そっくりな笑顔
昔の夢を見た。
リビングで父さんと母さんの昔話を聞いている夢。
「俺の子供の頃の話を聞きたい?」
「うん!お父さんが子供の時にどんなことをして遊んでたのかとか知りたい!」
小学生だった僕は、無邪気な顔で父さんに聞いている。
「お友達の間で流行っているみたいよ。
親の子供の頃の遊びをやってみようって」
ご飯を作ってくれている母さんがくすくす笑っている。
「なるほどなぁ、子供はよく思いつくもんだ。
香織ちゃんはどんな遊びをしてたんだ?」
「私はお人形遊びとか長縄跳びとかかな。
両親がアウトドア好きだったからキャンプとか登山、ダイビングとかもやってたわね」
「あー確かにお義父さん達はめちゃくちゃアクティブだよな。
香織ちゃんともダイビングで出会ったし」
父さんは過去を懐かしんでいるのか、優しい顔をしている。
「え、お母さんとお父さんの馴れ初め聞きたい!」
「どこでそんな言葉覚えてくるんだか…
そうだな、香織ちゃんとは島のダイビングで…」
「もう!その話はいいじゃない!
それより泰斗くんの子供の頃の遊びを奏多に話してあげて」
母さんは父さんの言葉を遮るように話す。
当時は馴れ初めの話を聞けなかったことが不服だったが、今ならわかる。
母さんは照れていたのだ。
「はいはい。
俺が子供のときは島中を走り回ってたなー。
誰も知らない秘密基地を見つけて、そこに宝物を隠してたんだ!」
「秘密基地!いいなぁ!
僕も見つけて宝物隠したい!どうやって秘密基地を見つけるの?」
僕は期待に満ちた顔を父さんに向ける。
父さんは得意気な顔をしている。
「よーし!コツを教えてやろう!
基本は人が通っても目をやらない死角を探すんだ!
例えば、階段の裏とか大きな木の後ろとかだな。
みんな前ばっかり見て歩いてるから、後ろや下には気づかないんだ。
それから『行き止まりだ』ってみんなが引き返す場所。
その先に意外な道があったりする。
そして俺のとっておきは…海からしか見えない場所だ!
潮が引いたときにしか入口が出てこないから、島の大人だって知らないんだぞ」
「すごい!僕もそこに行きたい!」
「そうか、行きたいか!
だが、そこは奏多がもう少し大きくなってからにしよう。
海の秘密基地は、はしゃぎすぎると危ないからな。
父さんと約束だ」
「うん!早く大きくなりたい!
そこにお父さんの宝物があるの?」
「ああ、とびきりの宝物がある」
「ほんとに?
僕が大きくなったらお父さんの宝物を見つけに行く!」
「そうか!奏多が俺の宝物を見つけるのを楽しみにしてるぞ!」
父さんは満面の笑みを浮かべる。
僕は未来の冒険に思いを馳せていた。
「ほら、2人とも!
ご飯が出来たからそろそろテーブルの上を片付けて!」
「はーい!僕がご飯運ぶー」
「奏多、ありがとう!
こぼさないように気をつけて運んでね」
僕はゆっくりと真剣にご飯を運ぶ。
そんな僕を父さんと母さんは優しい眼差しで見守ってくれていた。
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太陽の光が顔を照らす。
開け放たれた窓から、沖縄の湿った朝の風が入ってくる。
幸せな夢を見た。
あのあとは母さんのご飯を父さんと競っていっぱい食べたんだっけ。
母さんのご飯はとても美味しかった。
夢を思い出し、僕の心が温かくなる。
風が気持ちいい。鳥の声が聞こえる。
すっきりとした目覚めだ。身体も軽い。
いつもと同じ朝なのに、色彩が鮮やかに感じる。
コンコンとノック音が聞こえ、じいちゃんが部屋に入ってきた。
「おはよう、奏多。
体調はどうだ?」
「じいちゃん、おはよう。
体調はいいよ。
昨日は僕のためにお祭りの準備を中断させちゃってごめんね」
僕の返答を聞いたじいちゃんは驚いた表情になるが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべる。
「そうか!
なぁに、そんなことは気にすることはない!
奏多の体調がいいことが一番だからな!
さぁ、美味しい朝ごはんができてるぞ!
先にダイニングに行っているから準備ができたらおいで!」
「うん、わかった。
じいちゃん、いつもありがとう」
じいちゃんは笑みを深めて部屋から出ていった。
僕は準備をしてダイニングに向かう。
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ダイニングテーブルには、じいちゃん特製の朝食が大量に並んでいる。
席に着き、いただきますと手を合わせてから食べ始める。
身体が食べ物を求めている感覚がある。
一口、また一口と箸が進む。
身体がもっと寄越せと言っている。
僕は身体が求めるままに、どんどん口に運んでいく。
泰造じいちゃんは驚きと嬉しさが入り混じった顔をして僕を見つめている。
「奏多、ご飯は美味しいか?」
「うん、じいちゃん。美味しいよ」
僕は笑顔を作ろうとしたが、表情はわずかにしか動かない。
また上手く笑えていない。
でも、島の人たちの前で作っていた笑顔とは違う。
あの頃は、ここは笑うところだと空気を読んで顔を動かしていただけだった。
心は何も感じていないのに、表情だけ動かそうとしていた。
だけど、今は違う。
確かに僕は、美味しいと思った。
僕自身の気持ちで、笑おうとしたのだ。
「美味しいか!それは本当によかった!
まだまだあるからな、いっぱい食べろよ!」
じいちゃんは満面の笑みを浮かべる。
その顔は夢で見た父さんにそっくりだった。




