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ALC0003⇔私にレクチャーしてください

「……マジでいねぇ」


 街中を一時間ほど歩き回り、再び元の魔法陣まで戻ってきた私。

 武器屋、防具屋、道具屋、鍛冶屋。裁縫店、飲食店、宿屋etc……。

 あらゆる店を覗いてみたけれど、庵達の足取りは一向に掴めません。


「思ってたほど広い街じゃないみたいだから、もしかしたら別の場所に召喚されたとかなのかな……」


 もしもそうだとすれば、このまま彼らを探し続けたところで意味が無いだろう。

 すでにフィールドに出てモンスター狩りや採集とかをしている可能性もあるけれど、さすがに一人で街の外に向かう勇気などありません……。

 そもそも本当にモンスターとかに遭遇したら、私は一体どうなるのだろう。

 戦って、傷付いて、HPの値が0になっちゃったら……それで終わり?

 現実の世界にまだいるのかもしれない私の身体も、そのまま死を迎える可能性だってあるわけだし……。


「……だあぁぁ! どうしよう! どうすれば良い? 私、こう見えて意外にシャイだから、そこら辺にいる人達に聞いて回るのもちょっと恥ずかしいし……」


 ……くそぅ。こういうナンパみたいな行動はいおり玲子れいこだったらお得意だろうに……!

 こんな時に限って私が一人取り残されちゃうなんて、ホント運に見放されてるわ……。


「はぁ……。でもここで愚痴ってたって仕方がないし……。もう一回ちゃんと探してみよう……」



 深く溜息を吐いた私は、先ほど来た道とは反対方向に歩き始めました。





 巨大な時計台まで再び辿り着いた私は、外の日の光が全く差し込まない、足元が若干ぬかるんでいる地下道のような場所を慎重に歩く。

 実はさっき、ちょっと怖くて探すのを後回しにしてた場所なんです、ここ。

 昔、田舎にあったジメジメとした真っ暗なトンネルを思い出すな……。

 小学生くらいの頃はそのトンネルを通るのが怖くて怖くて、大声を上げながら走り抜けた記憶があります。

 ……逆に自分の声が反響しちゃって、余計怖くなっちゃったんだけどね。


「――ひっ!?」


 なにか首筋にひやっとしたものが触れ、つい声を上げてしまう。

 頭の上に視線を向けると、ポタ、ポタ、と水が滴り落ちているのが見えました。


「脅かさないでよ……。私、ホラー系とかマジ無理なんだから……」


 時計台のすぐ隣の大通りにはあれだけ人がいたのにも関わらず、この地下道には私以外誰もいない。

 ……いや、誰かいたらそれこそ大声を上げて猛ダッシュで外に逃げるけど。怖いだろそんなん。


「ああもう……。庵、堀沢、玲子……。一体どこに行っちゃったのよ……。いい加減に出てきなさいよ……」


 彼らの名を呟いた瞬間、私は急に心細くなってしまいます。

 つい先ほどまで楽しく祝勝会をやっていたのが嘘かのように、辺りはしんと静まり返っています。


「駄目だ、これ以上は怖くて進めない……」


 地下道を三分の一ほど進んだ場所で踵を返そうとしたその時――。


 前方に微かな淡い光を発見した私はその場で目を細めます。


(……あれは……灯篭の光かしら……)


 途端に怖くなってきた私は少しだけ声を潜めます。

 ……どうしてあの場所だけ灯篭があるのだろう?


 気になった私は足音を忍ばせ、慎重にその場所まで進むことにしました。





『レミル錬金店』


 その場所には、そう記された板のようなものが雑に立てかけられていました。

 灯篭はこのお店の看板(?)を灯すために用意された物のようです。


(こんな所にお店が……? 客なんて来ないでしょ、こんな薄暗い場所じゃ……)


 ちょうど地下道の中間あたりの壁に、大きな木のドアが埋め込まれているような感じです。

 これだと灯篭が燈っていなければ絶対に気付かない。

 というか、このドアを開けたら本当に中にお店があるのかも疑わしい……。

 ただ地下道の壁に扉だけ取っ付いているとかなんじゃ……?


「……よし。……ん、ん~。ど、どなたかいらっしゃいますかぁ?」


 …………うん。声が裏返っちゃった。

 もう一回。今度はちゃんとノックをするところから。


「すいません! どなたかいらっしゃいますか?」


 …………。

 ………………うん。返事が無い。

 というか『いらっしゃいますかぁ……いらっしゃいますかぁ……いらっしゃいますかぁ……』って、三回くらい木霊しちゃって、改めて自分の声が気持ち悪いことに気づき、心に傷を負いました。


 私は胸を押さえつつ、扉のノブに手を伸ばします。


「あれ? ちゃんと開く……。……ゴクリ。し、失礼しまーす……」


 恐る恐る扉を開けると、店内にも同じ灯篭の弱々しいしい光が奥まで続いているのが見える。

 そして周囲に視線を巡らせると、まず最初に目に入ってきたのは大きくて丸いテーブルの上に乱雑に積み上げられた分厚い本の山だ。

 足元には陳列されているのか、投げ捨てられているのか判断が付かないガラクタのようなものが転がっている。売り物……なのかな、あれ。


「すいませーん……。どなたかいらっしゃいますかー……」


 …………。

 返事が無いなら勝手に入っちゃいますよー……。



 扉をそっと閉めた私は、ゆっくりと店内に足を踏み入れる。

 足元のガラクタを蹴とばさないように慎重に前に進むと、奥にもう一つ扉があるのが視界に入った。

 その扉の隙間から光が漏れているのが確認できる。

 もしかしたらこの店の店主は、あの部屋にいるのかもしれない。

 どうしよう……。引き返そうか……?

 いや、もうここまで来ちゃったらあの扉をノックして、店主に挨拶をしたほうが――。


ツルッ!


「――へ?」


 なにかに足を取られ、私はそのまま前のめりに倒れ込む。


ゴンッ!!


「へぶっ!! ……は、鼻が……ドアの……ノブに……」


 そのまま鼻を扉のノブに強打し、あまりの痛さにその場で蹲る。

 ああもう! 足元にガラクタが多いんだよこの店!

 何でこんなにツルツルと滑るような玉みたいなのを置いておくの! こんな場所に!!

 ああ、くっそ……。痛ってぇ……。


『誰かそこにいるの?』


ゴンッ!!


「ひぎゃっ!!」


 扉の前で蹲っていた私に追い打ちをかけるかのように、勢い良く扉が開く。

 当然、そこにいた私の後頭部に扉の角が容赦なく食い込んだのは言うまでも無く――。


「もう!! 何なのよこの店は!! 一度ならず二度までもか弱い女の子の身体を傷物にしやがって!! 訴えてやる!!」


 そう叫び立ち上がると、目の前には私と同じくらいの背をした女性が立っていた。


「……あら、お客さん? ごめんごめん、今ちょっと手が離せないから後にしてもらえるかな?」


 赤く長い髪を後ろで一本に縛った、活発そうな女性。

 歳は私とそう離れていないようにも見える。

 だとすると店主というよりは、雇われのアルバイト店員とかかもしれない。

 ……ていうか先に謝ってよ! お客様を怪我させちゃアカンやろ!


「あれ? その格好は……。貴女、もしかして『錬金術師』? だったらちょうどいいわ。手伝ってくれる?」


「……はい? え、あ、ちょ――」


 赤髪の女性は私の手をとり、部屋の中に招き入れます。

 何が何やら分からないまま私は彼女に従い奥へと進んでいきます。

 ていうか鼻と頭が痛い……。ジンジンする……。

 店の奥まで到着すると、そこには広場で見たあの魔法陣とは少しだけ違った形の魔法陣が描かれていました。


「ごめんね急に。今、新作の錬金の途中だったんだけど《錬度》がちょーっとだけ足りなくてね。協力して欲しいのだけれど、良いかしら?」


「……へ?」


 彼女の言っている言葉の意味が分からず、私はただ痛む鼻と頭を押さえて首を傾げるしかできません。

 ……錬金の途中? 《錬度》? 協力するって誰が? 私が??


「じゃあ、行くわよ。せーの、」


「いやいや! ちょっと待ってよ! 『せーの』、じゃないわよ! いきなり部屋に連れ込んだと思ったら意味不明なことを連発して……!」


「え? ……あら、貴女もしかして初心者なの?」


 赤髪の女性は何やら呪文のようなものを唱えようとしてそれを中断し、こちらに向き直ります。

 ……改めて間近で見ると、やっぱ綺麗な人だと思う。

 性格はなんとなくサバサバしてそうな感じだけど。

 

 うーん……。とりあえずまあ、正直に質問に答えましょうかね。


「バリバリ初心者です」


「……いや、そんなに胸張って堂々と言われても困るんだけど……。でも、まあいいわ。貴女のALCがたとえ0だったとしても、共同錬金なら+1されるから問題ないし。これから錬金しようとしている『黒剣アーザイムゼヘウム』がALC300で錬金できるんだけど、今の私のALCは299しか無いから、ホント貴女が来てくれて良かったわ」


「…………」


 うん。彼女が何を言っているのかさーっぱり分かりません。

 でも私がいれば、その黒剣なんちゃらが錬金できそうっていうのだけはどうにか理解できました。


「……急に黙らないでよ。でもまあ貴女は特に何もしなくていいから、私の左手だけ握っていてもらえるかしら?」


 彼女に言われたとおり、私は素直に手を握ります。

 ……どうせなら女の子じゃなくて男の子の手を握りたいと思ったのは内緒ね。


「そういえば貴女の名前をまだ聞いていなかったわよね」


 手を繋いだまま急に挨拶を求めてくる彼女。

 いやいや。順番がおかしいから。どこの誰だか知らない人といきなり手を繋ぐのが先って、どんな世界なのよここは。

 ……いや、ゲームの世界だからアリ……なのか?


「あ、はい。サナエって言います」


「そう、私はレミル。レミル・ヒューメリックよ。よろしくね、サナエ」


 彼女がそう答えた直後、両腕に装着した腕輪から光が溢れ出しました。

 ……あれ? 彼女も私と同じような腕輪を装備してる……?

 ていうか私の腕輪も光り出したし……。ナニコレ……?


 彼女と私、二人の腕輪が共鳴し、部屋中に光が散りばめられます。

 そしてその光が床に描かれた魔法陣に降り注ぎ、次の瞬間、辺り一面が光の海と化しました。


「うわ! 眩し――」


 あまりの眩しさに目を瞑ります。

 光の海は魔法陣の上で瞬く間に凝縮し、その光が剣のような形に変化していきます。


「……ははは……何コレ……」


 完全にドン引きしたまま、私はそう呟きます。

 魔法陣の上にはまるでブラックダイヤモンドみたいに刀身が輝いている黒い剣が出現したんだから、そら驚くでしょう。誰だって。

 ていうかめっちゃ格好良いな、この黒剣……。

 錬金術師ってこんなヤバそうなものも作れちゃうんだ……。


「……ふぅ。あー、よかった、成功して。でもまあ、成功率は70%もあるんだから、失敗する可能性の方が断然低いんだけどね。私ってLUCの数値が異様に低いから、錬金成功率が90%を超えるような物でもたまに失敗しちゃうときがあるから怖いのよね」


 …………うん。

 何度も申し訳ないんですが、相変わらず彼女が何を言っているのかさっぱり分かりません。

 成功率って何……? え? 錬金術って失敗することとかあるの??


「…………」


「あらら、また黙っちゃった。貴女、本当に初心者の中の初心者なのね。……まあいいわ。私で良ければ錬金を手伝ってくれたお礼に色々と教えてあげるわよ、『錬金術』の事」



 ――というわけでして。


 思いもよらず私はレミルさんに錬金術について色々とレクチャーをしてもらえることになりました。

  

 ラッキー。




2021.11.26改稿

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