ALC0283⇔変態脳筋野朗がアッーしていたので抹殺しました
更に2ヶ月ほど経ったある日。
私はルーファスから呼び出されアルルハイド家のお屋敷へと向う事に。
「なんだろう、話って……。この前完成させた抗生物質はまだ処方は無理だって言ってあったんだけどな……」
アオカビを液体培養しペニシリンの単離に成功するまで約2ヶ月の期間を要した。
何度も何度も失敗を重ね、ようやく成功したペニシリンの生成。
アイテム表記は『青い奇跡』となっているこの薬は、まさしく奇跡の様な確率で精製させる事に成功したのは良いのだが……。
「『青いカビ』の素材が1000個で『青い奇跡』が1個って……」
あまりにもハイコスト過ぎるので販売は不可能と判断した私は、『素材持ち寄りのオーダーメイド』としてのみ注文を受ける事を検討中である。
当然、この異世界で抗生物質を必要としている人間は数え切れない程いるのだろうが、精製出来るのが私しかいない上、たった一つ作り出すのに素材の収集からしてコストが掛かり過ぎる為、一般に普及させるのは不可能に近いと判断したのだった。
「……庵達がいればなぁ……。薬剤師が4人集えば何とか普及の目処がたったかも知れないのに……」
私達4人の中で一番頭が良かったのは玲子だ。
次に堀沢で、その次が庵。
私はそこから更に成績がガクッと落ち、ギリギリで薬学部を卒業し、ギリギリで国家試験に合格した身。
彼らさえいてくれれば、もっと良い知恵を授けてもらい、更には精製効率も飛躍的にアップしていたに違い無いのだ。
「……まあ、仕様が無いか……。落ちこぼれ薬剤師が一人で出来る事なんて、これが限界なのかも知れないしね……」
しょんぼりと肩を落としながら大通りを歩く。
最近はまた特に庵達の事を懐かしがる様になってしまった私。
調剤室で薬を作っている時などは特にそうだ。
『玲子だったらきっとこういう風に作るに違い無い』
『庵だったら、堀沢だったら・・・』
毎度毎度こんな調子だ。
この異世界に飛ばされて来てもう半年も経つというのに、根本的な部分が成長していない。
そして自身の不甲斐なさを感じると、また彼らを懐かしがっては酷く寂しくなる、の繰り返し。
「……こんなんで私、半年後の『大魔王討伐イベント』ってのをクリア出来るんかな……」
そんな情けない事を考えながらもルーファスの元へと歩を進める。
◆◇◆◇
「おお、お待ちしておりましたぞ、サナエお嬢様」
執事のメリウスさんが笑顔で迎えてくれる。
何だか歳の割にはお肌がツヤツヤしている気がする。
これもミキサーで毎日作っているという野菜ジュースの効果なのだろうか。
「今日もお元気そうですね、メリウスさん。で、ルーファスは?」
「はい。ルーファス様はお部屋でお待ちになられております。ささ、こちらへ」
メリウスさんの先導により広い渡り廊下を進む私達。
そう言えば以前ルーファスの部屋に招かれた時に、あの爽やか金髪青年は全裸で私を迎えた事があったっけ。
あれからもう何ヶ月も経つのかと思うと、私も歳を取ったのかな、なんて考えてしまう。
……考えたくも無いわね。
部屋の前に着きメリウスさんが声を掛ける。
「ルーファス様。サナエお嬢様がご到着されました」
『ああ。ちょうど良い、入って貰ってくれ』
部屋からルーファスの声が聞こえて来る。
今度全裸だったらぶら下がっているモノに蹴りを入れてやろう。
それぐらいの権利は私にだってある筈だ。
「では、サナエお嬢様」
メリウスさんは丁寧に頭を下げ廊下を歩いて行ってしまった。
私はドアを開き部屋に入る。
「ちょ、ルーファス様! まだ開けたら……!」
そこには筋肉質の男が上半身裸で焦った表情でこちらを振り向いている。
「・・・」
私は何も言わずにドアを閉めた。
『ちょ、おいこらサナエ! これは、その、違うんだっ!!』
ドアの中から筋肉質の男の叫び声にも似た声が聞こえて来るが私はそのまま踵を返す。
そして勢い良くドアが開き、男は更に喚き散らす。
「おいサナエ! こ、これはだな! ルーファス様が、この前の戦闘で傷を負った俺の背中に……!」
「・・・」
「ほ、ほら! 良く見ろサナエ! ここに大きな傷が出来ちまっているだろう! 今は包帯を解いちまっているが、サナエが来るから見て貰うのに丁度良いってルーファス様へぼおっ!!?」
私は振り向き様に喚き散らす筋肉質の男の顎にアッパーをかます。
「服を着ろ。この筋肉質脳筋アッー野郎が」
「う……。だ、だから違ぇんだって! お前が来るって言うからルーファス様は俺に上半身裸になっておけとはふうっ!!?」
未だ懲りずに喚き散らす脳筋マッチョの脂ぎったゼギルとか言う変態の股間を蹴り飛ばす私。
「分ったからその半裸を近づけるな。暑苦しい」
前のめりに倒れたゼギルを汚物を見るような目で見下し、私はそのままルーファスの部屋へと入って行く。
「はは、ゼギル。今のは痛かっただろうな」
椅子に腰掛けた金髪の青年は爽やかに笑いそう言った。
「……ルーファス。あんたこうなる事を分っていてわざとやったのでしょう」
ドアを開けたら半裸の脂ぎったマッチョな脳筋野朗がアッー状態で現れたら、流石の私も拳が出る。
一体ルーファスは何がしたいのか。
私をからかって遊ぶ為にわざわざここまで呼んだと言うのか。
もしもそうなら、今度はルーファスの急所を蹴り飛ばしてやるのだが。
「用件を聞こうかしら」
私は腕を組みながら威嚇するようにそう言う。
「いや、参ったな……。サナエがそんなに怒るとは思わなかったから……。ごめん、謝るよ。この通りだ」
丁寧に頭を下げるルーファス。
それと当時に前屈み状態のゼギルがドアを開け部屋に入って来る。
「あら、ゼギル。どうかしたのかしら? 情けない顔をして」
「お前がそれを言うかゴルァっ!! 男の大事な部分を思いっきり蹴り飛ばしやがって!!」
唾を飛ばしながらそう喚き散らすゼギル。
やはり私の攻撃力では全力でゼギルの股間を蹴り飛ばしたくらいでは、大したダメージは与えられないらしい。
盾護士のゼギルにはハンマーか何かで攻撃しないと駄目だろうな。
「ならアーネルにでもその痛めた部分を曝け出して回復魔法でも掛けてもらえば良いじゃない」
私が吐き捨てる様にそう言うとルーファスはお腹を抱えて笑ってしまった。
ゼギルは顔を真っ赤にさせながら更に喚き散らす。
そして私は溜息を吐く。
いつも通りの光景。
私のさっきまでの孤独感は何処へやら。
彼らと関わるといつもそう。
もしかしたら、わざとやっているのかも知れない。
ルーファスならば、ここ最近の私の憂鬱を感じ取っていてもおかしくは無い、か。
「……はぁ……。まあいいわ、許してあげる。……で? お屋敷に呼んで部屋にまで招き入れたのだから、それなりに『重要な話』なのでしょう?」
私は本題を尋ねる事にした。
「……ああ、その通りだ。サナエは『例の件』をまだ覚えているかい?」
「『例の件』?」
そしてルーファスはおもむろに話し出す。
「……ああ。例の『旅の話術士』の件、さ」




