第二十三話 焼け跡。
立ち上る煙と、鼻を突く焦げ臭い匂い。
すべてを失い、膝をつく僕の隣に、いつの間にかバンシーが降り立っていた。
「……つかさっち。私にはどうしようもなかったの」
いつもは不敵に笑っている彼女の表情が、今は見たこともないほど重く沈んでいる。死神の使いである彼女が、僕の「喪失」を悼んでいるように見えた。
「いいんだ。バンシーは何も悪くないんだから。……僕が、甘かったんだ」
あいつらの底知れない悪意を、僕はどこかで過小評価していた。
形見も、教科書も、僕が生きてきた証のすべてが、今はただの黒い炭に成り果てている。
絶望が心臓を握りつぶそうとした、その時だった。
「これ……。これだけは、なんとか間に合ったわ」
バンシーがそっと差し出した手のひらには、一つの指輪が乗っていた。
煤に汚れ、熱を帯びたそれは、紛れもなく僕の母親が大切にしていた唯一の宝石だった。
「え……? これって」
「そう、お母さんの形見よ。……他は守れなかったけど」
「……ありがとう。ありがとう、バンシー……!」
僕は震える手でその指輪を握りしめ、胸に押し当てた。
涙が、止まらなかった。すべてが消えたわけじゃない。彼女が、僕の魂の欠片を繋ぎ止めてくれたんだ。
「……でも、これからどうしたらいいんだろう。帰る家も、今夜寝るところさえないのに」
途方に暮れ、僕はポケットの中で無事だったスマホを取り出した。
連絡先を開く。僕に手を差し伸べてくれる知り合いなんて、この世界には一人もいない。そう思っていた。
けれど、画面の最上部に、場違いなほど力強い名前が並んでいた。
――『阿倍』。
あのヤクザ紛いの、ギャンブル狂の弁護士。
僕のなけなしの金を奪い、投資だ競馬だと嘯いていた、あの男の名前だ。
「……知り合い、いたじゃない。ていうか、この人しかいないか」
バンシーが声で囁いた。
僕は迷いを振り切るように、その名前をタップした。
呼び出し音が、まだ鳴り響くサイレンとともに僕の耳に響いた。
この電話の向こう側に、僕の新しい「戦い」の幕開けが待っている。そんな予感がした。




