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神眼の支配者 ~ハズレスキル【鑑定】が覚醒したので、俺を見捨てたSランク(予定)パーティを底辺から置き去りにします~  作者: イヌの名前はあとむ


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第21話:境界都市ゼノスと「加護の格差」

王都オウラシオンの騒がしい喧騒や、自分を縛り付けようとしていたしがらみを完全に過去のものとしたレイ、トール、アルテの三人が、数日間の旅の果てに辿り着いたのは、人類の勢力圏の最果て──境界都市『ゼノス』だった。

見上げるほどに巨大な、黒岩を積み上げて作られた城壁。それは、千年前の『神魔大戦』の折に築かれた、人類を魔の軍勢から守るための絶対の防波堤であるという。城壁のいたるところには、当時の激戦を物語る生々しい爪痕や、風化しつつある防御術式のルーンが刻まれていた。

「おいおい、レイ……。こいつは王都とは、完全に空気が違うな」

大盾を背負い直しながら、トールが緊張を孕んだ声を漏らす。

街の重厚な鉄門をくぐった瞬間、肌を優しく撫でるような濃密な魔力と、獣の血の匂いが混ざり合った独特の風が吹き抜けた。

通りを行き交う冒険者たちの装備は、どれも一級品だ。傷だらけの甲冑、鈍い光を放つ大剣、不気味な魔石が埋め込まれた杖。そして何より、彼らの眼光には、王都のぬるま湯で依頼をこなす若手たちにはない、生と死の境界線を幾度も踏み越えてきた者だけが持つ、鋭い「飢え」があった。

しかし、このゼノスという街は、実力至上主義であると同時に、王都以上に歪んだ『加護の格差社会』でもあった。

街の中心部にある冒険者ギルドへと続く広場。そこには、美しく磨かれた白銀の武具を身に纏い、周囲から羨望の眼差しを向けられている一団がいた。彼らの胸元や盾には、神聖な光を放つ教会の紋章が刻まれている。

「──おい、見ろよ。また『加護なし』の難民が流れてきたぞ」

不意に、下卑た笑い声がレイたちの耳に届いた。

声の主は、露店の前で大剣を品定めしていた大柄な男だ。彼の額には、微かに青い幾何学模様が浮かび上がっている。神から与えられた『戦神の加護』の証。そのバフによって、彼の身体能力は通常の数倍にまで引き上げられている。

男の視線は、レイのバッジに向けられていた。王都でスピード出世したとはいえ、現在のレイたちのランクは『C』。そして、レイの全身からは、この世界の住人が誰もが持つはずの「神の加護の波動」が一切感じられなかった。

「本当だ。おいおい、ポーターの真似事でもしに来たのか? 加護もねえゴミ虫が、ゼノスの魔境に入ってみろ。一日と持たずにキマイラの餌だぜ」

「ははは! 命が惜しけりゃ、今のうちに王都のママのところに帰るんだな!」

周囲の冒険者たちからも、同調するような冷笑が上がる。この街において、神の加護を持たない者は、それだけで「奴隷」か「死人」と同義だった。

トールが憤怒に拳を握りしめ、一歩前に出ようとする。だが、レイはその太い肩に、そっと優しく手を置いた。

「いいんだよ、トール。怒る必要なんてないさ」

レイは困ったように眉を下げ、ふわりと穏やかな笑みを浮かべた。その声は、春の陽だまりのように優しく、トールの荒ぶる心を自然と落ち着かせていく。

レイは歩みを止めぬまま、金色の瞳──【神眼の支配者】の出力を静かに上げた。

視界がモノクロームへと反転し、嘲笑を浮かべる男たちの全身の『構造記述ステータスコード』が、無数の光の文字列となってレイの脳内に流れ込んでくる。

【鑑定対象:周囲の冒険者たち】

状態:神の加護(外付けバフプログラム)による強制底上げ。

弱点:加護の出力に筋肉や骨格の成長が追いついておらず、関節部が非常に脆い。肉体の基礎値は平均以下。

(そっか……。神様が作ったシステムの上で、ただ踊らされているだけなんだね)

レイは心の中で静かに嘆息した。彼らが絶対の拠り所とし、誇っている「加護」という名の特権。それは、レイの眼から見れば、あまりにも脆弱で、いつでも外部から介入して修正デバッグできる、不完全なプログラムに過ぎなかった。

「マスター、不快な雑音は排除しますか?」

レイの影に寄り添うように歩くアルテが、そのサファイアブルーの瞳を微かに明滅させた。彼女の指先が、いつでも空間を切り裂く魔力砲を放てるよう、静かに微振動している。

「ありがとう、アルテ。君の優しさは嬉しいよ。でも、大丈夫。こんなところで大切な魔力を使うのはもったいないからね。それよりも、例の『ログ』の解析はどうなったかな?」

レイはアルテの綺麗な髪を優しく撫でながら、声音を一段と和らげて問いかけた。

「肯定。王都のバルト伯爵家が、このゼノスの闇組織『黒い牙』へ流した、マスターに対する『暗殺依頼』の暗号通信記述。先ほど100%の解読を完了しました。すでに刺客たちが、この街の至る所に配置されています」

「まだ追いかけてくるんだね、あの往生際の悪い貴族の人は」

レイの金色の瞳に、どこか哀れむような、それでいて深い静寂を湛えた光が宿る。

バルト伯爵家。かつてレイを無能と蔑み、ダンジョンで囮として見捨てた元リーダー・ガイの実家だ。彼らはレイの生存と、その後の躍進を恐れ、この無法の地でレイを完全に亡き者にしようと画策している。

「でも、好都合かもしれないな。王都のぬるい環境じゃ、これ以上の効率的なレベルアップは目立ちすぎただろう? でも、この実力至上主義の最果てなら……僕たちがどれだけ強くなっても、誰も文句は言えないさ」

レイはトールとアルテに優しく微笑みかけると、巨大な石造りの冒険者ギルドの扉を静かに押し開けた。

ギルドの内部は、熱気と殺気で満ちていた。壁一面に貼られた、見たこともないような高難度の依頼書。そして中央の掲示板の前には、この街の「ルール」を体現するかのような、圧倒的な存在感を放つ一団が陣取っていた。

レイの【神眼】が、その一団の胸元に刻まれた「ある紋章」を捉えた時、彼の脳内のシステム記述が、不気味なエラーの警告音を鳴らした。

(神の加護に守られた、選ばれしエリートたち。……いいよ。加護を持たないこの僕が、君たちの信じる世界をどう変えていくか、特等席で見せてあげる)

底辺の荷物持ちから始まった、少年の容赦なき逆襲劇。

しかしその瞳に宿るのは、仲間へのどこまでも深い優しさと、敵への絶対的な冷徹さだった。

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