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指切りの約束

「おーい!奏多!聞こえる?」


瑠璃さんは僕の顔を覗き込む。

目の前に顔が急に現れて思わず仰け反る。


「え、あ、ごめん聞こえてる」


「よかった!急にぼーっとし始めたからびっくりしちゃった!


ということで、奏多のこと教えて!

好きなことでも嫌いなことでも、楽しいことでも辛いことでもなんでもいいよ!」


瑠璃さんは空になったタッパーを横に置き、僕の話を聞く体勢になる。


「僕のことか…うーん…」


僕のことを話すとなっても、何を話していいのかわからない。


「はい!そうしたら奏多の好きなこと教えて!

これをやっていると時間を忘れるとか夢中になれるようなこと!

好きな食べ物でもいいし、好きな人でもいいよ!」


瑠璃さんが助け舟を出してくれる。

好きなもの…僕は頭に浮かんだことを口に出す。


「うーん、ゴーヤーは好きかもしれない」


「え、ゴーヤー!?苦いのが好きなの?」


瑠璃さんは驚いた表情を見せる。


「苦いのは好きじゃないけど、家とかじいちゃんの家で出てくるゴーヤーは程よく苦くて癖になっちゃって。

下処理の方法次第になってしまうけど、ゴーヤーは好き」


「そういえば泰造ちゃんのご飯にゴーヤー出てきたかも!しかも苦くない!」


「多分僕が好きって言ったからだと思う。

食べられるのは夏の間だけだから、今のうちにいっぱい食べておけよって言ってくれてた。


そういう意味では夏も好きかも。

ゴーヤーが食べられるし、泳いでいて気持ちがいいし」


「さすが泰造ちゃん!

私も泰造ちゃんのゴーヤー大好き!」


瑠璃さんは頬に両手を添えて嬉しそうに笑う。


「あ、あと私も夏が好き!

夏は海面近くがぬるいけど、魚達もイキイキしてるし深く潜るとヒンヤリして気持ちいいんだー! 人間も魚も賑やかになるから楽しいよね!


奏多も泳ぐの好きなの?」


「うん。ダイビングとかよく行ってたよ。

海の中は静かでどこまでも続いていて、自由になれる気がして好き」


「わかる!私も泳いでいるとどこまでも行けるって思うもの!」


瑠璃さんは腕を広げて尾ビレを揺らす。


「瑠璃さんもそう思うんだ。

海って面白いよね。

潜るたびに同じ場所なのに全く景色が違うし、色も毎回違うんだ。

だから綺麗な光景を残したくて絵をよく描いてた」


「絵?絵って何?」


瑠璃さんは首を捻る。


「絵か…絵は…紙に景色だったり人だったり空想を描いたりとか…何でも紙に描けば絵になるのかな…?」


「うーん、わからないや…」


瑠璃さんは肩を落とす。

どうにか伝えられないか考え、僕はスマホの電源をいれる。

沖縄に来てからずっと電源を切っていた。

充電もしていなかったから点くか不安だったが、問題なくスマホは起動する。


「何それ!光ってるし何か書いてある!

これが絵?」


「これはスマートフォンっていう電話機だよ。

絵を瑠璃さんに見せたくて…これが僕が描いた絵」


写真フォルダを開き、僕が描いた海の絵が受賞したときの写真を瑠璃さんに見せる。

僕の描いた絵と家族3人が写った写真が表示される。

写真の中の父さんも母さんも、笑っていた。

胸の奥が少しだけ痛む。


「奏多がいる!あと海と奏多に似てる人間達も…これが絵?」


「これ自体は写真といって、その瞬間を残してあとで見ることができるようするための技術…かな?

絵はこの海が描いてあるものだよ」


僕は海の絵を拡大する。


「海が大きくなった!

すごい…綺麗…海が切り取られたみたい!

なんだろう…海なんだけど、温かさとか嬉しいとか楽しいって気持ちを感じる…

海は全部受け入れてくれそうって思っちゃった!不思議ー!

この絵ってすごいね!見てると楽しくなっちゃった!」


瑠璃さんはキューと笑う。


僕は瑠璃さんの言葉に驚く。

瑠璃さんが言ったことは、僕が海に対して思っている感情だ。


嫌なことがあっても、海の音を聞くと落ち着く、新しい光景に出会えるとワクワクするしその瞬間に立ち会えたことが嬉しい。

自分が見た光景を誰かに伝えたり、絵を描いて頭の中にしかない光景を表現できるのが楽しい。

僕は海が好きだ。

海はそんな僕を受け入れてくれる。


僕の思いが絵を通して瑠璃さんに筒抜けであることに気恥ずかしさを感じる。


「ねぇ!絵って人も描くって言ってたよね?

私のことも描ける?」


瑠璃さんは期待に満ちた顔で僕を見つめる。


「…多分描けると思う。

ただ、僕は人物を普段描かないから下手くそだけど」


きっと瑠璃さんの期待には応えられないだろう。

僕は気まずくて瑠璃さんから目をそらす。


「普段から描くと上手になるの?

それならいっぱい私のこと描いて上手になって!」


「いいでしょ!」と瑠璃さんは僕に顔を近づけてくる。

言ってることは正しいが、強引な言葉と行動に圧倒される。


「わかったから離れて!近い!」


「やったー!奏多が私のことを描いてくれるって言った!

約束だからね!」


瑠璃さんは僕から顔を離し、小指をたてる。


「小指を絡めることが人間の約束の印なんでしょ?

前に人間が約束するときに小指を絡めてたのを見たことがある!」


瑠璃さんは笑顔で自身の小指を差し出す。

僕は戸惑いながらも自身の小指を瑠璃さんの小指に絡ませる。


「はい!これで約束できた!

私の絵、楽しみにしてるね!」


瑠璃さんは綺麗な顔で笑った。

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