ALC0283⇔欲望と金の蠢く街へと遠征する事になりました
ルーファスの話は今から数ヶ月前に遡る。
以前、私が関わったハクナ族の問題でも話題になった『旅の話術士』。
その後の足取りを追っていたルーファスは彼の奇妙な『噂』を耳にしたと言う。
それは、彼が一つの場所に留まる事無く街を転々と渡り歩いては、謎の『御伽噺』を説き、民衆を混乱させているとの内容だった。
そして彼がある日、多数のモンスターを引き連れて歩いている姿が目撃され、王宮から『危険人物』との知らせがアルルハイド家に送られて来たのだった。
「危険人物……。……ああ、だから『あの時』、メリウスさんが……」
私は記憶を遡る。
数ヶ月前にレミルが錬金した『血盟剣』を届けに来た際に、執事のメリウスさんが慌てた様子だったのを思い出す。
「ああ。あの時に既に『彼』の所在が明らかになっていてね。でも僕の方としてもまだ十分な準備も整っていなかったし、血盟剣の具合も確かめておきたかったからね。だから少しだけ保留にしておいたのだけれど……」
ルーファスの説明は続く。
その後、さらに別の街に『彼』が滞在している事を突き止めたルーファスは、ゼギルやアーネル、はたまたレミルを引き連れ、数回に渡り遠征。噂の『実態』を調査していたらしい。
そう言えば何度かルーファスらが数日間の遠征をしていた事があったが、そういう事情だったのかと納得する私。
てか一言言ってくれれば良かったのに……。
「でもね、不思議な事に何度彼の足取りを追い、直前まで追い詰めたとしても、すぐに彼は行方を眩ましてしまってね。一向に、捕らえるどころか、話を聞く事さえも出来ない状況でね」
珍しくルーファスの表情が暗くなる。
「……何者なの? その『旅の話術士』っていう人物は……?」
どうにも要領が掴め無い。
ゼギルも押し黙ったまま何にも言わないし……。
「……一言で言えば、全くお手上げでさっぱり分らない、と言った所かな」
おどけて見せるルーファス。
「何よそれ……。そんなんじゃどうしようも無いじゃない……」
いまいちルーファスが何を言いたいのかが伝わって来ない。
でも、この『顔』は何かを伝えたがっている顔だ、と私の直感がそう告げる。
「でもね、サナエ。僕は知っているんだ」
私の目を真っ直ぐに見つめるルーファス。
その瞳に映った私は少し緊張している様子に見て取れる。
「……何をよ」
そしてルーファスはおもむろに続きを話し出す。
「今まで、過去二回。全くお手上げでさっぱり分らない事を解決してきた人物をね」
◆◇◆◇
少しの沈黙後、ドアのノックの音が鳴った。
『ルーファス様。暖かい珈琲をお持ち致しました』
ドアの外からはメリウスさんの声が聞こえる。
「ああ、入ってくれ、メリウス」
ルーファスの返事によりドアを開き部屋へと入って来るメリウスさん。
お盆に乗せられた3つのカップをテーブルに乗せ、一つずつ丁寧に席へと配る。
「さあ、サナエもゼギルも続きは珈琲を飲みながら、ね」
私はルーファスに誘われるがまま席へと座り珈琲を啜る。
そして少し落ち着いて来た頃を見計らいおもむろに話し出した。
「……要するに、私にその『旅の話術士』の問題を解決して欲しい、という事で良いのかしら?」
カップを置きルーファスにそう切り出す。
「いや、そこまでサナエに頼るつもりは無い。……ただ、過去二回、『ハクナ族』と『呪いの街』の件を解決に導いたのは、サナエの意見があったからこそであるのも事実。要は『上からの圧力』さ、ぶっちゃけてしまうと」
自虐的にそう笑い珈琲を啜るルーファス。
この場合の『上』と言うのは四大伯爵家や教会、はたまた国からの指示なのだろうか。
ルーファスの表情からはそこまでは読み取れない。
「……ルーファス様も最初は反対したんだぜ。錬金術師で、しかもまだまだレベルの低いお前を、他の街の遠征に連れて行くには多少なりとも危険を伴うんだ。その気持ちくらいは察してるんだろう、お前だって」
静かだったゼギルが会話に加わる。
そうか。だから今まで真剣な顔をして口を挟まなかったのか。
ゼギルがこういう顔をする時はいつだって、他人の心配をしている時だ。
半年も付き合いがあればそれぐらいは分るようになる。
「……分ったわ。とにかく貴方達に着いて行って、何か気付いたらアドバイスをすれば良い、という事で良いのね?」
空になったカップにおかわりの珈琲を注いでくれるメリウスさん。
彼の表情もまたいつもと違い、硬い感じがする。
それだけ『危険な相手』という事なのだろうか。その『旅の話術士』という人物は……。
「すまないね。本当はサナエに頼むのは気が進まなかったのだけれど。……最近また特に難しい『新薬』を開発している最中なのだろう? あまり研究の邪魔をしたくは無かったのだけれどね」
済まなそうにそう言うルーファス。
確かにペニシリンの精製はまだ軌道には乗っていない。
だが、それに関する情報を誰かが盗んだとしても、私以外に作れる人物はこの世界にはいない筈だ。
精製を危惧する人物も思い当たらないし、教会側も民間薬の普及に協力的だし。
これに関し、何か裏があるような悪い予感もしない。
「いいえ、それは大丈夫よ。『青い奇跡』はまだまだ試作段階だし、一般に普及させるには、かなりの長い年月が掛かると思うし。……で? 遠征のパーティメンバーは?」
「俺とルーファス様、サナエ、アーネル。そして今回はケリーも同行させる予定だ」
珈琲を飲んでいるルーファスに代わりゼギルがそう答える。
「そう、ケリー君も来てくれるんだ……。彼はどう? ゼギルから見ても優秀なんでしょう?」
前にゼギルが絶賛していたのを思い出し私は尋ねる。
「ああ。単純な攻撃力や防御力は俺の方が遥かに高いんだが、ケリーの『ドレイン』は攻防一体の技だからな。攻撃と同時に回復出来るなんざあ、多分一対一だったら俺でも負けるぜ」
私はその言葉の内容を想像し少し吹いてしまう。
筋肉馬鹿のゼギルがヒョロヒョロの中学生の様な姿のケリーにコテンパンにやられる。
それだけケリーの『ドレイン』が強力だという証拠なのだろうが。
「ルーファス様。さすれば早急に四大伯爵家と王宮の方に連絡を……」
メリウスさんの提案に目で合図を交わすルーファス。
……やはり国からの指示でもあったのか。
と言う事はやはり、先ほどのルーファスの話の通り、かなりの『危険人物』なのだろう。その『旅の話術士』という人物は。
「取り敢えずは明後日、午前0時に出発する予定だ。目指す街は《レイムドルグ》。欲望と金の蠢くカジノの街だから、装備もしっかり整えて盗賊には注意する事。それから……」
その後はルーファスからの諸注意でその日は解散となった。
旅の話術士……。
ハクナ族を迫害に追い込んだ『詐欺師』。
そして王宮から『危険人物』として指定されている『犯罪者』。
(……一体何者なんだろう……)
レミルの店に戻る途中、私はずっと『嫌な予感』を感じずにはいられなかった。




