じいちゃんの勘違い
食後のデザートを食べながらじいちゃんは口を開く。
「奏多は今日、家でゆっくりしているか?
俺は祭りの準備に行かなければならないんだ」
「どうしよう。
修平に勉強を教えるって約束したのに昨日帰っちゃったから謝りたくて」
「友蔵達は今日家族で予定があるって言ってたぞ。
俺から友蔵と修平くんに予定を確認しておこうか」
「それならお願いしてもいい?
僕はいつでも大丈夫だから」
「よし、わかった!
明日以降で都合のいい日を確認しておくな!」
修平との約束が気がかりだった僕は安心する。
「じいちゃん、ありがとう。
お祭りまでもうすぐだよね?」
「ああ、10日後だな!
奏多は祭りに参加するのは、確か小学生のとき以来だったな。
どんな祭りだったか覚えているか?」
「父さんがこの時期は飛行機も船も高いし予約取れないし、何より混んでるから行きたくないって言ってたよ。
お祭りのことは賑やかだったことくらいしか覚えてないかな」
じいちゃんは声をあげて笑う。
「泰斗らしいわ!
この島の祭りは2日間開催するんだ。
1日目はエイサーや三線を演奏したり、お客さんも参加できる綱引きもやるぞ!
2日目は海の女神様への奉納がメインで、海の女神様の劇やハーリー、花火が目玉なんだ!」
いくつか知らない単語が出てきた。
「エイサーやハーリーって何?」
「そうか、知らないのか。
エイサーは沖縄の伝統的な踊りだな。
太鼓を鳴らしながら踊るんだが、楽しいぞ!
ハーリーは竜をモチーフにした船を漕いで速さを競うんだ!
元々は海に出るときの安全祈願と豊漁を祈るものなんだが、船乗り達の熱い勝負になっているな」
「そうなんだ。
あとは綱引きって言ってたけど、運動会でやる種目のこと?」
「そうだな!
だが、運動会で子供が引っ張るような縄ではなく、大人が抱えきれない太さの綱を引き合うんだ!
飛び入り参加も歓迎してるし、奏多も参加するといい」
屈強な海の男達と綱引きをする様子を思い浮かべる。
飛び入り参加したお客さんに怪我人がでないのか不安に思う。
「綱引きの参加は考えておくね」
「うむ!あ、そうそう。
海の女神様の劇は"ザン"についての話なんだ!」
じいちゃんは茶目っ気たっぷりの顔をしている。
やっぱりじいちゃんも瑠璃さんが祀られている海の女神様だと気づいていたようだ。
「うん、そうみたいだね。
まさか瑠璃さんがじいちゃんの言ってた"ザン"本人だとは思わなかったけど」
僕の発言にじいちゃんはぽかんとする。
「え?瑠璃ちゃんが"ザン"本人なのか?」
「え?そうじゃないの?
瑠璃さん自身で津波のことを漁師に伝えたら崇められたって言ってたし」
じいちゃんは見たことがないくらい驚いた顔をしている。
「は?え?
俺はてっきり"ザン"は種族の話で、瑠璃ちゃん本人だとは思ってなくて…
確かに網に引っかかったって言ってはいたが、瑠璃ちゃんが『ちょっと前』なんて言うからてっきり最近の話かと…
爺さま婆さまの代より前の話が『ちょっと前』だとは思わんだろう!」
あたふたしているじいちゃんを初めて見た。
僕は可笑しくてふふっと笑う。
「あ、今笑ったな!?
まさか女神様ご本人様があんなに若いとは思わないだろう!」
「確かに瑠璃さん若く見えるけど何歳なんだろう。
今日も夜に会う約束してるから聞いてみようかな」
僕がそう言うと、じいちゃんは僕の肩を押さえる。
「奏多、女性に年齢を聞くのは止めなさい。
絶対だぞ!」
じいちゃんの鬼気迫る雰囲気に押され、僕は頷く。
過去に女性と年齢のことで何かあったのだろうか。
頷いた僕を見ると、じいちゃんはいつもの優しい笑顔になる。
「うむ!
そうしたらそろそろ俺は祭りの手伝いに行ってくるな。
ご飯は冷蔵庫にあるし、材料も好きに使って、何か作って食べてもいいぞ。
今日はゆっくり休みなさい」
「わかった。ありがとう」
じいちゃんは微笑み、僕の頭をポンポンっと叩いて出かけていった。
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僕は夏休みの宿題をやっている。
何時間経っただろうか。
ふと、僕が持ってきた荷物を見る。
そこにはなんとなく持ってきた絵の具とスケッチブックがある。
しばらく開いていなかったスケッチブックを開くと、最後に潜った海の絵が描いてある。
中学3年の夏に父さんと母さんと一緒に潜った海だ。
懐かしい。
この絵以降、筆は握っていない。
絵を見ていると瑠璃さんの顔が浮かぶ。
瑠璃さんを描く約束をしたっけ。
何十ページも描いてあるスケッチブックを見返しても人物画は一切ない。
こんな僕が瑠璃さんの絵を描けるだろうか。
悩みつつも鉛筆を手に取り、下書きを描いてみる。
描き始めてしばらくして手が止まる。
瑠璃さんの顔を思い浮かべるが、細かいところを描けるほど見たことがなかったことに気がつく。
今日の夜、スケッチブックを持って瑠璃さんに会いに行こう。
それにスマホの写真じゃなく、本物の絵も見せたい。
そう決断した僕は、残りの宿題を片付けるために机へと向かう。




