。

 せめて、彼が死に臆病な性格だったなら、こんな行動はしなかっただろう。しかしながら、そうではなかった。立ち向かうのは決して悪い事ではない。寧ろ、良い事には違いないが、それでもこれは勇気ではなく、蛮勇に近い。

 勝ち目なんてないと感じるのは俺も一緒であり、無謀だとも思える。それ程に相手の存在は大き過ぎる。

 移動する際には悪霊達の姿は見えなかった。先程までウジャウジャといた筈だというのに、まるで嘘のように感じてしまう。

 中心地にでも集まっているのだろう。正確には引き寄せられていると言った方が正解だろう。

 そこにいるのは何者なのかは分からないが、決して良いものではない。悪い物の吹き溜まりのような存在、倒すべき相手だ。

 辿り着いたのは琴風高校だった。そこにいたのは見た事もないような巨体を持つ狼でそのサイズはグラウンドの1/3を埋め尽くす程度で集まってきている悪霊達を食らっていた。

 その巨体の狼だけではなく、あの男が一人いた。ソイツは金髪にホストのような格好をした男性であり、俺の刀身を砕いた事もある相手だった。


 「来たな、人間」


 そう彼は軽薄な笑みを浮かべ、指笛を吹かせると、遠くから遠吠えが聞こえ、あっという間に黒い狼達に囲まれてしまっていた。


 「我ら、皆殺しにされ、残った同族は獣の姿を捨てて、人の姿を望んだ」


 「それは生きる為の術。獣である事を悟られない為に牙を捨てた」


 「だが、それはもう仕舞いだ。同族達の目を覚まさせ、我らは地に帰る」


 「ようやく、悲願、ここにて叶う」


 再び、遠吠えが響き、周りからの殺気が俺達へと注がれる。彼らにとって、俺達は敵でしかない。故に殺すべき対象なのだ。


 「薪坊、何故、ここにいる。入院したのではなかったのか!!」


 そう駆け付けてきたのは三羽烏だった。


 「そうだぞ。血が滲んでいるじゃないか!!完治をしていないのならば、ここにいるべきじゃない」


 「ここは私達に任せて、帰れ。足手まといだぞ」


 そう言うも、「お前達じゃ、この数を相手し切れないだろ」と反論する。確かにこの場にいる相手の数は多過ぎる。こんなの相手し切れるとは思えない。

 それにそこにはあの金髪と得体の知れない巨大な狼がいる。

 そんな会話をしている隙を見逃す事なんてなく、狼達は襲い掛かる。


 「くっ、不意打ちか...!!」


 そう言って一羽は自身の持っている棒にて一撃を食らわせる。

 他の二羽の武器は棍棒と鎖鎌であり、それぞれによって扱う武器が違うようだ。

 薪君へと襲い掛かる相手は俺が斬り伏せ、遠くにいる相手に対しては薪君の炎によって仕留める。

 相手にする敵は大した事はなく、次々と始末していく事が出来る。そんな中、目の前を閃光が走る。それに対して、俺の刀身から妖力を伸ばすも、それを瞬時にかわされてしまい、手に雷電を纏ったあの金髪が襲い掛かる。


 「死ね、雑魚が!!」


 しかしながら、彼の目の前で爆炎が発生し、それを回避されてしまう。その避けた瞬間を逃さす、足に力を回して駆け出す。繰り出すは突き。後ろへと回避されてしまうも、追撃をするように刀身から再び、妖力を伸ばし、それが彼の胸を貫いてしまった。

 「ぐはっ」と吐血をする。それと同時に妖力が上昇していくのが分かり、そして、憎悪が増していくのが分かる。

 「あはははははははは」と狂ったように笑い、全身へと電気が流れ始める。


 「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す!!」


 剥き出しの殺意がこちらを見ている。目は赤く光りだし、頭から黒い耳が出現し、頬から体毛が生え始める。その様子からやはり、人間ではないというのが伺えてしまう。

 閃光が消える。その瞬間、俺は雷に打たれ、刀身が砕け、目の前を暗転とさせる。

 「はっ、死ね」と言葉を聞こえるも、ここで終わる訳にはいかない。崩壊しかけの肉体を根性で留め、刀の柄を握り締め、砕けた刀身に妖力を伸ばす。


 「まだ、終わっていやせんよ」


 苦悶を留め、吐き出すように言葉を口にする。


 「お前なんか、負けて堪るかよ」


 これはただの強がりだ。強がりだけで俺は全身へと力を回して、刃をくっ付けて、刀を振るう。それは回避されてしまうものの、刀身は完全に回復したものの、気を抜いてしまうとこの実体は崩壊してしまう。

 突如として目の前に黒い獣が現れる。それを炎が現れ、焼き払われる。


 「しっかりしろ!!」


 背後から声が聞こえる。

 あぁ、分かってる。そんな事、分かってると、そう内心で呟くも、あの雷ですでにボロボロだ。動くのだって、ギリギリで無理矢理に意識を保っている。剥き出しの刀を納刀し、構えを取る。力の循環させ、極限の状態にて意識を集中させる。

 向かうは目の前の相手、もう駆ける事は出来ない。周りの相手なんて気にしない。襲い掛かる狼達なんて、気を回す事は出来ない。そんな現状にて、炎が次々と黒狼を焼いていく。

 そんな中を歩いていき、


 「死に損ないが、足掻いてんじゃねぇよ...」


 閃光が消える。別に死に損ないでもない。ただ、意識が途絶えそうな極限状態の中、俺は見えていた。どういう訳か、相手の動きを認識出来てしまっていた。

 故に目の前に現れた瞬間に斬撃を繰り出し、カチンという音と共に刀を鞘へと納める。

 「あがっ」と空気を吸うように、苦悶に満ちた表情と共に胴体が真っ二つとなって、地面へと崩れ落ちてしまい、絶命し、ピクリとも動かない。

 それを見届けるのと同時に俺の意識は消え、「刄さん」という彼の声が聞こえるだけだった。


◇◇◇◇


 「刄さん」と声を掛けて、彼女の本体を拾う。

 彼女の姿が消え、残されたのは彼女の本体だけだった。それでも力の存在は残り、生きている事だけは確かだった。

 それに安堵しながら、彼女の本体を手に握り締め、「ご苦労様...。後は俺に任せろ」と労いの言葉を送る。きっと、彼女には届いていないだろうが、そんな事より、この場を片付けなければならない。

 次々に襲い掛かる相手を爆炎で蹴散らしていく。取るに足らないとはいえ、相手の数はとんでもない。


 「■■■■■■■■■■■■■」


 遠吠えのような咆哮が聞こえ、あの巨大な狼が乱入してくる。その狼は斬り殺された彼の死体を一口で飲み込んでしまった。それと同時に発光し始め、天へと目掛けて、雷を放ったと思うと、いきなり、空から雨が降り始めてしまう。それと同時にゴロゴロと空が鳴き、雷が降り注ぐ。

 その閃光は俺では避ける物ではなく、いきなり、誰かに後ろへと引っ張られ、グラウンドの外へと引っ張り出されており、グラウンドにいた筈の狼達に直撃し、立っている者は誰一人いなかった。


 「無事か!!薪坊!!」


 そう声が聞こえ、目をやるとそこには三羽烏がいた。どうやら、助けられたらしい。

 「あぁ、助かった」と感謝の言葉を述べる。あのとんでもない雷は俺では回避出来なかった。

 あの巨狼は自身の仲間である筈の狼達を雷で焼き払ってしまった。そして、その霊体を吸い込むように食らい、そうして、自身の力として取り込んでいく。


 「■■■■■■■■■■■■■■」


 多くを食らったというのに、まだ、足りないのか、目の前の相手は吠える。

 それは畜生でありながら、餓鬼の性質を含んでいるようにも見えてしまう。

 莫大な力を抱え、目の前の相手はグラウンドを出ようと、駆け出そうとする。そんな事をしてしまえば、危害が出てしまう。


 「逃がすか」


 この雨が降る中、爆炎を連続的に引き起こす。しかしながら、効き目がないのか、傷一つ付いていないようで、俺に攻撃された事に認識し、こちらを見る。


 「薪坊、私達が空気を送り込む」


 「私達は薪坊に合わせる。風の事なら、私達に任せろ」


 そう言われて何の事なのか、理解が出来なかったが、遅れて数秒、理解した。

 俺は自身の最大の出力を吐き出すように、あの巨狼の足元から大きな炎柱を発生させる。それと同時に三羽烏が風を引き起こし、それを飲み込むようにして炎柱が大きく、そして、激しくなっていく。

 しかしながら、それは雷によって振り払われてしまう。多少、毛並みが焦げたように見えるものの、それでもダメージを負わした様子は見られない。

 そうして、空からの雷が降り注ぎ、今度は俺達に向かって走っていく。その速度は普通に避けれるような速さではなく...、気が付いたら、俺は彼女の本体である刀を抜いており、その刀身は雷を切り裂き、焦げる事もなく、俺達の身を守る盾のように防いでいた。


 「刄さん...」


 そう声を掛けるも、そこには彼女の意識はない。だけれども、これは俺の意志でやった事ではなく、明らかに彼女が俺に対して、やらした事であり、刀から彼女の力が溢れるように感じる。それは俺の中へ入り込むようにして、彼女の意志がそこには存在していた。

 「ああ、死にたくないよな」と俺は彼女へと語り掛けるように呟き、前を向く。

 「薪坊?」と三羽烏の声が聞こえるが、そんな事を気にしている場合でもない。眠りに付いてしまっても尚、彼女は生きて、そして、俺の力になろうとしている。それに応えない訳にはいかない。

 彼女とシンクロするように、刀身から妖力を伸ばすも避けられてしまう。伸ばした妖力に炎を追加し、横へと凪払う。その業火の刃は降り注ぐ、水分を蒸発させていき、巨狼へと直撃するも斬る事は叶わない。

 体内に力の循環が巡る。それは完成されており、明鏡止水の如く、俺の内側は波紋一つない静けさが存在していた。きっと、彼女が俺の内側を安定させているのだろう。あんなに、苦手としていた事だというのに...、今は完成されている現状に至っている。

 刀身は燃え、まるで俺の力を吸い出しているというよりかは、彼女が俺と一心同体へとなったかのように感じてしまう。

 俺は駆け出す。まるで体が軽く感じ、それはまるで彼女のような感触がそこにはあり、襲い掛かる雷さえも回避していく。それはすでに彼女自身さえ、超えた領域だと言える。

 巨狼の目の前まで辿り着き、それと同時に真上へと巨大で強大な力が降り注ぐ。俺は刀を上へ向けて、炎渦を巻いて炎柱にて力を衝突させ、防いでみせる。


 「終わりにしてやる」


 その言葉と同時に刀身へと宿る炎の温度が上昇し、漏れ出す妖力は辺りの水分を蒸発させていく。

 刀を振るい、前方へと全てを焼き焦がす灼熱の業火を出現させる。

 それと同時に刀身が悲鳴を上げているのを感じ、


 「■■■■■■■■■■■■■■」


 目の前の巨狼が叫ぶように吠える。

 ペキッという音が聞こえ、刀身へと移っていた炎は消え、ヒビが入っていくのが分かる。そして、自身の状態が元に戻ってしまっているのに気が付いた。

 「刄さん」と声を掛けても返事はない。一応、力を感じる為、生きているのは感じるが、どうやら、限界が来てしまったらしい。


 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」


 遠吠えと共に雷鳴が轟き、目の前が青白い光に包まれたと思った瞬間だった。突風が吹き荒れ、気が付いたら、そこには長い鼻に赤い鼻の大天狗様がそこにはいた。


 「火葬士の倅、安静にしとれと言われなかったか...?まぁ...、いい

 説教は後だ。それより、よくぞ、ここまで持ちこたえた」


 そう大天狗が言った後、「烏天狗共!!」と声を掛け、その場に「はっ!!」と駆け寄ってくる。

 「火葬士の倅を避難させておけ。ここは任せておけ。ここら一帯は貰うからな」

 そう言われ、俺共々、烏天狗に連れ去られてしまう。

 「おい、大天狗様、一人にして」と抗議しようとするも、「あの方は本気を出されるつもりだ」とそう言葉を返される。

 本気を出す?それはどういう事だ。あの蜘蛛の相手に対して、容易く糸に絡め取られていたというのに...。


 「あの人の本気は周りを破壊する...。だから、常に力を抑えているんだ」


 「それこそ、巻き込まれてしまうと一堪りもない」


 「大天狗様を敵には決して、回していけない。それを肝に命じておくんだな、薪坊」


 突如として雨が止んだと思い、琴風高校の方向を見る。すると、そこには竜巻が発生しており、その光景は海外のニュースで見る竜巻といった感じの物だった。そして、ここまでヒシヒシと感じる妖力はきっと、あの大天狗様の物なのだろう


◇◇◇◇


 久々に本気を出す。ここ最近は強い相手なんかと出会さない。それに本気を出してしまうと周りを巻き込んでしまう。

 焔よりも力が制御出来る程、器用ではない。だが、これだけ広ければ、私とて多少、本気を出してしまっても問題はないだろう。


 「さてと、すぐに壊れてくれるなよ?」


 自身の妖力を放出し、それを旋回させ、竜巻を引き起こす。それと同時に空への天候さえも、飲み込み、雨さえ止めて、目の前の巨大な相手へと放つ。

 それを踏ん張るように吹き飛ばされないようにしている。

 ああ、こいつも駄目か...と思った、次の事だった。前方に青白い閃光が発生し、私の放った閃光は消失してしまっていた。

 どうやら、力で無理矢理に相殺したらしい。

 成る程、これなら楽しめそうだ。


 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」


 巨狼の遠吠えが響く。それと同時に雷が降ってくる。それを扇子を振って、全て反らしてみせる。

 そして、扇子に渾身の一撃として振り下ろし、一直線に風の斬撃が飛んでいく。それは真ん中を割るように切り裂かれ、後の校舎までも破壊してしまった。

 目の前の相手はというと、真っ二つに裂かれたと思いきや、分離して帯電を伴い、こちらへと襲い掛かってくる。

 「呆気ないものだったな」と一つ、ため息を吐いて、襲い掛かってくる相手を一つ、竜巻でまとめて飲み込んだ。その竜巻に対して、鎌鼬を放ち、幾百もの獣に止めを刺し、終わらせる。

 竜巻が消える頃には立っている者は私を除いて、誰一人いなかった。

 凶霊災の中心地に眠っていた相手にしては手応えのない相手だった。これなら、五十年前の相手の方が強かった。本当にお前が中心地に眠っていた親玉なのかと疑問さえ感じてしまう。

 そんな事を思いながら、一匹、残っていたのを見付ける。それは小さな一匹の獣であり、子犬程のサイズのあの狼だった。それは霊体ではなく、実体を持った実物であり、そこには生まれたばかりの命の躍動があった。

 「仲間は皆、全滅したぞ」と語り掛け、拾い上げるも「きゅー、きゅー」と鳴くばかりでそこには善意もなければ、悪意さえなかった。

 「やれ、おかしな事もあるものだな」と思わず、呟いてしまう。

 溢れ返っていた力は治まり、悪霊達の暴走は終わってしまった。何とも、呆気ない凶霊災だったと腑に落ちないが...、これが現実ならば仕方ない。

 私としては全然、暴れ足りないが、被害が少なく済んだのだから良しとしよう。


◇◇◇◇


 一人の男の夢を見た。男は自身の顔を映し出している水面を見て、こう言った。

 「違う」と。それは何が違うのか自分には分からないでいた。

 そこには男の顔を映し出されているけれど、その顔が本物だと思えないらしく、そして、酷く嫌悪していた。

 そんな夢から目を覚ますと、変な奴の膝の上にいた。ソイツは服?(というのかな...)を着て、僕のような毛を持たない奴だった。

 大切な何かを忘れてしまったような気がするが、今はコイツの膝の上の方が気持ちがいい。

 きっと、これが幸せという奴なのだろう。何を忘れてしまったのか、気になるが、そんな事より今はここにいる事が心地がいいから、どうでもいいや。

 光差す縁側に時折、撫でられる感触に思わず、「くぅん」と催促してしまう。

 それにしても、ここは一体、どこなんだろう?


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