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第44話:『審判官』の降臨

第35層へと足を踏み入れた瞬間、レイたちの視界は、冷徹なまでの漆黒の空間へと一変した。


上空には、巨大な三つの「神の目」が浮かんでおり、そこから放たれる赤黒い光線が、レイたちの肉体の構造をリアルタイムで解析スキャンし、崩壊させようと迫る。


「マスター、上空のオブジェクトは、世界システムの上位防衛プログラム──『審判官・ラダマンティス』です。これまでの執行官とは異なり、対象の『存在記述そのものを根本から抹消する』権限を持っています」


アルテがレイの前に立ち、空間障壁を展開しながら緊迫した声で告げる。


漆黒の闇の中から、数千の光の剣を背負った、冷徹な鎧の巨人が舞い降りてきた。彼の全身からは、これまでの敵とは次元の違う、空間そのものを消滅させるほどの絶大な神威が放たれている。


「バグよ。お前たちの進行は、神々の許容値を超えた。これより、世界記述の健全性を保つため、お前たちの魂の全データを【完全初期化フォーマット】する」


審判官ラダマンティスが手を掲げると、上空の三つの神の目から、空間のすべてを無に帰す、漆黒の「消去光線」がレイたちに向けて放たれた。防壁を展開していたアルテの障壁が、触れた瞬間からサラサラとデジタルノイズとなって消滅していく。


「マスター、私の演算防御が……消失していきます……!」


「大丈夫だよ、アルテ。よく頑張ってくれたね。あとは僕に任せて」


レイはアルテの肩を優しく抱き寄せると、彼女を後ろへと下がらせた。


そして、新しく進化した【虚空の修正剣】を静かに引き抜き、迫り来る漆黒の消去光線に向かって、困ったように眉を下げて微笑みかけた。


「ラダマンティスさん。君は世界を守るために、一生懸命お仕事をしているだけなんだよね。それはとっても立派なことだと思うんだ」


レイは穏やかな足取りで一歩前へ出ると、大剣を上空へと向けて、優しく静かに一振りした。


(書き換え──消去光線の『消去対象』を【レイたちのデータ】から【ラダマンティス自身の防衛権限】へと変更)


ピキィィィン……!


放たれた漆黒の光線が、レイの剣に触れた瞬間、その因果の指向性を完全に反転させ、上空に浮かぶ三つの「神の目」へと直撃した。


「な……!? 我が消去権限が、システム自身を消去しているだと……!? 誤作動バグか……!?」


ラダマンティスが驚愕の声を上げる。三つの神の目は、自らが放った消去光線によって、跡形もなく綺麗に消滅していった。


「システムは間違っていないよ。間違っているのは、罪のない人をバグと呼んで排除しようとする、その歪んだ設定ルールだ」


レイの金色の瞳が、ラダマンティスの鎧の奥にある、神の中核コードを捉える。


レイは一瞬でラダマンティスの懐へと滑り込むと、修正剣の腹で、彼の胸元を優しくポンと叩いた。


「もう、無理してお仕事しなくていいんだよ。ゆっくり休んで」


(デバッグ──ラダマンティスの『敵対防衛記述』を【完全消去】)


「あ……が……。世界を……直す、者、よ……」


ラダマンティスの冷徹な鎧が、サラサラと穏やかな白銀の光の粒子へと変わり、深淵の闇を優しく照らしながら消え去っていった。


上位神の審判すらも、レイの圧倒的なハッキングと優しさの前には、ただの不完全なプログラムに過ぎなかった。

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