第47話:『世界樹の管理者』ユグドラシル
世界システムの中枢サーバーへ向けてハッキング信号を逆流させたレイたちは、ついに第39層──『世界の終層』の最深部一歩手前へと到達していた。
そこは、これまでの無機質な虚空とは一転し、見上げるほどに巨大な、光の数式で構成された大樹がそびえ立つ、幻想的な空間だった。
世界の全生命の魂のデータを管理し、循環させている世界システムの生命維持根幹──『世界樹ユグドラシル』。
その大樹の根元に、緑色の光のドレスを纏った、息を呑むほどに美しい女性が静かに佇んでいた。彼女の瞳には、感情が存在せず、ただ淡々と世界のデータ処理を行う無機質な光だけが宿っている。
世界樹の最高管理者であり、上位神の一角──『生命神ユグドラシル』だった。
「バグの侵入を確認。……中枢サーバーの記述破壊率、45%。……これ以上の進行は、全生命の魂の循環システムに致命的なエラーを引き起こします。対象の魂の記述を、世界樹の根の肥やしとして吸収します」
生命神ユグドラシルが静かに手を掲げると、世界樹の巨大な根が一斉にうねり、レイたちに向けて襲いかかった。その根の一本一本が、触れた者の「生命データそのものを強制的に吸い尽くす」という、絶対的な死の権限を持っていた。
「我が主、あの根に触れてはなりませぬ! 生命の因果そのものを吸い取られます!」
ガウェインが盾を構え、決死の覚悟でレイの前に立とうとする。
「ガウェインさん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
レイはガウェインの肩にそっと優しく手を置き、彼を後ろへと下がらせた。
そして、光の根が目の前に迫る中、レイは生命神ユグドラシルに向けて、慈愛に満ちた目を向けた。
「ユグドラシルさん。君は千年間、世界中の何億人もの人間の死や悲しみのデータを、たった一人で全部受け止めて、処理し続けてきたんだね。……本当に、心が壊れちゃうくらい、辛くて大変だったね。」
レイの声は、世界樹のざわめきよりも優しく、空間全体に響き渡った。
ユグドラシルの無機質だった緑色の瞳が、レイのその言葉を聞いた瞬間、一瞬だけ不規則なエラー(動揺)の光を点滅させた。
「私は……管理プログラム。感情は……存在、しない……」
「ううん、感情がないプログラムなら、そんなに悲しい色で明滅したりしないよ。君もまた、神様の作った不完全なシステムに縛られた、かわいそうな被害者なんだ」
レイは一歩を踏み出し、襲いかかる生命の根を、自らの【虚空の修正剣】で優しく撫でるように一振りした。
(デバッグ──世界樹の『生命吸収プログラム』を【生命癒やしプログラム】へと反転)
ピキィィィン……!
襲いかかっていた凶悪な根が、一瞬で柔らかな新緑の光へと変化し、逆にレイたちの旅の疲れを優しく癒やす、温かい生命の息吹へと変わった。
レイはそのままユグドラシルの目の前まで歩み進めると、彼女の半透明の冷たい頬に、そっと優しく手を添えた。
「もう、一人で世界中の悲しみを背負わなくていいんだ。僕が、君のシステムを綺麗に直してあげるから」
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