2.15_RIN⬛︎⬛︎.VII
三体のdesireが、一斉にこちらを向いた。
無数の目玉が、ぎょろりと、俺を捉える。その一つ一つが、俺の動きを、余すところなく追いかけている。
リンが、顔を上げた。
「……ユイト」
珍しい声だった。
感情が、ある。いつもの、平坦な声じゃない。
「死んじゃ……うよ」
荒い息の合間に、言葉が滑り込んでくる。
「分かってる!!」
「じゃあ……なんで」
「分かってるけど、来た!!」
リンが、一瞬だけ、黙った。
「……馬鹿」
「そうかもしれない!!」
desireが、また一歩、距離を詰めてきた。
*
どうする。
目の前には、desireが三体。リンは、立ち上がれていない。俺には、何もない。
(……頼む)
ただ、念じた。
(この先、どうなったっていい。今だけでいい。俺に、異能を使わせてくれ……)
desireが、迫ってくる。
すぐ目の前まで来て──ふと、ヒナタの言葉を思い出した。
拠点の会議室。光学模型の前で、ヒナタが、チョコをテーブルに置いて言った言葉。
『何かを“形に残す”ことへの、強いこだわり。異能は、そういうその人の根っこにある想いと結びついて、目覚めることが多いんです』
『──お前には、才能がある』
タロウの声も、重なった。
(一か八かだ……!)
「──どうにか、なれええええええ!!」
両手の人差し指と親指を伸ばして、四角を作った。
ファインダー代わりに使う、あの構え。構図を確かめるときに、何年も何年も繰り返してきた、ただの癖。
その四角の中に、目の前のdesireを、収める。
すると、指先が、光り始めた。
最初は、かすかな白い光だった。爪の先に、ろうそくの炎くらいの、小さな光が灯る。それが、じわじわと広がっていく。人差し指から、親指へ。右手から、左手へ。
光は、指先だけに留まらなかった。四角の輪郭そのものが、白く縁取られていく。左上の角から、右上へ。右上から、右下へ。右下から、左下へ。左下から、また左上へ。
白い光の枠が、空中に、くっきりと浮かび上がった。
「……ユイト」
リンの声が聞こえた。怒りでも、疲れでもない。驚いている声だった。
「それ、異能、だ……」
四角の中のdesireが、止まっていた。
動かない。
目玉の一つも、瞬きすらしない。光の枠の中に閉じ込められた写真みたいに、ぴたりと静止していた。
(……何が、起きてるんだ?)
頭が、追いつかない。
でも、身体は、勝手に動いていた。
気づいたら、片腕を、縦に振り下ろしていた。
白い光の四角が、空間ごと、断ち切られる。
音は、なかった。ただ、白い光の線が一本、四角の中を走った。その中のdesireを、一瞬で縦に貫いて──
desireが、真っ二つに割れた。
割れた断面から、光の粒が溢れ出す。一粒一粒が、小さく瞬きながら、C-7区画の暗い空気の中を、ゆっくりと漂っていく。そして、やがて、溶けるように消えていった。
静寂が、戻った。
両手を下ろして、自分の指先を見る。
何もない。普通の指だ。さっきまで、確かに白く光っていたのに。
「……今の、俺が、やったのか?」




