004:青空デート
2人で外出。久しぶりすぎて少し緊張するな。さぁてと。何処に行こうか。
「何処か行きたいところとかある?」
「そうねぇ。特にはないかな」
「じゃあ。その辺を歩こうか」
雪道を目的なく歩く。道は朝早くにゴーレムが除雪してくれたようで歩きやすくなっている。ときおり結晶化した木が目に入る。いつからだろう。もう日常になってしまったんだよな。意識して見ないと、異常を異常と感じないのは環境への適応だが……果たしてそれは正常と言えるのだろうか。ふと視線を感じて隣を歩くエマを見ると彼女がじぃっと俺を見ていた。
「何だ?」
「ロイったら結晶化した木を見て怖い顔してる」
「あぁ。すまん。日常の中に普通に存在するようになっちまったなって思ってな」
エマも視線を結晶化した木に向ける。
「……そうね」
あっ、寂しそうな雰囲気になってしまった。
「すまん。今はデート中だったな」
「うん。今だけは私のロイだからね」
……そうだな。すまん。
心のなかで詫びて、努めて明るい雰囲気へと変えるべく話題を変える。
「それにしても晴れてよかったよ」
「そうね。我が家のゴーレムに洗濯は任せたし。本当、便利な世の中よね!」
「そうだな」
凹凸の少ない帝都の舗装された歩道。その横をゴーレム車や馬車が通り過ぎていく。
「ゴーレムも便利だが、まだまだ高くて買えない人もいるんだよな」
「あぁ。馬車? 少し遠くの村なんかだと、まだ馬が現役だって話よね」
「あぁ。一家に最低でも1台ゴーレムってのは夢のまた夢なのかねぇ」
「どうだろうね」
他愛ない会話をしながら、しばらく雪道デートを楽しむ。途中に大きな公園があるので中を通ることに。
「おっ、屋台だ」
「クレープだって」
「いいね。ここで軽く食べるか」
「そうだね」
「エマは何にする?」
「私はチョコバナナかな」
「じゃあ俺はシュガーバターにするか」
近くのベンチに腰掛け、2人でクレープを頬張る。
「チョコバナナ美味しい?」
「うん。そっちは?」
「ちょっと食べてみる?」
「うん」
エマが小さく一口シュガーバタークレープをかじった。で、チョコバナナクレープをオレに渡すものだから、オレも一口。普通にパクっと。するとエマ。
「あぁ! 一口が大きい!」
「えぇ。普通だろ?」
「いいえ。大きいです!」
「返そうか?」
そう言って口をモグモグと動かしながら指差す。
「いりません! バカ!」
やれやれ。なんとなく空を見上げる。するとエマも空に視線を向けた。
「綺麗だね。空。このまま溶け出していきそう……」
エマがポツリ。
「あぁ」
オレもポツリ。こういう時間と感覚の共有は心地が良い。
「手。繋がないか?」
「うん」
エマと手を絡める。
「ん? なんか固くない?」
「そう? でも、なんだか最近、感覚が鈍くてさ。昨日も皿を落としちゃった」
「大丈夫だった? 指を切ったりしてない?」
「うん。大丈夫だよ。ありがとう」
感覚が鈍い?
まさかな。
「念の為に病院で見てもらったほうが良くないか?」
「うぅん。大丈夫だと思うけど?」
「万が一があるし」
「そう? まぁそれでロイの不安が吹き飛ぶなら行ってあげてもいいかもね」
「あぁ。そうしてくれ。一緒に行こうか?」
「大丈夫よ。一人で行ける。子供じゃないんだから」
「不安なんだよ」
「ふふ。ありがと。心配してくれて」
なんともない。大丈夫。エマの指先に微細な結晶のきらめきを見た気がしたが、きっと気の所為だ。一抹の不安を吹き飛ばすべく俺はエマの少しばかり硬い手を握ったまま勢いよく立ち上がった。
「飯。食いに行くぞ!」
「そうだね。クレープだけじゃ足りないね!」
「あぁ。よぅし。食うぞぅ!」
「ふふ。私もお腹すいたし。何を食べに行く?」
「肉!」
「私はサラダ系が良いなぁ」
「間を取ってシーフードパスタを食いに行こう!」
「どうしてそうなった!」
2人で笑いあう。今日という日が、ずっと続けばいいのにと思った。




