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ゆうれいの片袖  作者: 阿久井浮衛


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Episode 24

「なー,やっぱり他の部員呼んだ方が良くないか?」

「予め説明しといたろ,転覆事故について決定的なことを聞くって。その回答次第では誰が犯人なのかはっきりする。他の部員もいると場合によっては誰が犯人か勘付いてしまうかもしれない。そうなると晒上げになってしまうだろ。陽翔にも同席を頼んだのは依頼を直接受けたからってだけで,本音を言えば僕1人で聞き取りをやりたかったくらいだ」


 翌週5月8日の放課後,僕は陽翔と共にヨット部の部室である人物の来訪を待っていた。人払いは柳井さんに頼んでいるため,誤って他の部員が同席する事態には至らないはずだ。


 あれから僕は,先生からもらったヒントを手掛かりに事件を調べ続けた。そして事件を全て説明できる,整合性の高い仮説にとうとう辿り着くことができた。直接的な物証こそ得られていないものの,この推理がかなり高い確率で真相を見破っているという自信はある。後は最後の仕上げをいくつか残すのみだ。


「その決定的なことってのも,前もって教えてくれないわけ?」

「そしたら陽翔が勘付いてしまうかもしれないだろ。お前嘘吐いたり隠し事するの下手じゃん。柳井さんに報告するまでできるだけ他の部員に犯人が誰なのか,情報が漏洩するリスクは低い方が良い。分かっていると思うけど,誰が犯人なのか勘付いてもヨット部の部員には話すなよ。いっそできるだけ話題にしないくらいで良い」

「言われなくても喋らないよ。ただでさえ雰囲気最悪で触れ辛いのに」


 橋本君はあれ以降部室に顔を出しているが,以前ほどの熱心さはすっかり失われているらしい。最低限課されている基礎練を熟すだけで,それまで毎日のようにやっていた自主練は止めてしまっている。1年部員は萎縮してしまっているし,橋本君の態度を注意しようにも大会出場の優先順位上柳井さんも声をかけ難いようだ。


「っていうか,犯人がいるってことは麗紋は転覆が事故じゃなく事件だって考えているわけだよな」

「そうだな」

「一体どうやって転覆させたんだ? 2回目の転覆の時は俺もヨットに乗っていたけど,別に不審なことはなかったぞ。どっちも船員以外周りには誰もいなかったし」

「それも犯人を特定できる手掛かりだから今は言えない」

「もー,言えないことばっかじゃん」


 陽翔は不服そうに頬を膨らませる。けれど僕だって色々と気を遣っているのだ。部外者が首を突っ込んでその後の人間関係を考えず犯人を堂々と指差すわけにもいくまい。サークルクラッシャーになんてなりたくはないし,ヨット部の面々に恨まれたくもない。


 陽翔を雑談を交わしていると不意に部室の扉が開いた。見ると事件について追加の聞き取りをお願いしていたその人物が不思議そうな顔つきで入口に立っている。


「陽翔から事件についてもっと聞きたいことがあるって聞いてきたんだけれど」

「怪我しているのに態々ゴメンね,安田君。転覆事故についてちょっと大事なことを聞いておきたくて。話が長くなりそうだから,取り敢えず座って」


 僕は陽翔にも座るよう促し,換気用に開けてある窓の前に立つ。安田君は部室の扉を閉め陽翔と向かい合うようにベンチに腰掛ける。これで舞台は整った。緊張を悟られないよう密かに嚥下する。


「単刀直入に聞くよ。一連のヨット部内での選考レース中に起きた()()()()()()()()()()()()()()()()ものだね?」

「はぁっ!? 透真が!??」


 予想通り,安田君より先に陽翔が驚愕し声を上げる。一方安田君の方は驚いたように少し目を見開くもそれ以外顔に変化らしい変化は見つけられない。


「待って,待って待って麗紋。転覆事故に関して決定的なことを聞くんじゃなかったのか!?」

「事故を引き起こしたかどうかは決定的なことだろ?」

「決定的っていうか核心じゃん!」

「ゴメンゴメン。実は事件の顛末はほぼほぼ見破っているんだ」

「いや,待てって。……いくら麗紋でも,今回ばかりは間違っている」

「どうして?」

「だって,透真は骨折しているんだぞ!? 2回の転覆で唯一怪我しているんだ,どう考えたって犯人っていうより被害者だろう!?」


 陽翔は三角巾で左腕を吊る安田君を指差す。僕自身当初は犯人が自ら怪我を負うトリックを仕掛けるわけがないと考え早々に容疑者から除外していたから,その動揺は理解できる。


「安田君も自分が怪我することを想定していなかったんだ。ただ結果的に骨折したことで,より犯人と疑われにくい状況が偶然出来上がってしまった。そうだね?」

「言われている意味が分からない。っていうか事故を引き起こしたって何? 転覆は事故じゃなく意図的に引き起こされたって言いたいわけ? いきなり犯人扱いされてこれでも結構怒っているんだけど」


 不服そうに安田君は僕を睨み返す。


 ふむ,やはり白を切るつもりか。ここからはキレた振りをして途中で出て行かれないよう,慎重に進める必要がありそうだ。


「透真ゴメン,コイツ結構変わっているやつなんだ。……なぁ麗紋,さすがに今日おかしいぞ。大海と透真は部内一の実力を持つペアなんだ,何で選考レースで自分達が不利になるようなヨットの転覆を引き起こす必要があるんだよ。それに骨折した以上大会には出られないんだ,俺達の選考結果がどうなろうと透真には関係がないじゃないか」

「選考レース中ヨットの転覆を誘発した理由,即ち動機についてはある程度見込みが付いているけれど……それを議論するのは後回しにしよう。それよりも先に,僕は最初にヨットが転覆した時の状況を聞き取った際,橋本君と安田君が奇妙な証言をしている事実を指摘したい。安田君の立場からすれば,不自然だと理解していても橋本君の発言と矛盾するわけにもいかなかったんだろう?」


 まさしく決定的な指摘なのだけれど,安田君は沈黙したまま表情を変えない。しかし反駁しないこと自体が,下手な言動で致命傷を負いかねないことを安田君が理解している何よりの証拠だ。


 口を堅く閉ざした安田君に変わり,陽翔が震える声で僕に応える。


「奇妙な証言て何だよ……麗紋が2人に話を聞いている時に俺も同席していたけれど,別におかしなところはなかったぞ」

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