瑠璃色との出会い
自殺未遂描写あり。苦手な方は注意してください。
雲1つなく星が綺麗な夜空の下、黒いTシャツと黒いジーンズを身に着けて灯りが少ない海沿いを1人で歩く。
日に焼けていない白い肌をしている僕のことを遠目に見ると、無表情な顔だけが浮かび上がり幽霊のように見えるかもしれない。
波が寄せては返すたび、海の息づかいが耳元をかすめていく。まるでこっちにおいでと誘われているようだ。
-----それなら誘いにのってやろう。
歩みを止めることなく防波堤までやってきた。
高さは約5メートル。
打ち寄せる波の音が、頭の中の雑音を綺麗に洗い流してくれた。
-----つかれた、もういいや。
僕は暗い海へと足を踏み出した。
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雨が降っている。
紫陽花が雨を受けて、いっそう色鮮やかに咲いている。
「なんで死んじゃったのよ…」
今日は父さんの四十九日だった。
親戚や父さんがお世話になった方への挨拶、お坊さんや会場の手配、引き出物の用意など慌ただしい毎日が終わった。
やることは残っているが、やっと一息つける。
まだ3ヶ月しか着ていないはずの高校の制服が、長年着用してきたかのような貫禄がでている。
母さんは仏壇から離れようとしない。
参列者の前では気丈に振る舞っていた母さんだが、1人になると父さんの仏壇の元に行く。普段は飲まない酒を煽り、なぜ死んだのかを責め、泣きわめき、急に笑い出したかと思うと不安そうにブツブツ呟いている。
そのうち仏壇の置いてある部屋から母さんが出てこなくなった。
「奏多くん、お父さんの代わりにお母さんを支えてあげてね。」
誰かが言った言葉のとおり、母さんを支えようと頑張った。
照屋奏多。これが僕の名前だ。
僕が高校に入学してすぐに父さんが亡くなり、バタバタしていたため部活には入っていない。
放課後は買い物をして家に帰る。
2人分の晩御飯を作り、掃除をし、洗濯物を取り込む。
翌日の朝食とお弁当の準備も欠かさない。
自炊して生活費を抑えなければならない。
僕の進路が母さんの負担にならないように勉学もしっかり励む。
高校卒業後は働くか、大学に行くとしても公立か特待生で入学して授業料免除のところに行かなければならない。奨学金も借りなければ。
そんな毎日を過ごしている内に僕は少しずつおかしくなっていったらしい。
まず最初に寝つきが悪くなり、寝れてもすぐに起きてしまう。
次に胸やお腹が痛くなることが増え、お腹が減らなくなった。
上手く笑えなくなった。
何をするにも疲労感が増え、急に涙が溢れるようになった。
何を食べても美味しいと思えないし、楽しいことを楽しいと思えない。
見かねたクラス担任と養護教諭が相談し、緊急連絡先に登録されていた母方の祖父母へと連絡をした。
「貴重な高校生の夏休みなんだから沖縄の泰造おじいちゃん家で過ごしておいで。お母さんは私たちが一緒にいるから気にせずに楽しく過ごしてきなさいな。」
泣きそうな笑みで祖父母は言った。
小さく「ごめんなさい」とも言っていたような気がする。
こうして僕は夏休みの間、父方の祖父である、泰造じいちゃんの家で過ごすことになった。
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ザザ……ザザ……
穏やかな波の音がする。
服が水を吸って重く、思うように動けない。
大人しく目をあけると雲1つなく星が綺麗な夜空と頼りないライトが目に映る。
水面にぶつかった衝撃でところどころ打ち身になっているが、それ以外に痛いところはない。
背中の感触から板状の桟橋の上に寝転んでいることがわかる。
おかしい。確かに防波堤から飛び降りたはず。
流されたとしても何故桟橋の上にいるのか。
「あれ、起きたの?」
頭の中が疑問でいっぱいの僕に声がかけられた。
声のしたほうを向くと綺麗なミルクティー色のロングヘアをもつ、大学生くらいの綺麗な女性が海から顔を出し、桟橋に両手をついている。
泳いでいたからか、上半身は貝をモチーフにしたビキニを着ている。
「もう、びっくりさせないでよ!綺麗な夜だから泳いでたのに君が急に落ちてくるんだもん。あと少し進んでたら私の上に落っこちてきてたよ!」
危なかったんだからね!と楽しそうに文句を言っている。
突然のことで声が出ない僕を置いて、彼女は重かったから桟橋に乗せるのが大変だった、死なないように応急処置をしておいたと自慢げに話をしてくる。
「そんなじめじめしたような顔しちゃってー!人間なんて脆いんだから、楽しいことしないとあっという間に終わっちゃうよー」
未だに寝転がってる僕の頬をツンツンとしながら、やっぱり楽しそうに話しかけてくる。
人と話すのに寝転んだままだとマナー違反だと思い、重い身体を起こす。
「ええっと、助けてくださってありがとうございます。海の中にいたということはダイバーさんですよね?今後は落ちる先に人がいないかを確認してから落ちるようにします。」
そう言った僕を彼女はキョトンとした顔で見てくる。
「私はダイバーじゃないよ、人魚だよー!人魚がいないかもちゃんと確認してよね!」
彼女は腰のあたりから尾の先まで瑠璃色のような深い青の綺麗な尾ビレをひらひらさせながら、「きゅー!」とイルカの鳴き声のような甲高く澄んでいる変わった笑い声をあげた。
-----これが瑠璃色の明るく陽気な人魚との出会いだった




