第二十六話 手伝い。
「ジリリリリンッ!!」
鼓膜を突き破るような、けたたましいベルの音に叩き起こされた。
心臓が口から飛び出しそうなほど跳ね上がる。寝ぼけ眼で音の正体を探すと、埃を被ったデスクの上に、骨董品としか思えない「黒電話」があった。
現役でつかえるのか…?
震える手で受話器を持ち上げる。
「……も、もしもし?」
『おい。そこにあるパソコン、今すぐ起動しろ』
阿倍さんの、機嫌の悪そうな怒鳴り声だった。
「え? 阿倍さん? ……えっと、おはようございます」
『いいから早くしろ、時間がねぇんだ!』
有無を言わさない剣幕に急かされ、僕はデスクの奥に埋もれていたPCの電源を入れた。ファンが悲鳴のような音を立てて回り、青白い光が暗い室内を照らす。
「……立ち上がりました」
『そこにある共有フォルダを開け。リストアップしてある案件の「判例」を、片っ端から調べ上げとけ』
「は……? ハンレイ……? なんですか、それ」
僕は思わず聞き返した。高校一年生の僕にとって、それは日常とかけ離れた、呪文のような言葉だった。
『そこにタダで住まわせてやってる家賃だと思え。来週までに、必要な要件をまとめて拾い集めとけ。いいな?』
「ちょ、ちょっと待ってください! どうやって調べれば……」
『ググれ、タコが!』
ガチャン、と一方的に通話が切れた。
静まり返った事務所に、ツーツーという空虚な音だけが響く。
「……判例、調べ……?」
画面に並んだ、膨大な法律用語のリスト。
それは、昨日までの僕の世界には存在しなかった、新しい武器の設計図のように見えた。
「つかさっち、また無理難題が降りかかってきたわね。でも、どう?これはちょっと面白くなりそうじゃない?」
いつの間にか僕の肩に乗ったバンシーが、不敵な笑みを浮かべて画面を覗き込んでいた。
家を焼かれ、どん底に落ちた僕の、これが将来への第一歩になるとは、その時の僕はまだ知る由もなかった。




