012:それからと、これから
賢者の塔では質問攻めだった。どうやって治したのかと。正直に話すしかなかった。あの出来事を信じてもらえるかどうかも分からないまま。俺は起こった出来事を全て正直に話した。そして所長や国のお偉いさんたちとも散々に話し合った。情報生命体の存在をどう扱うか。
結果、この情報生命体のことは新種の魔物であると記された。それに、俺はわずかな違和感を覚えた。
本当に“魔物”なのか?
それとも?
そして国へ蔓延する、倦怠感を吹き飛ばすべく大々的に世に広く認知されることとなった。隠すことも考えられたが、このまま人々が絶望していては人類の文明が滅びることを危惧されたためだ。
最初こそ半信半疑で受け止められた話だったが、そこから快癒する症例が増えるにつれて受け入れられていった。
どうやら、あの情報生命体とは話し合いが可能らしい。大きな収穫だ。ただ、あれが何を求めているのかは今持って不明で、それはこれから色々と考察していく必要性がありそうだ。その突破口になりそうなのが、快癒した元患者たちだ。エマを色々と検査してみたのだが、記憶に関することで喪失があると意見が一致した。エマの場合は昔一緒によく遊んだ公園での記憶がすっぽりと無いだとか、他にも両親とのエピソードなど多岐にわたって失っていた。後は病気を発病してからの記憶もすっかり無くなっていたな。
それは他の快癒した患者でも同様の結果だった。もしかしたらアイツは俺達が普段食事をするような感じで情報を食らっているだけなのかも知れない。
そんな記憶を失ったエマだが憶えていて欲しくないことは、よぉく憶えているようで……。
「そうそう。記憶といえば去年の結婚記念日。すっぽかされた記憶が鮮明にあるんだよなぁ」
「そこは忘れてください」
「反省してる?」
「すみません」
エマも記憶の多くの欠落を知って、いっときは落ち込んでいたが、すぐに思い出が消えたことを笑って受け入れた。そのことに少しだけ胸が痛んだ。
「ロイとの思い出が結構なくなっちゃったのは寂しいけど、過去を嘆いて今と、これからを無駄にするのはもったいないもんね!」
そうだな。
「思い出ならこれから沢山作ればいいさ」
「そうだね」
というわけで、現在デートをしている最中だ。空は青く広がっていて日差しが暖かい。俺達はあの公園へとやってきていた。屋台のおばちゃんに声をかける。
「クレープとコーヒーを2人分お願いします」
「あらあら、今日も仲が良いのねぇ」
おばちゃんの言葉にエマが首を傾げた。
「何処かで会ったっけ?」
その言葉に俺は一瞬だけ言葉を失うが、すぐに気を取り直した。
「はい。エマはクレープ、何にする」
「バナナチョコが美味しそう」
「……なら俺はシュガーバターで」
「おいひいね。そっちも美味しい?」
「あぁ。ひとくち食ベる?」
「うん」
エマが一口小さくクレープを齧る。
「なんか、この味って懐かしい気がする」
「そうか?」
「うん。でも、何処でかで食べたかな? 思い出せないや」
ふと、エマが空を見上げた。
「ねぇロイ」
「ん?」
「……なんでもない」
その横顔が、ほんの一瞬だけ遠くを見ているように感じた。
その視線の先には、これから一緒に作る未来があると信じて俺も空へと視線を向けるのだった。




