第27話:特例の「Bランク昇格試験」
【お知らせ】今後の物語のバランスを考慮し、第15話〜第17話にて、主人公のレベル表記(一文)を一部調整いたしました。ストーリー自体の流れや展開に影響はありませんが、あらかじめご承知おきいただけますと幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。
「お前の実力は、すでにCランクの枠に収まるものではない。それはこの俺が一番よく分かっている」
オズワルドはパイプに火をつけ、紫煙を燻らせながら言った。
「だが、王都の教会や貴族連中からの理不尽な圧力を完全に撥ね退けるためには、ギルドとしても『誰も文句の言えない圧倒的な実績』をお前に与える必要がある。そこでだ、レイ。お前に特例で『Bランク昇格試験』を課す」
オズワルドが古い羊皮紙の地図をテーブルに広げる。
示されたのは、ゼノスの沖合、常に激しい嵐と暗雲に閉ざされた孤島。
「隔離ダンジョン『終焉の揺り籠』。過去に多くの『加護持ち』のBランク、いやAランクの精鋭たちすら挑み、誰一人として生還していない絶望の島だ。ここを調査、あるいは踏破してみせろ」
「神の加護に選ばれたエリートの人たちが、誰一人帰ってこられなかった場所、ですか」
レイはその地図を優しく指先でなぞりながら、嬉しそうに目を細めた。
「僕みたいな加護のない人間にぴったりな、素敵な舞台ですね。喜んでお受けします、オズワルドさん」
「……死ぬなよ、レイ。お前のような面白いガキを、王都の派閥争いの巻き添えで死なせるのは、ギルドの損失だからな」
「ええ、行ってきます。留守の間、ギルドをよろしくお願いしますね」
レイは立ち上がると、オズワルドに深く一礼した。
トール、アルテ、そして新たに加わったブリュンヒルデを伴い、レイたちはゼノスの港から、黒い嵐が吹き荒れる外海へと魔導船を出港させた。
翌朝。
激しい落雷と、逆巻く波濤を切り裂き、レイたちの魔導船は『終焉の揺り籠』と呼ばれる孤島の海岸へと乗り上げた。
島全体が、空を覆うどす黒い魔力の霧に包まれており、不気味な静寂が支配している。植物はすべて黒く腐り果て、大気には濃厚な死の臭いが満ちていた。
「うへえ……こいつはまた、悪趣味な場所だな」
トールが戦鎚斧を構え、周囲を警戒する。
「肯定。この島全体から、通常のダンジョンとは異なる、不自然な『指向性を持った魔力波』を感知しています。注意してください、マスター」
アルテがレイの袖をきゅっと掴む。
「大丈夫だよ、アルテ。僕が隣にいるからね」
レイはアルテの頭を優しく撫で、安心させるように微笑みかけた。
「──グルルルル……」
「アァァ……オォ……」
黒い霧の奥から、無数の影が這い出てくる。
それは、かつてこの島に挑み、命を落とした過去の冒険者たちの成れの果て──『ゾンビ・エリート』の群れだった。彼らの肉体は腐敗しているが、その武具には王都の教会の「高級な加護の紋章」が刻まれたままだ。さらにその奥からは、結晶の鎧を纏った巨大な魔獣『結晶キマイラ』(脅威度Bランク上位)が咆哮を上げて迫ってくる。
「哀れだね。神様の加護を信じて、自分は守られていると錯覚したまま、ここで死んでいったんだ」
レイは静かに黒大剣を引き抜いた。その金色の瞳が、キマイラの強固な結晶装甲の『構造記述』を瞬時に捉える。
「ブリュンヒルデ、前衛をお願い。トールは周囲のゾンビたちの足止めを。アルテ、僕と演算を同期して、あのキマイラの装甲をハッキングしようか」
「御意、我が主! 雷霆の誇りにかけて!」
ブリュンヒルデが黄金の雷を纏い、凄まじい速度で突撃する。
「アクセス、同期完了です、マスター」
アルテの魔力回路がレイの【神眼】と繋がる。レイはキマイラの「結晶装甲の耐久値:9999」と記述されたコードを、一瞬で書き換えた。
(デバッグ──耐久値を【1】に変更)
「今だよ、ブリュンヒルデ!」
「はぁぁぁッ!!」
ブリュンヒルデの放った細剣の一突きが、キマイラの胸元に触れた瞬間──ダイヤモンド以上の硬度を誇るはずの結晶装甲が、まるで薄い氷細工のように、パリンと小気味いい音を立てて木っ端微塵に砕け散った。
「ガルゥ……!?」
驚愕の声を上げるキマイラに、トールの戦鎚斧が容赦なく叩き込まれ、その巨体を一撃で粉砕する。
加護に頼らない、純粋な「世界の支配」による戦闘。それは、既存の冒険者たちの常識を遥かに超越した、圧倒的な効率性を持っていた。
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