表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆうれいの片袖  作者: 阿久井浮衛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

Episode 2

「部内選考の結果はどうなったんだ?」

「一応当人達のコントロールできない要因による事故ってことで,大海と透真ペアのタイムはノーカウント扱いになっている。ただ透真が骨折した以上大会への出場は間に合わないと見るのが現実的だと思う。大会エントリーの優先順位で言うと,部長ペアの次に俺達が並ぶ感じ」

「なるほどね」


 特に外連味のない陽翔の口調に,内心の疑いを悟られないよう相槌を打つ。そうなると人為的なトリックが用いられていた場合,セオリー通りなら疑うべきは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()4()()()


 事故を装い転覆を誘発する人為的なトリックが仕掛けられていた場合,先ず考えるべきはハウダニット・フーダニット・ホワイダニットの基本要素だろうけれど,部内選考という分かりやすい競争下にあってはホワイダニットが最も詰めやすい要素だろう。競争の筆頭が脱落したということは,後塵を拝する側は絶好機を得たということだからだ。


 どう考えたってエースペアの怪我により,陽翔達4人は大会出場の可能性というメリットを得ている。部長ペアとやらは海況によってはエースペアよりも速いタイムを出せることもあるようだが,裏を返せば限定的な条件以外では勝ち切れないということ。聞く限り部長ペアは3年のようだし,引退前に全国規模の大会への出場可能性はできるだけ確保しておきたいはずではないだろうか。


 ペア事情で言うとこれまであぶれがちだった陽翔はもちろん,初心者の1年生にとっても規模の大きくない大会への出場機会は望むべくもない。部外にエースペアへ個人的な犯行動機を持つ容疑者が存在する可能性を完全に排除すべきではないが,ハウダニットが見通せない現状この件で先ず疑うべきは誰が得をしたかだろう。


 僕はちらりと黒板に書かれた日付を一瞥する。そこには4月23日(木)と記されている。


「部内選考は月曜日に開催されたんだよな? 何で今日になって問題視しているんだ?」

「分からないなりに自分達でも調べてみてはいたんだよ。ただ大海の証言だけでは中々確証を持てなかったし,昨日手術が終わった透真の見舞いに行って初めて透真自身もスタート開始時点からヨットのバランスが取りにくいと感じていたことを知ったから,そこでようやく他の原因もあったんじゃないかって疑い出したんだ。だけど俺達じゃ何をどう調べれば良いか見当もつかなくてさ。頼むよー,ミステリオタクで理系学年トップの適任者を連れてくるってヨット部の連中には大見え切っちゃたんだ。ここは俺の顔を立てると思って調べてくれ!」

「学年トップたってうちの進学実績知っているだろ……精々中堅国立大に毎年何とか数人進学する程度だぞ」


 再度両掌を合わせ頼み込む陽翔に,最早取り繕う気にもなれず溜め息を吐いた。


 愛媛県立新居浜北高校では,2年生以降は進路希望に応じ4つのコースに分かれる。僕と陽翔の所属する1組は理数コースの成績優秀者が集まるクラスだ。


 コースが分かれる前の1年生の時から僕は継続して総合成績トップ5以内をキープしているけれど,世間一般から見て新居浜北高の偏差値がそれほど高くないことも理解しているつもりだ。いくら学年トップとはいえ,平均的な県立高校に籍を置いている自覚があれば到底増長などできまい。見栄を切った結果陽翔が恥をかこうと自業自得としか思わないし,正直面倒事には巻きまれたくないというのが本音だ。


 そこを何とか,と頭を下げ続ける陽翔から一瞬腕時計に視点を移す。


 化学の授業開始まで5分ちょっとといったところか。陽翔の性格だとどうせ今断ったところで,彼自身が諦めない限り事ある毎にこの話題を持ち出すことが目に見えている。その度に断るのは骨が折れるし,衆人環視下の密室トリックのアイディアに惹かれているのもまた事実。どの道ヨットの破損による浸水以外の原因は特定できないだろうけれど,今年の部誌用にネタを準備出来れば儲け物か。


 結局陽翔の懇願に対し折れる言い訳を見つけている自分に気付き,苦笑しつつ頭を振った。


「……分かったよ。その代わり今分かっている浸水以外の可能性を特定できなくても,文句言わないことだけは約束しろよな」

「マジで!? もちろん約束するする! 本っ当に恩に着るわ!」


 今までの付き合いからしても早い段階で僕が折れたからだろう,陽翔は存外の僥倖に破顔する。能天気に彼の満面の笑みを眺めていたこの時の僕には,まさか本当に衆人環視下で密室トリックが仕掛けられていたとは思いもしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ