第28話:加護を喰らう「黒騎士」
ゾンビや魔獣の群れを文字通り「お掃除」しながら、レイたちは島の最深部にある、古代の黒石で作られた儀式場へと辿り着いた。
そこには、周囲の黒い霧を掃除機のように吸い上げ、圧倒的な威圧感を放つ、身の丈3メートルを超える巨躯が佇んでいた。
全身に無数の傷が刻まれた、禍々しい漆黒のフルプレートアーマー。
千年前の守護騎士長であり、かつて魔王の呪いを受けてこの島の守護者へと変貌した伝説の英霊──『黒騎士ガウェイン』だった。
「オオオオオオ……!!! 加護を持つ者どもめ……我が糧となれ……!!」
ガウェインが咆哮を上げると、島全体の黒い霧が激しく渦巻き、レイたちに襲いかかった。
「くっ……!? なんてプレッシャーだ! 体が、重い……!?」
トールが膝を折りそうになる。
「マスター、危険です! あの黒い霧は、侵入者の体内にある『神の加護』を感知し、それを強制的に分解・吸い上げて自身のエネルギーに変換する性質を持っています! 通常の冒険者なら、近づくだけで魔力と体力を吸い尽くされて無力化します!」
アルテが警告の声を上げる。
「なるほどね。だから『加護に選ばれた精鋭』ほど、この島に来ると何もできずに犬死にしていったんだね」
レイはフッと、どこか楽しげに口元を歪めた。
彼は一歩、また一歩と、その凶悪な黒い霧の中を、散歩でもするかのように悠然と歩き進んでいく。
「でも、あいにく僕には──最初から『神様の加護』なんて、一つも持ち合わせていないんだよね」
加護なきレイにとって、その「加護持ち殺しの呪霧」は、ただの心地いい微風と同じだった。
霧のバフを完全に無効化されたガウェインの紅い眼光が、驚愕に大きく見開かれる。
「何者だ……加護を持たぬ不純物が、なぜ我が領域を歩ける……!?」
「ただの荷物持ちだよ、ガウェインさん。……さあ、千年の呪いから、今助けてあげるからね」
レイは黒大剣を優しく構え、伝説の黒騎士に向けて、静かに地を蹴った。
「オオオオオッ!!」
黒騎士ガウェインが、身の丈を超える巨大な魔剣を振り下ろしてくる。その一撃は、空間そのものを自重で叩き割るかのような、凄まじい質量と速度を誇っていた。
ドガァァァン!!!
レイが紙一重で躱した地面が爆発し、巨大なクレーターが穿たれる。純粋な肉体強度と剣技の冴え。それは加護のブーストによるものではない、千年の戦闘経験が培った本物の『武』だった。
「すごい。本物の騎士の剣だ」
レイは感嘆の声を漏らしながらも、その金色の瞳──【神眼の支配者】の意識を限界まで集中させた。
ガウェインの肉体と魂を縛り付けているのは、千年前の魔王が仕込んだ「精神汚染の強制上書き術式」だ。それが、彼の高潔な精神を歪め、狂戦士へと変えさせている。
「アルテ、ブリュンヒルデ! 3秒だけ、彼のあの大きな魔剣を固定して、動きを止めてくれるかい?」
「御意に、我が主! ──『神雷の鎖』!」
「アクセス、対象の運動エネルギーを一時凍結!」
二人の命がけのコンビネーションにより、ガウェインの豪快な振り下ろしが、空中でピタリと制止させられる。
「ぬぉぉぉ……っ! 離れん、この忌々しい光め……!」
ガウェインが強引に力を込めて鎖を引き千切ろうとした、そのわずかな一瞬。
レイはガウェインの懐へと、風のように滑り込んだ。
そして、黒大剣の柄から右手を離し、ガウェインの兜のバイザーの隙間──その奥で赤く狂う眼光に向けて、自らの金色の瞳の光を、至近距離から直接叩き込んだ。
「もう大丈夫だよ、ガウェインさん。……長いお留守番、お疲れ様。──【精神再編】!!」
レイの瞳から、周囲の暗闇をすべて昼間のように照らし出す、圧倒的な金色の閃光が放たれた。
その光はガウェインの脳内に深く侵入し、千年間彼を苦しめ続けていた赤黒い「呪いの記述」を、凄まじい速度で、優しく、しかし容赦なく上書きし、消去していく。
「ガ、ア、アガガガガ、あぁぁぁぁぁッ……!!!!」
伝説の黒騎士の巨躯が激しく痙攣し、その全身から禍々しい暗黒の霧が、霧散するように消え去っていった。
それは、加護なき少年が成し遂げた、千年の因果を狂わせる閃光だった。
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