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2.05_AstraCode.I

「着いた」


 タロウが足を止めたのは、周りの建物よりひと回り大きい、ドーム状の建物の前だった。


 他の建物と同じく、継ぎ目のない滑らかな素材でできている。ただ、壁面を走る光のラインの色だけが違った。


 淡い、青。


 まるで「ここは安全だ」と語りかけてくるような、穏やかな光だった。


「中に、他のメンバーが待機しているはずだ。行くぞ」


「は、はい!」


 タロウが入口に近づくと、ドームの壁面が音もなく左右に分かれ、通路がぽっかりと口を開けた。


 内側から、柔らかな光が漏れてくる。外の張り詰めた静けさとは違う、人が暮らしている場所の、かすかなぬくもりがあった。


 二人の背中を追って、中へと足を踏み入れる。


 *


 中は、外から想像していたより、ずっと広かった。


 ラウンジには、背の低いソファがいくつも並び、淡く発光するテーブルが点在している。奥には、細長い通路が、静かに伸びていた。


「ふいほはん、ほひらへふ」


 やはり板チョコをかじりながら、ヒナタが案内してくれる。


「……すみません、今、なんて言いました?」


 ヒナタが振り返る。チョコを咥えたまま、もう一度、丁寧に言った。


「ふいほはん、ほひらへふ」


 一字一句、さっきと同じだった。


 丁寧に言えばいいという問題ではない。


「……タロウさん、今の、分かりました?」


 前を歩くタロウが、振り向きもせずに答えた。


「ユイトさん、こちらです、と言った」


「聞き取れるんですか!?」


「慣れてしまった」


(……慣れるものなのか?)


 ヒナタが、ようやくチョコを飲み込んで、改めて口を開いた。


「失礼しました。ユイトさん、こちらです」


「……今度は、ちゃんと聞こえました」


(悪い人じゃなさそうだけど、だいぶ変わった人だな……)


「あの、一個聞いてもいいですか」


「どうぞ」


「その板チョコ、ずっと食べてますよね。どこから出てくるんですか」


「ポケットです」


「何枚入ってるんですか」


「数えたことがありません」


 四次元なのか、そのポケットは。


 ヒナタは前を向いて歩きながら、またポケットに手を入れた。新しい板チョコを取り出して、包み紙を剥がし、かじる。流れるような動作だった。


「ほふふふふふ、ほふふほひはっへふははい」


「……タロウさん」


「もうすぐ着きます、もう少し待ってください、と言った」


「ありがとうございます」


 当分の間は、通訳が必要そうだ。


 *


 通路の突き当たりに、大きな扉があった。


「ここが、NOiZEの会議室です」


 ヒナタが壁の装置に手をかざすと、扉がゆっくりと開いた。


 ──めちゃくちゃ広い。


 部屋の中央に、大きなテーブルと、椅子がいくつか。余計なものは、何一つない。


 ただ、正面の壁一面に、光のラインで描かれた、巨大な地図が広がっていた。


 地図、というより、この世界を上空から見下ろして、そのまま縮小したような、精巧な光学模型だった。光の粒でできた建物の一つ一つが、呼吸するように、ゆっくりと明滅している。


 その冷たい光に照らされて、テーブルの奥に、二つの人影が座っていた。

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