第51話: 管理者権限の奪還
テュポンを消去したことで、レイたちの持つ 【神眼】 のハッキング深度はさらに深まっていた。
「マスター。テュポンの消去に伴い、彼が管理していた『物理計算の制御キー』が一時的に空間に浮遊しています。これを回収すれば、この領域の物理法則を私たちが自由に上書きできますよ」
アルテが浮遊する黄金のキーを指し示す。
「回収よろしく、アルテ。そしたら、このエリア全体の『空気抵抗』を僕たちの動きに都合がいいように書き換えちゃって」
レイの指示に基づき、アルテが瞬時にキーを統合した。
その瞬間、レイたちの移動速度は物理的な限界を超え、まるで風になったかのようなスピードで、静かに神殿を突き進むことが可能になった。
周囲の神聖衛士たちが反応する前に、レイは彼らのコアを正確に書き換え、活動を停止させていく。
「ふん、手応えがありませんね。神々と威張っていた割には、システムに依存しすぎて個々の戦闘技術は三流以下ですよ」
ブリュンヒルデが冷徹な笑みを浮かべ、細剣を静かに鞘へと収める。
「当然です。彼らはあらかじめ用意されたルールの上でしか強さを発揮できません。ルールそのものを書き換えられる我が主の前では、いかなる神もただ人形と同じですよ」
ガウェインがレイの背後を完璧にガードしながら言いた。
「――――増長するのも大概にしなさい、人間の羽虫ども」
前方の巨大な扉の前に、今度は二柱の主神が同時に姿を現した。
一柱は、世界の『熱量と火炎』を支配する火炎神――『アグニ』。
もう一柱は、世界の『絶対零度と凍結』を司る氷雪神―― 『クヴァシル』。
相反する属性を持つ二柱の主神の魔力が共鳴し、空間が沸騰と凍結を同時に繰り返す、極限の異常気象領域が展開された。
「触れるだけで肉体を蒸発させ、魂を永久に凍結させます。これこそが神の領域の絶対防御結界ですよ」
アグニとクヴァシルが同時に手を突き出すと、赤と青の巨大な螺旋の光線が、レイたちに向けて放たれた。
空間そのものが熱膨張と収縮によって引き裂かれる、回避不可能な破壊の波動である。
「相反する属性を同時に展開したんだね。一見完璧に見えるけど、処理の同期がちょっと甘いかな。アグニの熱量計算と、クヴァシルの冷却計算の間に、わずかな『同期ズレ』が発生してるよ」
レイは穏やかな瞳でその二つの光線の「交差点」をスキャンした。
「その隙間に、この記述を挟ませてもらうね。――『属性干渉の無限ループ』」
レイが【虚空の修正剣】の先端を二つの光線の衝突点へと静かに突き刺した。
ハッキング: 熱量と冷却の『相互参照記述』を無限ループさせ、演算リソースを枯渇させます。
ピキィィィン・・・・・・!
放たれた赤と青の光線は、レイに届く直前で互いに互いを参照し合い、奇妙なノイズを発しながらその場に完全に静止した。
そして、アグニとクヴァシルの身体からも、激しい火花とエラーのエフェクトが噴き出し始める。
「な・・・・・・私の魔力が、逆流している・・・・・・!? 制御が、効きません………………!」
「演算が………………飽和します・・・・・・! 処理が、追いつきません・・・・・・!」
二柱の神は、自らが放った魔法の処理負荷に耐えきれず、激しい光の霧となって自滅していった。
レイは晴れ渡る爆煙の中を、何事もなかったかのように平然と通り抜けていった。
【新作のお知らせ】
いつも本作をお読みいただき、本当にありがとうございます!
この度、新しい連載作品をスタートいたしました。
タイトル:『森羅家の生活魔法は戦闘不能? 〜カフェの雑用と馬鹿にされた三姉弟、Fランクから最強へ駆け上がる〜』
あらすじ:「カフェの雑用魔法」と蔑まれた三姉弟が、知恵と工夫で地味な日常魔法を昇華させ、Fランクから最強へと駆け上がる成長ファンタジー!
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