第二十二話 一線。
戦友ができた。その事実だけで、僕の世界は少しだけ色付いて見えた。
「今日も詩さんは来るかな……」
そんな浮き足立った気持ちで、僕はいつもの過酷なランニングメニューをこなしていた。耳元の音楽さえ、今日はどこか軽やかに響く。
けれど、帰り道。街の空気が一変した。
遠くから響く、耳を切り裂くような緊急車両のサイレン。赤色灯の光が、夕闇に沈む住宅街を不吉に染め上げていく。
その騒音は、僕のアパートに近づくにつれて、密度を増していった。
「……あ、あ……」
角を曲がった瞬間、僕は膝から崩れ落ちた。
そこにあったはずの僕の家が、猛烈な勢いで燃え盛っている。夜空を焦がす火柱と、爆ぜる建材の音。
「君! 危ない、下がりなさい!」
駆け寄る消防員の制止を振り切り、僕は叫んだ。
「僕の、僕の家なんです! 中に、父さんの……母さんの……大事な思い出の品が全部あるんです!!」
「諦めなさい! 今入ったら死ぬぞ!」
「そんな、嘘だ……嘘だろ……!!」
放水で泥だらけになったアスファルトに、僕は突っ伏した。熱風が頬を焼き、視界が涙で歪む。
絶望に身を投げ出していた、その時だった。
「え? ……なんだ、千葉? 何してんだよ、こんなところで」
聞き覚えのある、薄ら寒い声。
振り向くと、そこには二階堂君が立っていた。彼は火事の喧騒をまるで映画でも観るかのように眺め、その口角をわずかに――けれど確実になめらかに吊り上げていた。
「あーあ、火事か。大変だな、お前。……まぁ、運が悪かったな。日頃の行いだよ。日頃の行い。」
そう言い捨てると、彼はスタスタと、何事もなかったかのように夜の闇へ消えていった。その背中に、確信めいた邪悪さが宿っているように見えて、僕は震えが止まらなくなった。
鎮火を待つ間、僕は消防員に詰め寄った。
「……原因は、何なんですか」
「断定はできないが……おそらく、放火だろうな」
放火。
頭を殴られたような衝撃だった。
いじめ? 嫌がらせ? ……違う、これはもう、明白な「犯罪」だ。
僕からすべてを奪うために、あいつらは火を放ったのか。
火が消えた後、残ったのは真っ黒な炭と化した柱の残骸だけだった。
パチパチと音を立て、ススに混じった水が地面に滴り落ちる。
僕はそれを、魂が抜けたような顔で見つめ続けていた。




