2.01_NOiZE.I
シャッター音の残響が、透明な世界の中で、ゆっくりと消えていく。
──撮れた。
目の前に広がる、見たこともない景色を。
しばらく余韻に浸っていたが、ふと我に返る。
冷静に考えて、今すべきことは、写真を撮ることではなかった。
(……これから、どうすれば?)
元の世界へ帰りたい。でも、肝心の手がかりが何もない。
辺りを見回しても、人の姿は見当たらなかった。左腕のスマートバンドに触れてみる。画面は真っ暗なまま、うんともすんとも言わない。
「〈Mira〉? おーい、〈Mira〉さん?」
返事はない。
毎朝、俺を容赦なくベッドから振り落としてきた、あの澄ました声。いつも“最適解”を提示してくれていたあの声が、今は聞こえなかった。
うるさいと思っていた。いなくなればいいのに、と思ったことだって、一度や二度じゃない。
なのに、いざ黙られると、胸の奥がすうすうした。
(……ひとまず、歩くか)
立ち止まっていても、何も始まらない。それだけは、確かだ。
カメラをポケットにしまって、都市の中心にそびえる螺旋の塔へと、一歩を踏み出した。
*
路地の一本一本が、やけに静かで、怖い。
自分の足音だけが、透明な地面に吸い込まれていく。
生まれたときから、ずっと〈Mira〉と一緒だった。誰かの声がしない時間なんて、ほとんど過ごしたことがない。一人きりの静けさが、こんなに耳に痛いものだとは知らなかった。
暗く長い路地を抜けると、少し開けた円形の広場に出た。
中央に、像のようなものが立っている。何を象ったものなのかは分からない。ただ、表面に刻まれたラインが微かに発光していて、それだけで、十分すぎるくらい、絵になった。
(……撮りたい)
反射的にポケットからカメラを取り出して──バッテリーランプが、点滅していることに気づいた。
(電池切れ……? 今?)
かーっ。ついてない。
透明な地面に差し込む光の角度。その反射光が、像の輪郭だけを淡く浮かび上がらせている。全部が、今この瞬間にしか存在しない、奇跡的な構図だったのに。
シャッターを押してみる。カチ、と空しい音がしただけだった。
さっきの一枚で、力尽きたらしい。まあ、最期の一枚が異世界の風景なんて、こいつも本望だろう。たぶん。
カメラをポケットに戻して、また我に返る。
危ない。また一番大事な目的を見失いかけていた。
この世界、誘惑が多すぎる。
とにかく、情報が必要だ。
ここがどこで、どうすれば出られるのか。
そして、琳也は、葛は、他のみんなは、どこにいるのか。
考えながら歩いて、広場を抜けようとした、そのときだった。
空気が、変わった。
さっきまでの静けさとは、種類が違う。
じっとりと重たい、息が詰まるような、圧迫感。
思わず、足を止めた。




