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さよならの後で  作者: 月城キナ


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11/12

011:再生

 視界が再び闇に閉ざされた。


「エマ!」


 呼びかけても返事がない。


「どこだ。エマ!」


 闇の中で呼び続ける。


「返事をしてくれ!」


 呼び、求め、そして……名を呼ばれた気がした。


「エマ!」


 その瞬間。体が一瞬の浮遊感。その直後、全身に痛みを感じた。


「いてて」


 目を開けて体を起こすと、どうやらベッドから落ちたらしい事が分かった。慌てて視線をエマに向けた。そこには結晶化したままのエマ。


「夢?」


 そんな……嘘だ。手をエマへと伸ばした直後。エマの結晶にヒビが入った。そしてポロポロポロポロと崩れ落ちていく。


「おい。嘘だろ。やめてくれ! エマが!」


 止める間もなく完全に崩れ落ちてしまった。キラキラと朝日を反射して輝く結晶の欠片。そこに、もうエマの形はどこにも残っていなかった。


「……嘘だ」


 声にならない声が漏れる。手を伸ばしても、掴めるものは何もない。


 唖然とその様子を見ていたら、驚くことが起こった。今度は結晶の欠片が輝き出したのだ。そして0と1の数字が羅列され始める。それは何かが書き換えられていくようだった。次第に人の姿へと変わっていく。骨、筋肉、神経、血管、皮膚が再構築されていく。今。エマが新たに作られている。情報生命体が言っていた言葉を思い出した。再構築されたエマは本当に以前のエマなのか、と。それは本当にエマなのか。それとも……エマを模した何かなのか。それでも「……戻ってきてくれ」と祈った。


 再構築は5分もかからずに終わった。そこには完全に以前のエマが居る。ベッドで横たわり、ただ寝ているだけに見える。呼吸もしている。皮膚も光を反射なんてしない。透けたりもしていない。異変前のエマの体だ。


「エマ」


 そっと近寄り、その体に触れてみる。柔らかく弾力があって温もりも感じられる。もう一度呼んでみる。


「エマ」

「……ん~?」


 返事があった。


「もうちょっと寝かせてよぅ」


 寝ぼけているようだ。思わず顔が綻んだ。


「エマ……起きて? 朝だよ」


 申し訳ないが起きてもらおう。声が歓喜で震えている。いや全身が震えている。


 しばらくエマの反応を待っていると、エマの瞼が動き、ゆっくりと開いた。そしてその視線が俺を見て呟いた。


「ロイ……おはよう」


 熱い涙が頬を伝い落ちていくのがわかる。


「おはよう。エマ」

「どうして泣いているの?」


 どうしてって……さっきのことを覚えていないのか?


 「エマ。記憶が?」


 確認してみたところ、ここ2ヶ月ほどの記憶が欠落していることが分かった。特にあの集合意識の中のことに関してはすっぽりとだ。他にも何かしら喪失しているかもしれないが、今は確かめようがない。少なくても見た感じでの異常が見当たらない。失われた二ヶ月。その中にあったはずの時間。それを思うと胸の奥がわずかに軋んだ。だが……。


「……いや」


 今は、いい。


 なので、俺は涙を拭いて、エマに微笑んだ。

 

「朝食にしよう。何が食べたい?」

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