第24話:偽りの天才、その化けの皮
暗殺部隊を文字通り「一網打尽」にされたルキウスは、完全に正気を失っていた。
エリートとしてのプライドを粉々に砕かれ、バルト伯爵家からのプレッシャーに追いつめられた彼は、ゼノスの闇ギルドから強引に取り寄せた、禁忌の魔薬『神の涙』を自らの肉体に投与した。
それは、自らの加護を強制的に暴走させ、限界以上の力を引き出す代わりに、肉体と精神を蝕む禁断の薬物だった。
「レイィィィッ! どこだ、どこにいる、加護なしのゴミ虫があぁぁぁッ!!」
ダンジョン第10層、ボス部屋の分厚い扉の前。
全身から赤黒い、不気味に明滅する光のオーラを放ち、理性を失いかけたルキウスが立ち塞がっていた。その戦闘力は、加護の暴走によって一時的に『Aランク』をも凌駕する領域に達している。
「あぁ、ルキウスさん。そんなにボロボロになってまで、僕を待っていてくれたんだね」
レイはボス部屋の前に現れると、痛ましいものを見るような、ひどく優しい目をルキウスに向けた。
「黙れ、黙れ、黙れぇぇッ!! 俺は神に選ばれた天才だ! お前のような無能に、泥を塗られてたまるかぁぁッ!!」
ルキウスが狂ったように聖剣を振りかざす。暴走した『光の御子の加護』が、空間の魔力を強引に吸い上げ、周囲の岩壁を熱量でドロドロに溶かしていく。
「死ねぇぇッ!!」
空間を焼き尽くすほどの、巨大な光波がレイたちに向けて放たれた。
「トール、無理に受け止めなくていいよ。右へ二歩、躱して。アルテ、彼の足元の『重力定数』の記述、10倍に書き換えちゃってくれるかい?」
「了解、マスター。……アクセス、書き換えを開始します」
アルテの機械的な演算と、レイの【神眼】が完全に同期する。
ルキウスが次の一歩を踏み込み、さらに聖剣を振るおうとした瞬間──彼の周囲数メートルだけ、空間の重力が一瞬で激増した。
「がはっ!? な、何だこの重さ……!?」
超速度で動いていたルキウスの肉体は、突然の重力変化に対応できず、自らの勢いで前のめりに激しく転倒した。放たれた光波は大きく軸を外し、天井を虚しく爆破するに留まる。
「神様がお前を選んだんじゃないよ、ルキウスさん」
レイはゆっくりと、しかし確実にルキウスとの距離を詰め、腰の黒大剣を静かに引き抜いた。その金色の瞳が、ルキウスの体内で歪に肥大化し、暴走を続ける「加護の核」を正確にロックオンする。
「お前が神様の作った便利なシステムに依存して、自分の頭で、自分の足で戦うことを諦めちゃったんだ」
「ひ、ひぃ……! 来るな、来るなぁぁッ!!」
「うん、もう終わりにしよう。痛いのは一瞬だからね」
レイは優しく微笑みながら、黒大剣の切っ先をルキウスの胸元へと突き出した。刃は肉体を傷つけることなく、その奥にある「エラーデータ」だけを正確に捉える。
(デバッグ──『加護の暴走エネルギー』の指向性を【全額、本人へのダメージ】に反転)
「あ、が、あぁぁぁぁ、あぁぁぁぁッ!!!」
ルキウスは自らが暴走させた、圧倒的な光の魔力の逆流によって、内側から肉体を激しく焼かれ、絶叫とともに崩れ落ちた。
ゼノス最強と謳われたエリートの、あまりにも惨めで、救いようのない敗北だった。
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