第5話:悲劇の英雄たち
王都オウラシオンの冒険者ギルドは、重苦しい空気に包まれていた。
「……そうか。第5層で、Aランクの変異種に」
ギルドのベテラン受付嬢・ミーシャが、沈痛な面持ちで書類にペンを走らせる。
その前で、リーダーのガイと魔術師のセリアは、わざとらしく肩を震わせ、悔しさに満ちた表情を演じていた。
「クソッ、俺の実力不足だ! 俺がもっと強ければ、レイと、前衛のトールを救えたのに……!」
ガイが机を拳で叩く。迫真の演技だった。
「仕方がありませんわ、ガイさん。あんな怪物、Cランクの私たちじゃどうしようもなかった。二人は、私たちを逃がすために自ら囮に……うっ、うう……」
セリアもハンカチで目を覆い、嘘の涙を流す。
周囲の冒険者たちは、彼らの「仲間を失った悲劇」に同情し、口々に声をかけた。
「気にするな、ガイ。Aランク相手に生還しただけでも奇跡だ」
「そうだ。あのFランクのポーターも、最後に冒険者らしい立派な仕事をしたんだよ」
ギルド内は、ガイたちを称え、死んだ(と思われている)レイたちを追悼する空気で満たされていく。ガイは俯きながら、髪の隙間からゲスな笑みを浮かべていた。
(計画通りだ。これで俺たちは『Aランクの脅威から生還した有望株』として、さらに名声が高まる……!)
その時だった。
バァン!!!
ギルドの重厚な正面扉が、乱暴に押し開けられた。
入ってきたのは、全身が血と泥に汚れた大柄な男──ガイたちが迷宮に置き去りにしたはずの、前衛戦士の『トール』だった。
「が、ガイ……! セリア……お前ら……っ!」
トールは満身創痍の体を震わせ、二人を指差した。
「なっ……ト、トール!? なんで生きて……」
ガイの顔から血の気が引いた。死んだはずの仲間が、そこに立っていたのだ。
「お前ら、俺とレイを見捨てて逃げただろ! レイは……レイは俺を安全な場所に隠して、一人で戦いに行ったんだぞ!」
トールは、気絶する直前に見た光景(レイが自分をかばうように前に出た姿)から、そう誤解していた。
ギルド内が、一瞬で騒然となる。
「おい、ガイ! 仲間を見捨てて逃げたってのは本当か!?」
「ポーターを囮にしたのか!?」
「ち、違う! 誤解だ!」
ガイは冷や汗を流しながら、必死に頭を回転させた。ここで認めれば冒険者生命は終わりだ。
「トール、お前は混乱しているんだ! あの時、レイはすでに死んでいた! 俺はお前だけでも連れて行こうとしたが、ミノタウロスの攻撃で吹き飛ばされ、やむなく……!」
「嘘をつくな!!」
泥沼の言い争いが始まろうとした、その瞬間。
コツ、コツ、コツ……。
トールの背後から、もう一人の人影が、静かにギルドの中へと足を踏み入れてきた。
「少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク】や【評価】で応援していただけると励みになります!」




