第二十七話 多忙なる放課後。
それからの僕の記憶は、ところどころが欠落している。
なぜならそれは、異常なタスクの量のせいだろう。
どれくらいのタスク量かと一言で言えば、「バンシーが二人になった」ような感じだ。
相変わらずバンシーからの課題が出され、減るどころか増殖し続け、そこへ阿倍さんから「家賃代わり」という名目のタスクが、黒電話のベルとともに容赦なく叩きつけられる。
僕は、阿倍さんのパソコンにかじりつき、意味の分からない専門用語を調べては回答を打ち込む作業を繰り返した。幸い、以前バンシーに無理やり読まされた図書館の法廷サスペンスや、古い洋書の知識が、パズルのピースのようにはまっていった。
人生、何がどこで役に立つか本当に分からないものだ。
時折、共有フォルダの中には「人生相談」のような案件も混じっていた。
『この条件での契約をどう思うか?』『家族との法的な関係をどう整理すべきか?』
相手がどこの誰かも分からないまま、僕は必死に要約と回答を作成する。
時にはオンライン会議ツールなどを使い、画面越しに相談者と対話もした。
(僕みたいな子供の回答で大丈夫なんだろうか……)
そんな不安もあったが、最後は阿倍さんがチェックしてなんとかしてくれるだろうという、妙な安心感だけが僕を支えていた。
その中には、やたらと僕に関して質問をしてきたり、数学的な証明や宇宙について、はたまた哲学に関する疑問を熱心に聞いてくる人もいた。
僕は、知りうる限りのことについて答えたが、相手は納得してるようなしていないような何とも言えない表情でメモを取っていた。そして、実際に会えるのを楽しみにしている、とも言っていた。
なぜ、この人に会うのだろうか?
だが、そんな疑問もすぐさま日々のタスクに消されていった。
一方、学校では詩さんが僕のことを、今にも泣き出しそうな顔で心配してくれた。
だが、今の僕と一緒にいれば、彼女にどんな厄災が降りかかるか分からない。僕は彼女を守るために距離を置くことを決め、その代わりに「交換日記」を提案した。
数日後、返ってきた日記を手に、詩さんが困惑した表情で僕を見た。
「ねぇ、千葉くん……これ、なんて書いてあるのか全然分からないの」
「ごめんね……字が下手で、読みづらいよね」
僕が申し訳なく謝ると、詩さんは首を横に振った。
「下手っていうか……。これ、多分日本語じゃないと思うんだけど。……えっと、ヒンディー語? みたいな文字が混ざってない?」
「え……?」
僕は絶句した。
(僕はそこまで落ちこぼれたのか……。日本語すらまともに書けなくなるなんて)
ガックリと肩を落とす僕の背後で、バンシーが「いい調子よ、つかさっち! 脳が多言語プロトコルに書き換わってるわね!」と、不敵な笑みを浮かべていた。
僕の日常は、僕自身の自覚を置き去りにして、加速し続けていた。




