第二十一話 2人で帰宅。
それからというもの、彼女は心が折れそうになると僕の部屋を訪れるようになった。
四畳半二間のボロアパートで、僕らはお互いに受けた傷を、どちらが深いか競うように話し合った。
傍目には「弱者同士の傷の舐め合い」に見えたかもしれないけれど、僕にとっては初めて分かち合える戦友ができたような、そんな感覚だった。
ある夜、僕は彼女に提案した。
「ねぇ、中村さん。明日から、一緒に帰らない?」
「え……?」
「僕は弱いし、君を完璧に守ることはできないかもしれない。でも、誰かに絡まれた時、僕が身代わりになって殴られてる間に、君を逃がすことくらいならできると思うんだ」
「そ、そんなの……千葉くんが危ないよ」
「大丈夫。君が逃げ切ったのを確認したら、僕もすかさず逃げるから。これでも僕は、毎日欠かさず一キロ走ってるんだ。逃げ足には自信があるんだよ!」
僕は自信満々に、その場で腕を振って足踏みをしてみせた。
けれど、詩さんは口を半開きにして僕を凝視している。
「……い、一キロ? え、だって……ここからあの公園までだけでも、往復で十キロ近くはあるよね? 千葉くん、毎日そこを三往復くらい猛スピードで走ってるって……近所でも噂になってるよ?」
「……え? 噂? いやいや、そんなの気のせいだよ」
彼女は僕が「たった一キロ」で誇らしげにしているのが、滑稽で仕方ないんだろう。だけど、帰宅部で根性なしだった僕にとって、一キロを走り抜けることは人生最大の誇りだった。
そして翌日から、僕は放課後に彼女の教室へ寄り、一緒に帰るようになった。
「……来た。あの人だ」
「やばい、目合わせるな……」
僕が教室の前に立つと、まるでモーゼの十戒のように、生徒たちが怯えた顔で左右に割れて道を作った。
僕の「キモパワー」も、ついにここまでの領域に達したのか。僕は詩さんを背にかばいながら、全神経を尖らせて廊下を進んだ。
遠くに、二階堂君と花菱さんの姿が見える。
(来るな、来るな、こっちに来るな……!)
僕は心の中で必死に祈った。すると、驚いたことに彼らは僕らと視線が合うなり、不自然に顔を背けて立ち去っていった。
「……ふぅ。助かった。今日は見逃してくれたみたいだね」
安堵の溜息をつく僕の隣で、詩さんはひどく複雑な表情で僕を見つめていた。
けれど、遠ざかる二階堂君たちの背中には、明らかな「悪巧み」の気配が漂っている。
僕は彼女の手を引くようにして、逃げるように校門を後にした。




