第二十九話 追放の儀式。
僕はそのまま、職員室横の重苦しい空気が漂う会議室へと促された。
中には校長先生と三田村先生が、裁判官のような顔をして座っていた。そして壁際の一角には、なぜか黒丸君、二階堂君、さらには花菱さんまでもが、見世物を楽しむ観客のように並んで座っている。
着席を促されると、校長先生は僕の目を見ようともせず、手元の書類をいじりながら言った。
「……そういうことだから、悪く思わんでくれ」
「僕は、何も悪いことはしていません」
僕は絞り出すような声で答えた。
「校則違反も、不当な欠席もありません。母さんは、僕がこの学校に通っていることを誇りに思ってくれていました。……どうか、続けさせてください」
僕は机に額をくっつけるようにして、深く頭を下げた。喉の奥が熱い。
「うーん、そういうことじゃないんだよ。そこが分かってないから『退学』なんだよなぁ」
三田村先生の、粘りつくような声が響く。
「お前がいるとな、学校の質が下がるんだよ! 分かれよ!」
「貧乏人が紛れ込んでるだけで迷惑なのよ、早く消えなさい!」
黒丸君や花菱さんたちの、野次のような罵声が僕に浴びせられる。
ああ、そうか。今回も、この人たちが僕を「退学」へと誘っているのか。
「もうそろそろ、三田村君」
校長先生が促すと、三田村先生は勝ち誇ったように身を乗り出した。
「というわけで、今日をもって退学だ。お前、もう荷物をまとめて帰れ」
そうか、ここでどう粘ってもどうにもならないのか。そう悟った僕は静かに立ち上がり、深々と一礼をした。その時、ガラリとドアが開き、一人の老人が入ってきた。
「り、理事長!?」
校長先生と三田村先生が、弾かれたように立ち上がる。
「どうかされましたか!?」
「いや、ちょっと用事がありまして。……それより、何事だねこれは?」
「はっ、不要な生徒……千葉司を処分していた所でございます」
校長先生が慇懃に説明する。
「うむ、結構」
理事長は短くそう言い、僕を道端のゴミでも見るように一瞥すると、すぐに興味を失ったように目を逸らした。
僕は「失礼します」とだけ告げ、会議室を後にした。
その時背後から、理事長の独り言のような声が聞こえた気がした。
「千葉、司……。ちば……つかさ……。Tsukasa Chiba……?」
廊下に出ると、意外な人物とすれ違った。
「よう」
軽く手を挙げたのは、後見人の阿倍さんだった。
「どうしてここに……?」
「呼び出しだよ。まあ、俺もちょっと用があったしな」
僕が驚いて立ち止まると、背後の会議室から、これまでに聞いたこともないような理事長の絶叫が響き渡った。
「不要なのは貴様だ!! クビだ!! クビだッッッ!!」
地鳴りのような怒号。おそらく、僕の「クビ(退学)」について、まだ何か言い足りないことがあるのだろう。
僕は、後ろ髪を引かれる思いで、足早に校舎を出た。
思っていたのとは全く別の形で、僕の短い高校生活は幕を閉じた。




