2.06_AstraCode.II
会議室に入るなり、人影の一つが、勢いよく立ち上がった。
「あ、タロウさん、ヒナタさん、おかえり〜! って、誰その人!?」
声が、とても、とても、大きかった。
白いドレスのような服。薄い栗色の長い髪が、肩から胸元へさらりと流れていて、前髪だけが右側に流れている。目鼻立ちがくっきりしていて、そして何より、太陽みたいな笑顔が眩しかった。
その人は、ずかずかと俺の目の前まで歩いてきた。
「あたし、平田成美! ナルミって呼んでね!」
言い終わる前に、手が差し出されていた。
「あ……加山結斗です。ユイトで」
「ユイト! いい名前〜!」
握手する。握った手を、ものすごい勢いで、上下にぶんぶん振られた。
痛い。肩が外れそうだ。
(すごいフレンドリーな人だ……)
すると、もう一つの人影が、ナルミの背後から、静かに一歩前に出た。
思わず、目を止めた。
顔が、ナルミと、ほとんど同じだった。
目元の形。鼻筋の通り方。口の輪郭。パーツの一つ一つが、驚くほど似ている。
黒いドレスのような服。同じ薄い栗色の長い髪は、前髪だけが左側に流れていた。ナルミとは、ちょうど鏡写しの向きだ。
ただ、纏う空気が、まるで違った。
ナルミが太陽なら、この人は、月だ。
「平田育美です。ハグミと、呼んでください」
落ち着いた、静かな声だった。
「……あの、お二人は」
「双子だよ! あたしがお姉ちゃんね!」
ナルミが、あっさりと答える。
「顔、そっくりですね」
「よく言われる〜。性格は全然違うけどね」
「そうなんですか?」とハグミの方を見ると、ハグミは、小さく、でもはっきりと頷いた。
「全然違います」
即答だった。
「ハグミ!? そこは『いや、似ているところもあります』って答えるとこでしょ!」
「事実なので」
さすが双子だ、と思う。言い合っているのに、会話の呼吸が、ぴったり合っている。
「リンはどこだ」
タロウが聞いた。
「リンは、まだ戻ってないよ〜。定点確認に出てる」
「夕方には戻る予定ですよ」
ナルミとヒナタが、ほぼ同時に答える。
「リンはね、あたしたちの中で一番最近来た子なの。NOiZEだと、ユイトの一つ先輩ってことになるね」
ナルミが、俺の耳元に顔を寄せて、こっそり補足してくれた。声量が、こっそりの範疇を超えていたけれど。
*
「とりあえず座れ。説明することが多い」
タロウの一言で、全員がテーブルについた。
「まずは、こっちの自己紹介をしておく」
タロウが、軽く手を上げる。
「加藤太郎。タロウでいい。NOiZEのリーダー……ということになってる」
「なってる、というのは……?」
「誰かがやらないといけないから、俺がやってる。それだけだ。頼りになるかどうかは、保証しない」
(この人、あんなに強いのに、自己評価がとんでもなく低いな……)
「いや、めちゃくちゃ頼りになるよ!」
ナルミが、即座に言った。やっぱり、声が大きい。
タロウは特に反応もせず、続けた。
「次」
タロウが、ヒナタに振る。
「角陽向です。ヒナタと呼んでください。NOiZEでは、情報と戦略を担当しています」
ヒナタは、チョコをテーブルの端に置いて、背筋を伸ばした。
「まず、この世界のことからお話しした方がいいですね。僕たちは今、この世界をAstraCodeと呼んでいます」
「……AstraCode?」
「NOiZEの中で話し合って、そう名付けました。ちなみに、名付け親は僕です」
ヒナタが、急に、ものすごく得意げな顔をした。
ナルミとハグミとタロウの、冷ややかな視線が、ヒナタに集まる。
ヒナタは、まったく気にしていないようだった。
「そのAstraCodeの中での、僕の仕事ですが」
何事もなかったかのように続ける。
「構造の解析、desireの行動予測、メンバーの状態管理。ざっくり言うと、頭を使う仕事は全部です。まったく、どこかの誰かさんが情報系に疎いばかりに、僕の仕事がこんなにも……」
ヒナタが、ちらりとタロウの方を見て、にやにやしている。
「……タロウさんが、情報系に疎いから、ということですか?」
「タロウさんが、情報系に疎いから、ということです」
タロウは、否定しなかった。
腕を組んだまま、ちょっとだけ、窓の外を見た。
「はい! 次、あたし!」
ナルミが、椅子を蹴る勢いで立ち上がって、手を挙げた。
タロウが「勝手にどうぞ」と言わんばかりに、手をひらひらと振る。
「さっきも言ったけど、あたしはナルミ! NOiZEの……えっと、なんだっけ、肩書き」
「盛り上げ担当、と、ご自分で言っていましたよ」
ヒナタが、横から助け船を出す。
「そうそう、盛り上げ担当! あと、困ったことがあったら、なんでも聞いて! タロウさんとヒナタさんの次くらいには、ここのこと分かってる自信あるから!」
ナルミが、テーブルに勢いよく頬杖をついて、こちらを覗き込んだ。
「……え、あ、頼りにさせていただきます?」
「ふふっ、うん!」
返答は、どうやら正解だったらしい。満面の笑みだった。
ハグミが、静かに続ける。
「ハグミです。……改めて」
「二回目ですけど、よろしくお願いします」
「……はい。何かあれば、言ってください」
声は小さかった。
でも、その一言に込められた誠実さは、ちゃんと伝わってきた。




