2.11_RIN⬛︎⬛︎.III
翌朝。
徹夜明けの、しょぼしょぼする目をこすりながら、作戦は決行された。
*
作戦その一。担当、ナルミ。
リンが会議室に現れた瞬間、ナルミが、さりげなさを装って近づいていく。
自然な会話の流れを作ってから、俺に話を振る、という算段だ。
「リン〜! おはよ! 昨日はよく眠れた〜?」
「……まあ」
「それはよかった〜! ねえねえ、そういえばユイトが──」
次の瞬間、リンが消えた。
文字通り、消えた。気づいたときには、会議室の扉が、ぱたん、と閉まっていた。
(……速っ)
「……気づかれたか〜」
ナルミが、悔しそうに指を鳴らした。
*
作戦その二。担当、ハグミ。
「私に、任せてください」
戻ってきたリンの隣に、ハグミが静かに腰を下ろした。真剣な目で、口を開く。
「リンさん。ユイトさんは、反省しています。どうか、話を聞いてあげてください」
リンは、窓の外を、ぼうっと眺めていた。
「……リンさん? リンさん、聞こえてますか」
微動だにしない。
「リンさん」
微動だにしない。
「……リンさん」
微動だに、しない。
そのまま数分が過ぎ、ハグミは、意気消沈して戻ってきた。
「……駄目でした」
俺より落ち込んでいるように見える。
も、申し訳ない……。
*
作戦その三。担当、俺。
“直接話すのが難しいなら、文面で誠意を見せる”。昨夜、一時間かけて書き上げた、渾身の謝罪の手紙だ。
ナルミが「あたしが渡す!」と立候補して、リンに封筒を差し出した。
「はいこれ、リン宛てのお手紙だよ〜」
「……ありがとう」
リンは封筒を受け取って──
そのまま、テーブルの上に置いた。
開けない。
(頼む、開けてくれ……)
遠くから、全力で念じた。
開けなかった。
*
一晩かけて練った作戦は、全て水の泡になった。
テーブルに、突っ伏す。
「……もう、駄目だ」
「めげないで〜」
ナルミが、背中をさすってくれた。
「……これは、かなりの時間が必要かもしれません」
ハグミが、冷静に分析した。
ああ、辛い。
そこへ、タロウの声が、放送で流れた。
『会議の時間だ。全員、会議室に集合しろ』
*
会議室。
テーブルを囲むのは、俺、ナルミ、ハグミ。そして、リン。
リンは、俺から一番遠い席に座った。目も、合わせてくれない。
(……気まずい)
昨日の会議の賑やかさが嘘のように、ぴりぴりとした空気が、部屋に満ちていた。
「手短に話す」
タロウが、光学模型を展開する。
そこで、ヒナタの姿がないことに気づいた。
「あれ、ヒナタさんは?」
「LumenHeartの定期解析に出ている。今日は戻らない」
タロウが、こちらに向き直った。
「ユイト。お前の異能についてだが」
「はい」
「今のままでは、使えない。それは分かっているか」
「……分かってます」
タロウは、全員を見渡してから、言った。
「異能を自分のものにするのに、一番大切なことは何だと思う」
少し、考える。
「練習、でしょうか」
「違う。実際に、異能を使っているところを、自分の目で見ることだ。説明を百回聞くより、本物を一回見る方が、身体はずっと早く覚える」
少しだけ、間があった。
「本当なら、俺が直々に見せてやれればよかったんだが……今日は、別の任務が入っている」
タロウが短く息を吐いて、光学模型の一角を指した。
「Neo-Edenの東部、C-7区画に、下位desireの群れが確認された。三体から五体程度だ。俺とナルミとハグミは、今日は別件で動く」
(……ん? なんか、嫌な予感が……)
タロウの視線が、俺と、リンに向いた。
「リンが異能を使うところを、隣で見ながら動け。それが、お前の今日の任務だ。ユイトとリン、二人で行ってこい」
長い、沈黙。
リンが、静かに口を開いた。
「嫌」




