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3.01_⬛︎I⬛︎⬛︎⬛︎.I

 リンが寝ている部屋のドアをノックする。


 返事はなかったが、鍵はかかっていない。


 そっと扉を押して中を覗くと、ベッドの上で、リンが体を起こしていた。


 フードは被っておらず、黒いウルフカットの髪が、少し寝乱れたまま肩に落ちている。ジャケットではなく、白いシャツ一枚だけ。いつもの張り詰めた空気とは違う、どこか柔らかい、素のままの佇まいだった。


 リンの目が、こちらを向く。


「調子どう?」


「……もう、一人で動ける」


 目が、合っていた。


 それだけのことなのに、少しだけ、胸が軽くなった気がした。


(……少しは信頼、してもらえてるのかな)


 最初は、視線を合わせようとすれば逸らされ、話しかければ無視された。それが今は、こうして目を合わせて、短いけれど、ちゃんと言葉を返してくれている。


 部屋に差し込む光が、少し温かく見えた。


「無理すんなよ」


「……してない」


「そう言う人ほど、無理してるんだよ。お大事に」


 返事はなかった。でも、否定もされなかった。


 *


 部屋を出て、ラウンジへ向かう途中の通路で、ヒナタとすれ違った。


「あ、ヒナタさん。おはようございます」


「おはようございます。リンさんのところへ行っていたんですか?」


「はい、少し顔を見に」


「そうですか」


 ヒナタは、ポケットからチョコを取り出してかじっている。いつも通りだ……。


「ずっと聞きたかったんですけど、ヒナタさんって、チョコ以外に好きな食べ物とかあるんですか?」


「……チョコ以外、ですか」


「見てると、チョコばっかり食べてるじゃないですか」


「アーモンドチョコ、とかですかね」


「そ、それもチョコですよ?」


 ヒナタが、少し考える顔になる。本気で考えているようだった。


「……ヒナタさんって、面白いですね」


「よく言われます」


 ヒナタが、にこっと笑う。


 その屈託のない笑顔が、とても眩しかった。


 *


「今日はゆっくりしろ」


 タロウには、そう言われていた。


 でも、大人しくしている気にはなれなかった。


 リンはあれだけ異能を連発していたのに、俺は一発しか使えなかった。しかもあの一発は、狙ったわけでも、練習したわけでもない。ただ叫んで、自然と手が動いて、たまたま出せただけだ。


 これで果たして、“異能を使えるようになった”と言えるのか。


(……早く、使いこなせるようにならないと)


 一人、両手の人差し指と親指を伸ばして、四角を作る。


(……はっ!!)


 光らない。


 体勢を変えてみるが、光らない。  


 念じ方を変えてみるが、光らない。  


 目を閉じてみるが、光らない。  


 目を開けてみるが、光らない。


(……なんで、昨日はできたんだ?)


 あのときは必死だった。リンは動くことができず、desireもすぐそこまで迫っていた。何かに祈るように念じたら、指先が白く光った。


 でも今は、desireも、差し迫った危険も、何もない。静かな空間で、自分の意志だけで異能を発動しようとしている。


(……気持ちが足りないのか)


 だが、何度繰り返しても、指先は普通の指のまま。


 そうして試行錯誤を続けているうちに──いつの間にか、夕方になっていた。

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