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第49話: 神聖領域・オリュンポス

黄金に輝く階段を上り詰めた先。そこに広がっていたのは、人間たちが地上で築いてきたいかなる大聖堂とも違う、まばゆい光に満ちた白亜の神殿群であった。


空気は驚くほどに澄み切っていて、呼吸をするだけで、高密度な魔力の粒子が身体の奥へと流れ込んでくるのが分かる。


周囲を見渡しても遮るものは何もなく、はるか下方には、自分たちが命がけで旅してきたダンジョンの深層や、さらにその下にあるはずの人間界が、まるでガラス細工の模型のように小さく見下ろせた。


ここが、世界システムの最上位階層であり、神々が支配する場所――『神聖領域・オリュンポス』である。


この世界の物理法則や、運命の巡り合わせ、そして人々に与えられる『加護』の配分をすべて裏側から管理している、いわば世界の中枢コントロールセンターだ。


「みんな、身体重くない? この辺、魔力の密度がちょっと異常だから、少し苦しいかも」


レイは少しだけ歩みを緩めて、後ろを歩く仲間たちへと振り返った。その穏やかな声音には、この場所が放つ圧倒的な威圧感に気圧される様子など、みじんもない。


ただ、彼の金色の瞳―――― 【神眼の支配者】だけは、神殿を形づくる黄金の柱や壁、さらには神々が隠そうとしている世界の「管理者専用コード」を、静かに、そして鋭く解析し続けていた。


「いや、大丈夫だぜレイ! だけど、この場所の魔力は半端じゃないな。肌に触れるだけで、ピリピリと電気 が走るみたいだ」


トールが愛用の戦鎚斧を肩に担ぎ直し、周囲の壮麗な景色を警戒するように見回す。


「心配いりません。みなさんの周りには、私が演算した『魔力負荷をカットする保護壁』を常に張っています。そのまま歩いていても大丈夫ですよ」


アルテがレイの隣に静かに寄り添いながら、淡々と、しかしどこか誇らしげに言った。


「ありがと、アルテ。いつも本当に助かるよ。・・・・・・さて、向こうから歓迎の挨拶が来たみたいだね」


レイが視線を前方の長い回廊へと向けると、大理石の床から光の粒子が立ち上り、白銀の重厚な甲冑を纏った「神聖衛士(ガーディアン)」が数百体、一斉に姿を現した。


彼らは感情を持たず、神々の定めた防衛ルールを淡々と実行するだけの自律人形である。


彼らが手にする巨大な槍には、触れたものの存在を物理的に消去するシステムコマンドが埋め込まれていた。


「ここは私たちが露払いを受け持ちましょう。主、あなたは魔力の温存を」


ガウェインが黒銀の大剣を静かに引き抜き、ブリュンヒルデと共に一歩前へ出た。


「ううん、無理に正面から戦わなくてもいいよ。彼らの制御コードをちょっと書き換えるだけで十分だから」


レイは【虚空の修正剣】を抜くことなく、ただ金色の瞳の光を神聖衛士たちの足元へと走らせた。


システム干渉:神聖衛士の『敵対判定オブジェクト』を【侵入者】 から 【神殿の防衛設備そのもの】へと書き換えます。


ピキィィィン・・・・・・・!


空間に美しい電子音が響き渡った瞬間、数百体の神聖衛士たちは一斉にその武器を反転させ、自分たちを守るはずの神殿の防衛設備を激しく攻撃し始めた。自滅していく人形たちの横を、レイは穏やかな足取りで通り過ぎていく。


「彼らも設定されたルールに従って動いてるだけだし、壊しちゃうのは可哀想だからね。これでよし、と」


少年の静かで優しい言葉とともに、神々の本拠地であるオリュンポスでのハッキングが、静かに幕を開けた。

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