美味しいと思えない朝
太陽の光が顔を照らす。
開け放たれた窓から、沖縄の湿った朝の風が入ってくる。
防波堤から落ちてできた打ち身が痛く、よく眠れなかった。
まぁ打ち身がなくとも最近の眠りは浅いから普段と変わりはない。
身体は重いが頭は冴えている。
昨日の夜、僕は自分のことを人魚と言う女性に助けられた。
尾ビレを見せられたあと、彼女に何も言わずに立ち上がり泰造じいちゃんの家へと帰ってきた。
後ろから自称人魚が何か言っていた気がするが、よく覚えていない。
人魚の女性と会ったのは夢、もしくは落ちた衝撃で頭をぶつけて幻でも見たのではないか。
はたまた人魚の格好をして人をからかっていただけのダイバーだったのではないだろうか。
ダイビング用のフィンを見間違っただけの可能性だってある。
きっとそうだろうと結論づけたとき、元気な声と共にじいちゃんが部屋に入ってきた。
「グッドモーニング!奏多!今日も気持ちのいい朝だぞ!美味しい朝ごはんができてるからな、準備ができたらおいで!」
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僕の祖父、照屋泰造。
御年74歳だが、毎日のように漁に出たり海に潜ったりしている。
皮膚は日に焼け、長年鍛えられた筋肉がついておりガタイがよく、行動も発言もハキハキしている。
身なりにも気を遣っているからかとても70歳を超えているようには思えず、この間は50代に間違われたとキャピキャピしながら言っていた。
沖縄本島から船で30分ほど揺られた離島に泰造じいちゃんは住んでいる。
ダイビングの名所と謳ってはいるが、アクセスが悪いためか観光客は年間を通じて数えるくらいしか来ず、島民も少なく全員が顔見知りのなかで余所者である僕は注目の的だった。
島にやってきたばかりの頃は会う人全員にじいちゃんが紹介をしてくれていた。
顔見知りとなった島民は歓迎祝いだとばかりに鮮魚や酒を土産にじいちゃんの家までやってきて夜遅くまで騒ぎ続けた。
僕はなるべく同席するようにしていたが、騒がしさや人と接すると驚くほど疲弊してしまい早々に離席をした。
その夜は歓迎してくれているのに上手く笑えず、楽しむことができなかった自分を責めて涙が溢れた。自宅にも祖父の家にも、この世のどこにも居場所がないように思えた。
父さんがいなくなって母さんが辛いのに、僕だけ楽しんでいいんだろうか。
1週間がたった今では島民全員と顔見知りになった。
だが、上手く笑えない僕に島民はすれ違っても挨拶をする程度だ。
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祖母は僕が生まれる前に他界しており、泰造じいちゃん1人で広い平屋に住んでいる。
長い廊下をペタペタ歩き、ダイニングへと向かう。
じいちゃんの宣言通り美味しそうな朝食が大量に並んでいる。
干物に刺身、味噌汁、ご飯、お漬物、ゴーヤーチャンプルー。
いっぱい食べろよ!と一緒に食べ始めるが、食べきれずに大半を残した。
元々の食欲があったとしても食べ切れたか怪しいが、最近はお腹が全く減らず口をつける程度の食事となっている。
そんな僕に怒るでもなくがっかりするでもなく、笑顔で「よく食べたな!」とじいちゃんは言う。
食べきれないことに罪悪感を抱きつつも、じいちゃんの一言で救われる気持ちになる。
「今日は船で沖の方に行ってみないか?ダイビングしてもいいし、シュノーケルでも船の上から見るだけでも綺麗なスポットがあるんだ!」
じいちゃんはキラキラした笑顔で提案してくる。
この顔をされると否定しづらい。
僕は「行く」とだけ答えると海に入るための準備を始めた。




