敬語禁止
船は泰造じいちゃん家の近くの船着き場に到着する。
元々じいちゃんくらいしか使わない場所のため、誰かに見られることはなかった。
台車に水槽を乗せ、じいちゃん家の庭に向かう。
庭には簡易テーブルと椅子が置いてある。
瑠璃さんの入った水槽はテーブルの横に設置する。
「今日は庭で食べるぞ!」
「やったー!陸でのご飯だー!!!」
瑠璃さんは尾ビレで水槽の中の水をバシャバシャ叩く。
力加減はしているようで、海水が水槽の外に溢れることはなかった。
「うむ!そうしたら準備してくるから奏多と瑠璃ちゃんはお喋りでもして待っててくれ!」
じいちゃんは腕まくりをして気合の入った様子で家の中に入っていった。
「楽しみだね、奏多!
何が出てくるかな?」
「じいちゃんのことだからゴーヤーチャンプルーはあると思いますよ。
僕がじいちゃん家に来てから毎日出てきてますし」
「ゴーヤーチャンプルー…?ゴーヤーってスープに入ってる苦いやつ?」
「ゴーヤーは苦い野菜であってます。
スープにも使われるかもしれませんが、焼いたり炊いたりしますね」
「私苦いの苦手なんだよねー…食べれるかな」
「じいちゃん結構料理うまいからゴーヤーも苦味を抑えて調理してくれますよ」
「……あのさ、奏多」
料理の話をしていたときはワクワクしていた瑠璃さんだったが、急に不満げな様子になる。
「ずーっと思ってたんだけど、私と泰造ちゃんへの接し方全然違うよね!?
なんでよ!泰造ちゃんみたいに接してよ!」
「え…急にどうしたんですか…?」
「それ!その話し方!
気軽さがない!あと距離を感じる!」
どうやら敬語で話していたのがお気に召さなかったようだ。
「じいちゃんと同じようにと言われましてもじいちゃんは身内ですし、さすがに同じようには…」
「いーやー!距離を感じる!」
瑠璃さんは駄々っ子のように尾ビレで水をバシャバシャする。
「…わかった!敬語はなくす!
これでいいでしょ?」
僕はやけになりタメ口で話す。
そうすると水のバシャバシャという音が聞こえなくなった。
瑠璃さんはとても嬉しそうな顔をしている。
「うん!これで奏多とも距離感が近づいた感じがして嬉しい!」
僕と仲良くなるのが嬉しいということを瑠璃さんは全身で表現する。
嬉しいような恥ずかしいようなよくわからない感情に襲われる。
「おーい!奏多、運ぶの手伝ってくれ!」
泰造じいちゃんの声が家の中から聞こえてくる。
「今行く」と返事をし、これ幸いと僕は瑠璃さんから離れて配膳を手伝った。




