2.04_NOiZE.IV
二人に連れられて、路地を歩く。
どうやら、最初に目を引かれた、あの螺旋の塔の方へ向かっているらしい。
しばらく歩くと、周りの建物の雰囲気が、がらりと変わった。高層ビルのような建物が、ちらほらと増えてくる。
「綺麗でしょう?」
ヒナタが足を止めて、こちらを振り返った。
(……すごい)
言葉が、出てこなかった。
フィクションの中でしか見たことのない、近未来の大都市が、目の前に広がっていた。
螺旋の塔を中心に、四方八方へ、幅の広い道が伸びている。近くで見ると、塔の高さに改めて圧倒される。てっぺんが、見えない。雲を突き抜けて、どこまでも、どこまでも伸びている。
建物は整然と並び、地面に沿って、光のラインがまっすぐに走っていた。
「……ここは?」
「拠点の近くだ。比較的、安全な区域になってる。俺たちは、この辺り一帯を、Neo-Edenと名付けた」
エデン。楽園、理想の場所、か。
言い得て妙だな、と思った。この景色を見ていると、そう呼びたくなる気持ちも分かる。
「ユイト。まず、お前に聞いておきたいことがある」
タロウが立ち止まって、まっすぐにこちらを見た。
「──ここから、出たいか?」
それは、ずっと頭の片隅に置いたままにしていた問いだった。
元の世界には、帰れるのか。
琳也は、どこにいる。
葛は。
現実は、今、どうなっている。
心残りなことだらけだ。
「……出たいです。元の世界に、帰りたい」
迷わずに、言えた。
「なら、決まりだな」
タロウが、初めて、少しだけ笑った。
「俺たちは、desireの殲滅と、ここからの脱出。この二つを目的に動いている部隊だ」
ヒナタが、穏やかに続けた。
「──NOiZEへ、ようこそ。ユイトさん」
*
NOiZE。
その単語が、すとんと頭の中に落ちてくる。
「NOiZEには……今、何人いるんですか」
タロウは、少し考えてから答えた。
「俺とヒナタ。あとは──何人か、いる」
「何人か……?」
「……三人だ。最近、新しく加わった奴もいる。拠点に戻れば、会えるはずだ」
今、指を折って数えてましたよね……?
二人は、また前を向いて歩き出した。
*
desireと戦うため。そして、ここから脱出するために集まった、生き残りたち。
(……この人たちと一緒なら、元の世界に、帰れるのかな)
逸る心を落ち着かせようと、両手の人差し指と親指で、四角を作った。
それを、ファインダー代わりに覗く。
光のラインが走る建造物群。その合間を、タロウとヒナタが、並んで歩いている。がっしりとした背中と、細い背中。凸凹なのに、妙に釣り合っている。
(……二人の背中、絵になるな)
そんなことを考えていると、二人が同時に振り返って、怪訝そうな顔をした。
「……何してる」
「あ、いや、めちゃくちゃいい絵だったんで」
「……写真が趣味か」
「写真部です」
タロウは、なぜか少しだけ目を細めた。ヒナタは、にこりと笑って、また前を向いた。
分からないことだらけのまま、二人の背中を追いかける。
ただ一つだけ、はっきりしていることがある。
一人でいても、何も変わらない。
今は、それだけで十分だった。




