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当たり前の食卓

友蔵さんが家のドアを開ける。


「奏多くんを連れてきたぞー」


「奏多くんいらっしゃい!

よく来てくれたね!」


修平のお母さん、沙都子(さとこ)さんが笑顔で僕を迎えてくれる。


「お邪魔します。

これよければ召し上がってください」


僕はじいちゃんが庭で育てているマンゴーを渡す。


「あら、ありがとう!

修平が勉強を教わる側なのに悪いわね」


「奏多くんありがとね!

お昼は戻ってくるから奏多くんと泰造ちゃんも我が家で食べていって!

じゃ、泰造ちゃんは俺と一緒に祭りの準備に向かいましょー」


友蔵さんはじいちゃんを乗せて車で去っていく。


「奏多くん、よければリビングでお茶でも飲んで涼んでて。

修平呼んでくるから」


沙都子さんは僕をリビングに通し、麦茶を出した後修平を呼びに向かう。


しばらく待つと修平がリビングへとやって来る。

なんだか不機嫌そうな顔をしている。


「あ、ほんとに奏多が来てる。

てか奏多って勉強教えられるのか?」


発言をした瞬間、沙都子さんが修平の頭に拳骨を落とす。


「あんたがわからないって言うからわざわざ奏多くんが来てくれたんでしょ!」


「いってぇ…だって奏多って勉強教えられるくらい賢そうに見えないんだもん」


修平はまた沙都子さんに拳骨を落とされる。

大分痛そうだ。


「全く…奏多くん、このバカがごめんなさいね」


僕は乾いた笑いを漏らす。

修平は沙都子さんに文句を言っている。


「ほら、修平!早くわからないところ出しなさい」


「俺悪くねぇのに…あー奏多、このへんがわからないんだけど。

わからないんだったら俺の時間の無駄だからさっさと言ってね」


「修平!言葉が悪い!」


2人のやりとりを横目に見つつ、修平が出してきたものを確認すると模試の問題だった。

国語・数学・理科・社会・英語それぞれに付箋が貼ってあるが、ほぼ全てのページに付箋が貼ってある。


「付箋のページがわからない問題ってこと?」


「そう。どう?わかりそう?」


「全部を教えられるかわからないけど、とりあえず1つずつ解いてみようか」


僕と修平は横並びに座り、問題を確認していく。


-------------------------


「ーーここはxに計算した値を代入してみて」


「えーっと、こう?」


「そう、正解」


「おっしゃ!」


修平はガッツポーズをする。


数学で修平がわからない問題を一緒に解いている。

教えられるか不安だったが、受験勉強と高校に入ってからも自主学習に明け暮れていたためか覚えていることに驚く。

文章が頭に入ってこないこともあるが、なんとか教えることができている。


「奏多って意外と教えるの上手いのな」


「そうかな。それならよかった」


トゲトゲしていた修平だったが、教え始めると真剣に勉強に取りかかっている。


「奏多くん、ありがとうね。

修平の模試の結果が返ってきたのだけど、あんまりにも悪くて」


「かあちゃん!そんなこと奏多に言わなくてもいいだろ!」


修平が沙都子さんに怒る。

沙都子さんは「ごめんごめん」と軽く謝罪をしながらお昼の準備を進めている。


「2人とも、そろそろテーブルの上を片付けて!

父ちゃん達が帰ってくるから」


沙都子さんに促され、広げていた問題を片付ける。

まだまだ修平のわからない問題は残っており、大分時間がかかりそうだ。


机の上に素麺や天ぷら、漬物が並ぶ。

少しすると玄関のドアが開き、友蔵さんと泰造じいちゃんが入ってくる。


「父ちゃんと泰造さんお帰りー」


「2人ともお帰りなさい!

冷たいお茶もあるから早く座って飲んで」


沙都子さんがテキパキと2人にお茶を出す。


「沙都子さん、ありがとう。

どれも美味しそうだなぁ」


「母ちゃんありがとう!

今日も美味そう…もう腹ペコだ」


じいちゃんと友蔵さんは沙都子さんが案内した席に座り、お茶を飲む。


「2人ともおつかれさま。

さぁ修平と奏多くんも座って食べましょう!」


僕と修平が座り、みんなでご飯を食べ始める。


「沙都子さん、この天ぷらさくさくで美味しいな!」


「泰造さんありがとう、奏多くんもまだまだあるからあるから食べてね」


沙都子さんはニコニコしてじいちゃんのお茶のおかわりをいれる。


「母ちゃん、ほんとに美味いよ!

ところで修平の勉強は進んだのか?」


友蔵さんは素麺を啜りながら修平に質問をする。


「あーまぁまぁかな。

奏多の教え方意外と上手いからすぐに成績あがって高校も受かっちゃうから!」


「奏多くん、修平に教えてくれてありがとうな。

修平は調子にのるな!

本当に高校受かりたいならしっかり勉強しろ」


「そうよ、修平。

もう少し計画的に勉強しないと間に合わないわよ」


友蔵さんと沙都子さんは修平の軽い調子を叱る。

修平は叱られて拗ねている。


ここには当たり前の家族の風景がある。

食卓を囲み、今日あった出来事を話す。

時には両親に叱られることもあるが、心配や愛情ゆえの行為だ。


今の僕には体験できないことだ。

父さんは死んでしまった。

母さんは今一緒にいてもお互いに向き合えるかわからない。


――修平が羨ましい。

――なんで父さんは死んじゃったんだろう。

――なんで母さんと一緒にいられないのだろう。


負の感情が僕の中を巡る。

泣きたいわけではないのに涙がこみ上げてきた。


「すみません、お手洗いお借りします」


僕は顔を見られないようにトイレに向かう。

ドアを閉めたあと、涙が溢れる。

早く戻らないと不審に思われてしまう。

午後も修平に勉強を教えないといけないのに。


頑張って涙を引っ込める。

目が赤くなってしまっているが、どう言い訳しようか。


僕はトイレットペーパーで顔を拭き、トイレから出る。


----------------------------


「奏多くんごめんなさい。

今日体調が悪いのに修平に勉強を教えると約束があったから無理して来てくれたんでしょ?」


リビングに戻ると沙都子さんから声をかけられる。

何のことだろうと思っていると、友蔵さんが玄関から戻ってくる。


「奏多くん、泰造ちゃんから聞いたよ。

修平のために無理させちゃってごめんね。

泰造ちゃん家に送るからゆっくり休んで」


どうやらじいちゃんは僕が体調不良であると伝えたみたいだ。

じいちゃんを見ると心配そうな顔をしている。


「奏多ゆっくり休めよ!

元気になったらまた勉強教えてくれよな」


修平は心配そうに声をかけてくる。

体調が悪いわけではない僕は気まずくなる。


「僕は大丈夫。

午後も修平の勉強をやらないと」


「いいって!

さっき教えてくれたことで大分理解できたから1人でやってみる!」


「奏多、今日は一緒に帰ろう。

祭りの準備は俺がいなくてもどうにかなるからな!」


じいちゃんも帰り支度している。

僕は申し訳なくなりながらも、じいちゃんと一緒に友蔵さんの車に乗りじいちゃん家に帰った。


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