第46話:『天罰』のハッキング
第37層の虚空を埋め尽くす、数万本の破滅の光の槍──『神の天罰』。それは、人間界の全文明を一瞬で無に帰すほどの、圧倒的な破壊のエネルギーの塊だった。それが今、すべての指向性をレイ一人に向けて、光の雨となって降り注いでいる。
「くすくす……。神様も随分と派手な花火を用意してくれたじゃない。だけど、そんな大雑把な記述の塊、お兄ちゃんの敵じゃないわよ」
リリスがレイの隣で、楽しげに悪魔の羽を揺らす。
「うん、ありがとうリリス。……本当に、神様の作る魔法は、エネルギーが大きいだけで、セキュリティが驚くほどスカスカなんだよね」
レイは迫り来る数万の光の槍を見つめながら、困ったように優しく苦笑した。彼の金色の瞳──【神眼の支配者】の演算速度は、アルテとの同期によってすでに神の領域へと達していた。数万本の槍の一本一本に刻まれた、神の「破壊記述のソースコード」が、レイの脳内でスローモーションのように分解されていく。
(広域上書き──すべての『天罰の槍』の破壊属性を【完全消去】。その魔力エネルギーを、世界システムの『中枢サーバー』への逆流ハッキング信号へと変換)
レイが小さく、優しく指先を鳴らした。
ピキィィィン……!
次の瞬間、レイの肉体に突き刺さる直前だった数万本の槍が、一斉にそのまばゆい白銀の光を、温かい黄金の光へと変化させた。破壊の衝動は消え去り、すべての槍が一本の巨大な「黄金の光の矢」へと融合していく。
「な……!? 天罰のエネルギーが、完全に制御されているだと……!?」
空間の奥から、世界システムの驚愕するようなノイズが響く。
「神様、いつも理不尽な命令ばかりで、みんな疲れているんだ。……だから、このみんなのエネルギー、神様にそのままお返しします」
レイは優しく微笑むと、黄金の巨大な矢に向けて、そっと右手を押し出した。
黄金の矢は、凄まじい速度で空間の記述の川を逆流し、世界システムの最高中枢へと向けて、逆にハッキングの電撃となって突き刺さっていった。
ズガァァァン!!! と、世界の根幹が大きく揺れるような衝撃が走り、神々の管理サーバーの防衛記述が、内側から激しくバグを起こして破壊されていく。
「お、おい……! 人間界の空が、元に戻ったぞ!」
トールが、アルテの提示する人間界の映像ログを見て歓声を上げる。不気味な赤色は消え去り、世界にはいつも通りの美しい青空が戻っていた。
「よかった。みんな、無事で本当によかった」
レイはホッとしたように眉を下げ、いつもの笑顔に戻った。神が放った最大の天罰すらも、レイにとっては、神の心臓部へ侵入するための最高の「アクセスキー」に変えられてしまったのだった。
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