第19話:泥水をすする者たち
その頃、王都オウラシオンの、うらぶれた酒場。
昼間から安酒の匂いが充満する店内の片隅で、ボロ布のような服をまとった男が、狂ったように酒を煽っていた。
「クソッ……クソッ! なんで俺がこんな目に……!」
元Cランク冒険者、『暁の剣』のリーダーだったガイだ。
仲間を見捨てた罪でライセンスを永久剥奪された彼は、バルト伯爵家からも「一族の恥」として勘当され、今や日雇いの炭鉱労働で食いつなぐ、文字通りの底辺へと転落していた。
かつての輝かしい銀の胸当ても、魔法剣も、すべて借金のカタに消えた。
「おい、ガイ。またあのFランクのポーターの噂を聞いたぞ」
同じく資格を剥奪され、今や見る影もなくやつれたセリアが、怯えた声で話しかけてくる。
「何だと……? レイの奴がどうした……」
「あいつ、Cランクに上がっただけじゃなくて、誰も使えない古代のガラクタを『なぜか完璧に修理する能力』があるって……。ギルドに神話級の杖を持ち込んで、今や王都の数々の大ギルドや、高位の魔術師たちが、あいつに頭を下げて武器の修理を頼んでるらしいわよ……」
「あ、頭を下げる……? 誰が、誰にだと……!?」
ガイの顔が、嫉妬と憎悪でどす黒く歪んでいく。
かつては、自分の足元で怯え、重い荷物を持たされて、デコイ(囮)として使い捨てにしたはずのゴミ虫。
そのゴミ虫が、今や自分たちが一生かけても届かないような高位の人間たちから「英雄」のように崇められている。
この理不尽な現実が、ガイのプライドを内側から完全に破壊していた。
「ふざけるな……! あいつはチートを使ってるんだ! 何か汚い手を使ったに決まっている! 俺の人生がこんなに惨めなのは、全部あのガキのせいだ!」
ガイが酒瓶を床に叩きつける。パリン、と激しい音が響くが、周囲の落ちぶれた労働者たちは誰も気に留めない。
「ガイ、もうやめましょうよ……。あのバルト伯爵(あなたのお父様)だって、レイに刺客(闇ギルド)を送ったのに、逆に返り討ちに遭って、今はギルドから厳しい監視をされて手出しできないのよ? 私たちじゃ、もう──」
「うるせえ!!」
ガイはセリアを突き飛ばし、狂乱の目で立ち上がった。
「俺は認めない……! だったら、俺も手段を選ばないまでだ。あいつをハメて、あの『眼』を引き抜いてやる……。そうだ、ダンジョンの中なら、何が起きたって分かりゃしねえ……!」
ガイの瞳から理性が消え、ドロドロとした狂気だけが残った。
彼は懐から、かつて実家から盗み出していた、使用禁止の『禁忌の魔薬』を握りしめた。服用すれば一時的に人間の限界を超えた力を得るが、引き換えに理性を失うという呪いの薬だ。
「待ってろよ、レイ……。お前をもう一度、本当の地獄に叩き落としてやる……!」
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