第36話:異例の「Aランクへの推薦」
特務騎士団が全滅し、血と氷の匂いが立ち込める神殿の広場。
レイが黒大剣を静かに鞘へと収めた、その瞬間だった。
キィィィン……! と、空間そのものが悲鳴を上げるような、異常な密度の魔力変動が起きた。
レイたちの前方の空間が縦に大きく裂け、そこから、一人の老人が悠然と姿を現した。
純白の豪奢な魔導ローブを纏い、長い白髭を蓄えた、小柄な老人。しかし、その身体から放たれているプレッシャーは、先ほどの特務騎士団全員を合わせたものを遥かに凌駕していた。
王都の冒険者ギルド総本山の最高責任者であり、世界に数人しか存在しないとされる伝説の『ギルドマスター総帥』ヘンドリクスだった。
「す、総帥……! 助けて、ください……! この加護なき男は、世界の敵です……!」
地面に倒れていた特務騎士が、救いを求めるようにヘンドリクスの足元へ縋り付く。
しかし、ヘンドリクスはその隻眼を冷酷に細め、縋り付く騎士の手を杖で容赦なく一蹴した。
「見苦しいぞ、特務騎士団。お前たちが実力で完全に敗北し、その絶対と信じた加護の力が、この少年の前で無力であったのは明白な事実だ。……国家の傲慢が、これほどの怪物を生み出したか」
ヘンドリクスは静かに歩を進め、レイの前で足を止めた。そして、世界最高権力者の一人であるはずの老総帥が、レイに向かって、深く、深く一礼したのだ。
「はじめまして、レイ君。君のこれまでの戦果、そして今ここで現代最高峰の精鋭を圧倒したその実力を認め──ギルド総帥の権限を以て、君を特例で『Aランク冒険者』に即時昇格とし、さらに将来の『Sランク推薦資格』を付与する」
ヘンドリクスが差し出したのは、燦然と輝く白銀の『A』の文字が刻まれた、新しいステータスカードだった。
ギルドの規約上、Aランク以上の冒険者は「国家の命令に対する合法的な拒否権」を持つ。つまり、王都の教会や貴族が、どれだけレイを犯罪者として扱おうとしても、ギルドがそれを全面的に撥ね退けるという、絶対的な保護宣言だった。
「おじいさん、僕のためにわざわざこんなところまでカードを届けにきてくれたんだね。とっても優しい人なんだね、ありがとう」
レイはカードを優しく受け取ると、ヘンドリクスに向かって、ふわりと穏やかな、大人の余裕すら湛えた笑みを浮かべた。
「……君のその金色の瞳、そして君の後ろに控える神話の遺物たち。君は一体、この世界をどうするつもりかね?」
ヘンドリクスが、底知れない目でレイに問いかける。
「ううん、大層な目的なんてないよ。ただ……僕たちを無能として虐げ、弾き出したこの歪んだ世界のシステム(ルール)が、ちょっとだけ気に入らないから。……僕の眼で、綺麗に『デバッグ(お掃除)』してあげようと思っているだけさ」
レイは穏やかに、しかし絶対的な支配者の声音でそう告げた。
その言葉に、数々の修羅場を潜り抜けてきたギルド総帥ヘンドリクスすら、背筋に強烈な冷気が走るのを禁じ得なかった。名実ともに『Aランク』となった加護なき少年は、いよいよ人間の常識を超えた領域へと、その翼を広げつつあった。
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