第30話:伝説の帰還とギルドの英断
境界都市ゼノスの冒険者ギルドは、いつも以上の熱気と、どこか重苦しい緊張感に包まれていた。
数日前、特例の『Bランク昇格試験』として、過去に誰一人として生還したことのない孤島ダンジョン『終焉の揺り籠』へと旅立った「加護なし」の少年、レイ。
ギルドの酒場では、荒くれ者たちが酒杯を傾けながら、くだらない噂話を交わしていた。
「おい、あの加護なしのガキ、流石にもう死んだだろ?」
「当たり前だ。ルキウスをハメて倒したくらいで調子に乗るからさ。あの島はBランクやAランクの精鋭が全滅した魔境だぜ。加護もねえ奴が生き残れるわけが──」
その言葉が、完全に紡がれることはなかった。
ギルドの巨大な石造りの二重扉が、静かに、しかし圧倒的な質量を伴って押し開けられたからだ。
逆光を浴びて入ってきたのは、見慣れた三人の姿。中央を歩くのは、どこか儚げな雰囲気を纏った青年、レイだ。その隣には大盾を背負ったトールと、サファイアブルーの瞳を持つアルテ、そして純白の翼を静かに休めるブリュンヒルデ。
だが、彼らの背後に続く「五人目の影」を見た瞬間、ギルド内にいた数十人の冒険者たち全員が、呼吸を忘れたように完全に凍りついた。
身の丈3メートルを超える、黒銀の重厚なフルプレートアーマー。歩くたびに地鳴りのような金属音を響かせ、周囲の空間の魔力を物理的に威圧する、漆黒の騎士。
千年前の伝説の英霊にして、あの島で数多の冒険者を屠ってきた絶望の主──『黒騎士ガウェイン』その人が、レイの斜め後ろに、まるで忠実な飼い犬のように控えていたのだ。
「みんな、ただいま。留守の間、街を騒がせちゃってごめんね」
レイはギルドの受付カウンターへ向かって歩きながら、怯えて腰を抜かした冒険者たちに、ふわりと優しい笑みを向けた。しかし、誰もその笑みに応えることはできない。彼らの本能が、レイという存在を「生物としての格が違う怪物」だと叫んでいたからだ。
「お、おいおい……冗談だろ……」
受付の奥から慌てて飛び出してきたのは、隻眼の支部長オズワルドだった。彼は持っていた愛用のパイプを床に落とし、その隻眼をこれでもかと見開いてガウェインを見つめた。
「オズワルドさん、こんにちは。無事に試験の『成果』を持ち帰りました」
レイは丁寧に一礼すると、自分のステータスカードをカウンターの上に静かに置いた。
「レイ……お前、あの島の呪いを解いたばかりか、その主を配下に従えて戻ってきたというのか……? お前がやったことは、もう冒険者の常識とか、人間の枠組みでは測れんぞ……」
オズワルドの額から、冷たい汗がだらだらと流れ落ちる。しかし、彼はすぐに豪快な笑みを浮かべ、レイの肩を叩いた。
「だが、約束は約束だ! ギルドマスターとしての権限を以て、君の戦果を最高評価とする!」
オズワルドが魔法の刻印盤にレイのカードをセットすると、チカラン、と美しい魔導の鈴の音がギルド中に響き渡った。カードのランク欄に刻まれた文字が、『C』から燦然と輝く『B』へと書き換わる。
「認めよう! レイ、お前を本日付で正式に『Bランク冒険者』に昇格させる! 本来ならこの戦果、Aランクでも生ぬるいが、王都の派閥への言い訳も含めて、まずはここまでだ。だが、このゼノスギルドは、お前を全力で支持するぞ!」
「ありがとうございます、オズワルドさん。僕のために色々と融通を利かせてくれて、本当に嬉しいです」
レイは穏やかに微笑み、書き換わったカードを大切そうに懐へと収めた。
加護を持たない底辺の少年が、人類最高峰の一角である『Bランク』へ、史上最速のスピードで到達した瞬間だった。
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