第42話:『強制執行』の軍勢
第30層に到達したレイたちの前に立ち塞がったのは、これまでの防衛術式とは明らかに毛色の異なる、恐るべき軍勢だった。
「──いたぞ! あいつが、神に仇なす加護なしのバグだ!」
「殺せ! あいつを殺せば、神様からさらなる祝福が貰えるんだ!」
現れたのは、数百人にも及ぶ、人間界の最高峰たる『Aランク冒険者』たちの集団だった。しかし、彼らの様子は異常だった。目は血走り、額の加護の紋章からは黒い液体のような魔力が溢れ出している。神のシステムによって精神を完全にハッキングされ、レイを殺すためだけの「生体端末」へと改造された哀れな人形たちだった。
彼らの周囲には、世界システムの強制バフにより、一人一人が『Sランク冒険者』に匹敵する、破滅的な威圧感が渦巻いている。
「おいおいおい……! 冗談だろ、王都や他国の有名パーティが勢揃いじゃねえか! どいつもこいつも、完全に理性を失っていやがる!」
トールが戦鎚斧を構え、その圧倒的な数の暴力に冷や汗を流す。
「我が主、彼らはすでに魂の記述まで神のシステムに同期されています。手加減をすれば、こちらが押し潰されますぞ」
ガウェインが前に出ようとする。
「みんな、待って。……彼らと戦う必要はないよ」
レイは前に出ると、狂気に満ちた目で自分を睨みつける冒険者たちに向けて、ひどく悲しそうに、そして慈愛に満ちた目を向けた。
「みんな、とても苦しいよね。神様に心を操られて、自分の意志で動けないなんて……本当にかわいそうに」
「黙れぇぇッ! 死ね、バグめがぁぁッ!!」
最高峰の魔術師たちが、神の暴走魔力を乗せた絶大なる複合極大魔法をレイに向けて一斉に放った。空間が熱量でドロドロに溶け、第30層全体を吹き飛ばさんとする光の濁流がレイに迫る。
だが、レイは一歩も動かず、その金色の瞳──【神眼の支配者】の視線を、迫り来る魔法ではなく、数百人の冒険者たちの額にある「加護の紋章」へと一斉に合わせた。
(広域ハッキング──全対象の『加護システムへのアクセス権』を【一時凍結】)
ピキィィィン……!
空間を埋め尽くしていた破滅的な複合魔法が、レイの体に触れる直前、まるで幻だったかのように、一瞬でシュンと霧散していった。
それと同時に、数百人の冒険者たちの額の紋章が完全に光を失い、彼らの肉体を満たしていた狂気の暴走魔力が一滴残らず消失した。
「え……? あ、あれ……? 俺は、一体何を……」
「力が……抜けていく……? 加護の、光が……消えた……?」
加護の強制ブーストと精神支配を同時に解除された冒険者たちは、激しい虚脱感とともに、その場にバタバタと崩れ落ち、次々と気を失っていった。レイのハッキングは、彼らの肉体を一切傷つけることなく、神の支配だけを完璧にデバッグしたのだ。
「みんな、ゆっくり眠ってね。目が覚めた時には、もっと素敵な世界になっているからね」
レイは倒れた冒険者たちの一人一人に声をかけながら、彼らの間を静かに通り過ぎていった。神が用意した最大の「人間の盾」すらも、レイの圧倒的な技術の前には、何の意味もなさなかった。
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