第22話:傲慢なる「聖戦士」の接触
境界都市ゼノスの朝は早い。赤茶けた太陽が地平線から顔を出す頃には、すでに多くの冒険者たちが武器の不協和音を響かせながら大通りを行き交っていた。
「みんな、昨日はよく眠れたかい? 体調に無理はなさそうだね」
宿屋のロビーで、レイはトールとアルテに穏やかな笑顔を向けた。その物腰はどこまでも柔らかく、血生臭いこの街において、彼の周囲だけがぽっかりと穏やかな陽だまりのようだった。
「ああ、ばっちりだぜレイ! 王都の宿よりベッドが固くて、逆に気合が入る!」
「肯定。マスターの魔力供給により、私の演算機能も最高効率を維持しています」
「それはよかった。じゃあ、まずはギルドで小慣らしの依頼でも受けようか」
レイが優しく二人の背を押し、宿の外へ出た、その時だった。
カツン、カツンと、あまりにも不自然に整った金属音が、朝の通りに響き渡った。
前方から歩いてくるのは、まばゆいばかりの白銀の甲冑を身に纏った五人の男女。中央に立つ男は、彫刻のように整った容姿に金髪をなびかせ、腰には豪奢な装飾が施された聖剣を帯びている。
ゼノスのトップパーティ『聖なる夜明け』のリーダーであり、街の最高エリートと称される男──ルキウスだった。
「ふん……。王都から流れてきた不純物とは、お前のことか」
ルキウスはレイの前に立ち塞がると、あからさまに見下すような視線を投げかけた。彼の額には、まばゆい黄金の幾何学模様──『光の御子の加護』が、周囲の光を集めるように強く明滅している。
「はじめまして、ルキウスさん。僕に何か御用かな?」
レイは怒る風でもなく、小首を傾げて小動物に話しかけるような優しい声音で応じた。だが、その金色の瞳──【神眼の支配者】は、すでにルキウスの全身を冷徹にスキャンしていた。
【鑑定対象:ルキウス(Bランク上位・聖戦士)】
状態:『光の御子の加護』により、筋力・敏捷性が通常の4倍に強制ブースト。
脆弱性:精神面が加護の全能感に依存。ブーストを失った場合の肉体強度は一般の兵士以下。
「とぼけるな。バルト伯爵家からの親書が届いている。王都で不届きなポーターが、分不相応な力を誇示して貴族の威信を傷つけたとな。その『不気味な金色の瞳』をここで差し出し、大人しく奴隷に戻るなら、命だけは助けてやろう」
ルキウスが聖剣の柄に手をかけると、彼の加護から放たれる圧倒的な光の威圧感が周囲の空気を歪めた。通りを歩いていた他の冒険者たちが、その風圧に恐れをなして距離を取る。
「おい、てめえ……!」
トールが身の丈ほどもある戦鎚斧を引き抜こうとしたが、レイは「大丈夫だよ」と、その手の上に自分の手を優しく重ねて制した。
「わざわざ王都からの言いつけを守るなんて、君はとても真面目な人なんだね」
レイはルキウスに向けて、憐れむような、しかしどこまでも穏やかな笑みを浮かべた。
「だが、お前のその余裕もここまでだ! 加護持たぬゴミ虫が、神に選ばれし我ら『聖戦士』に勝てると思うな!」
ルキウスが激高し、聖剣を半分ほど引き抜いた瞬間──レイの金色の瞳が、一瞬だけ鋭く細められた。
(書き換え──ルキウスの『光の御子の加護』のシステム接続を【遮断】)
『承認しました。該当オブジェクトの接続記述を一時的にデリートします』
「な……っ!? がはっ、あ、あぁ……!?」
突如として、ルキウスの全身から溢れていた白銀のオーラが完全に消失した。それと同時に、彼の額の紋章が煤けたように黒く濁る。
加護という名の「外付けの骨格筋ブースト」を唐突に奪われたルキウスの肉体は、自らの甲冑の重さにすら耐えきれず、激しい虚脱感と共にその場にドサリと膝を突いた。
「ひ、引き抜けない……!? 剣が、重い……!? な、何をした、俺の加護が……消えた……!?」
ガタガタと震え、自分の白銀の手甲を見つめるルキウス。
レイはそんな彼を助け起こすかのように一歩近づき、耳元で、まるで内緒話でもするような優しい声音で囁いた。
「神様の力に頼り切っていたツケだよ、ルキウスさん。……君自身は、驚くほどに弱いんだね」
レイはルキウスの肩をポンと優しく叩くと、そのまま呆然と立ち尽くす『聖なる夜明け』のメンバーたちの間を、何事もなかったかのように通り過ぎていった。
「少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク】や【評価】で応援していただけると励みになります!」




