人間の食事のルール
「今日のメニューは泰造さんお手製のラフテー、ジューシー、ゴーヤーチャンプルー、海ぶどうのサラダだぞ!」
「すごい!どれもすっごく美味しそう!
海ぶどうは食べたことあるけど他は初めて食べる!」
瑠璃さんはキラキラと目を輝かせる。
「そうかそうか!喜んでもらえてよかった!
あ、瑠璃ちゃんは箸使えるのかな?
フォークのほうがいいか?」
「箸って2本の棒を使って食べる道具だよね?
大丈夫!使える!」
「おお!それならよかった!
さぁ二人とも、温かいうちに食べなさい」
「うん!いっただきまーす!」
「いただきます」
じいちゃんに料理を勧められ、僕と瑠璃さんは手を合わせてご飯を食べる。
いつもと変わらない、美味しいはずだがよくわからない。
箸も重く感じて疲れを感じ、箸が止まる。
ふと瑠璃さんを見ると、口いっぱいに頬張り、とても幸せそうな顔で料理を食べている。
箸使いはお世辞にも上手いとは言えないが、器用に口に運んでいる。
その様子にじいちゃんは嬉しそうだ。
「おかわりはいっぱいあるからな!
たくさんお食べ!」
「うん!泰造ちゃん、どれもすっごく美味しいよ!
あ、奏多はもう食べないの?貰うね!」
僕が答える前に僕の皿からラフテーが奪われる。
僕もじいちゃんも驚いて目を丸くする。
「瑠璃さん、僕何も言ってない…」
「え、食べないならいいじゃない!」
「瑠璃ちゃん、食べたいならおかわり持ってくるから人から貰うのはよくないぞ。
貰うにしてもちゃんと許可をとらないとな」
僕とじいちゃんの言葉に今度は瑠璃さんが目を丸くする。
「え、なんで?
早く食べない奏多が悪いじゃない!」
「いや、普通はダメでは…」
「食べないととられるのは当たり前じゃない!
奏多よくそれで生きてこられたね」
瑠璃さんは不思議そうな顔をする。
昨日の夜、人間が自分を敬うようになった理由がわからないと言っていたときと同じ顔をしている。
瑠璃さんは自分の当たり前に沿って行動しているだけなのだろう。
「瑠璃さん、瑠璃さんの住んでいた環境だと食べないととられるのは当たり前かもしれないけど、僕たちにとってはそれは当たり前じゃないんだよ。」
「奏多達にとっては、私の食べ方は間違っているってこと?」
瑠璃さんはムッとしたような声で返事をする。
「食べ方が間違っているというより、人の皿に乗っているものは手を出しちゃだめというか…」
「そうなんだ!
じゃあ奏多はわざと残しておいたってこと?
そういう子もいたけど、よっぽど賢くないと食料の隠し場所がバレちゃって結局食べ物取られちゃうんじゃない?」
「そうじゃなくて…」
疲れてきた。
瑠璃さんの当たり前と僕の当たり前が違いすぎてどう説明するのがいいのかわからない。
瑠璃さんも感情的になっているため、何を言っても僕の言葉に対して反論してくるだろう。
いっそ、僕が折れて瑠璃さんの当たり前に合わせる方が楽なのかもしれない。
僕の心が折れかかっていたとき、黙っていたじいちゃんが口を開く。
「瑠璃ちゃん、人間が食事をとるときのルールがあってな。
自分の皿に盛られたものはその人のものなんだよ。
もし自分の分が無くなって、もっと食べたい!と思ったらおかわりがあるか確認するのがルールというやつだ。
人のものがほしい場合、持ち主から許可を貰うまでは手を出してはいけないんだ。」
「そっか、それが人間のご飯のルールなんだね!」
「うむ、そうだ!
そしてここは陸で俺の家だからな、ここは人間のルールで食事しようじゃないか!」
じいちゃんの諭すような優しい声色に瑠璃さんも落ち着いてきたようだ。
「奏多、ごめんね。
奏多のものを取ろうとして」
「いや、大丈夫。
こっちこそ上手く説明できなくてごめん…」
お互いに謝罪した僕らを見て、じいちゃんはニカッと笑う。
「うむ!お互いにわかりあえたことだし、食事を続けよう!
瑠璃ちゃんにはおかわりを持ってくるから待っててな」
じいちゃんはラフテーのおかわりを取りにキッチンへ向かう。
「ねー奏多!これ美味しいのにもう食べないの?」
僕の皿の上に残ったラフテーを瑠璃さんは見つめている。
「うん、もういいかなって」
「えー!食べれる時に食べないといざというときに力が出なくて逃げられないよ!」
ふんっと腕を曲げて力こぶを見せてくる。
見た目から想像できないくらい、瑠璃さんは意外と筋肉がついている。
この日本でいざというときがあるのだろうか。
疑問は置いておいて、瑠璃さんが人間のルールに寄り添ってくれたのだから、僕も歩み寄るべきなのかもしれない。
そう思い、僕は皿に残っていたラフテーを口に運ぶ。
美味しいのだろう。だが味がぼやけている。
「どうどう?おいしいよね!
また食べたいって思わず人のお皿からも取っちゃえ!ってなるよね」
彼女はキラキラした顔で同意を求める。
「うん、美味しいね」
「でしょ!あ、泰造ちゃん!
早く食べたい!!」
泰造じいちゃんが鍋ごとラフテーを携えて戻ってくる。
テーブルに戻ると瑠璃さんのお皿に大量のラフテーを盛る。
「やったー!いただきます!
奏多は食べないの?」
「お、奏多は皿に乗せた分は食べたのか!
よく食べたな!」
不思議そうな瑠璃さんと笑顔のじいちゃんに見られる。
2人の顔を見てみるともう少し食べてみようかという気持ちになる。
「じいちゃん、少しだけおかわりほしい」
じいちゃんは驚いたような顔になるが、すぐに満面の笑みとなる。
「もちろんだ!食べられるだけ食べなさい!」
僕は盛られたラフテーを食べる。
食べていると不思議とお腹が空く感覚がしてきた。
隣では負けじと食べている瑠璃さんがいる。
じいちゃんは瑠璃さんのお皿によそいながらも自分の食事を始める。
不思議と心が安らぐ。
久しぶりの感覚だった。
心地よい沖縄の風を感じながら、僕らは食事を楽しんだ。




