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襲撃 場面:シュティ 1

 敵の集団を屋敷の中へと誘導してから五人は始末した。


 大広間まで移動した所で一旦足を止めて、息を整える。


 普段の仕事着であるメイド服よりも動きやすい服装に着替えられたことが、かなりの助けになっている。


 姿を見せず、気配も上手く隠しているが、まだそれなりの人数が残っているだろう。



「これほどの使い手だったか。麒麟児(きりんじ)の名は伊達ではないな」


「村に居た頃、そのような東方の呼び方をされた記憶はないのですが、どこで呼んでいたのですか?」


陰口(かげぐち)を本人に聞こえる場所で言うわけがないだろう」


「……そうですか」



 麒麟児というのは称賛する言葉だったと記憶していましたが、違ったでしょうか。


 ともかく良い意味で呼ばれていないことは分かりました。



「今更だが、手を引く気はないか。お前が今、仕えている者は今頃、始末されている。もういない者のために戦うことは意味がないだろう」


「本当にそう思っているのなら、手を引くべきは貴方達ではないですか? 私の足止めをする意味はないでしょう」



 私を動揺させるための言葉のようですが、通じません。


 この状況がまだ主様が無事であることを示している以上、不安を(あお)っても無意味です。


 それに主様、いえ、悪魔様ならビーネン一族の者がいくら束になって襲ってこようとも返り討ちにしているでしょう。


 私が駆け付けようとしているのは、ただのおせっかい。


 悪魔様の戦う姿を見たいという希望もありますが。


 なので、それを邪魔されている今の状況は少々不愉快です。



「どうあってもフォレノワールの嫡男(ちゃくなん)の所へ行こうと言うのだな」


「当然です。主様が狙われていると知って、何もしないわけにはいきませんので」


「ならば、こちらも本気を出させてもらおうか」


「最初から全力を出さないのは(おご)りと怠慢(たいまん)だと、私は村で教わりましたが違いましたか?」


「一族を抜けたくせによく覚えているものよ」


「一族を抜けたのはあなた達もですよ」



 私は気に障ることを言ってしまったらしく、周囲から一気に殺気が飛んできた。


 殺気が飛んできた方向の内の一つ、不用意に顔を出していた一人の額にナイフを命中させた。


 残りのナイフ……六本ですか。


 正直、心もとないですが、やりくりするしかないですね。


 獲物の隙を見つけてしまうとナイフを投げてしまうのは悪い手癖です。


 全方位から飛んでくるナイフの雨を避けながら屋敷内を走る。


 私が住んでいる主様の屋敷よりも広いですね。


 大小の広間に無数の部屋、細長い廊下が何本もある。隠れ潜む場所には悩まない屋敷です。 


 王都にはビーネン一族の拠点があると聞いたことがある。私は来たことがなかったけれど、ここがその拠点なのかもしれない。


 屋敷の構造を熟知しているかのように、あちらこちらから敵が現れて攻撃を仕掛けてくる。


 捌いて反撃をしてはいますが、ジリジリと追い詰められている感覚ですね。


 加えて、立ち位置が不利にならないよう移動しているつもりですが、誘導されているように感じます。


 廊下を走っていると視線の先に一瞬、光の線が見えた。



「――っ!」



 細い鉄の糸が何本も廊下に張り巡らされている。


 このまま走って、ぶつかると大怪我どころではありません。


 だからといって、走る速度を緩めると、その隙を付いて攻撃が飛んでくる。


 ここは危険ではありますが――。


 屋敷の中庭側の窓に向かって飛び込む。木の窓枠とガラスを破壊して中庭に転がり出ると、この場所へ来るのを待っていたかのように丸い爆弾が投げ込まれてきた。


 中庭の四隅に転がり出てしまったために左右に避けることは困難。


 身体を丸めて耐えられる威力ではない。


 ならば、選択は一つだけ。


 私は背後の壁を蹴って、投げ込まれる爆弾の中を上へと飛び上がる。


 身体にいくつか爆弾が当たってしまうが問題ない。


 ビーネン一族の爆弾は何かにぶつかった衝撃で爆発するものではなく、中の火薬に火種が着火することで爆発するものです。


 なので、投げてから爆発するまで、わずかですが余裕がある。


 私が爆弾の群れを上へと潜り抜けた瞬間に爆発が起こった。


 足元で起こった爆発の衝撃で私の身体は更に強く上へと押し上げられて、二階建ての屋敷の屋根へまで吹き飛ばされた。


 身を翻して屋敷の屋根に着地して、怪我の有無を確認する。


 衝撃を受けた体の一部は痛みますが、骨に達するような怪我ではないですね。


 しかし、白い上着が爆弾の(すす)で少し黒く汚れてしまいました。


 下の脚衣は黒なので目立たないですけど、上着と同じように黒い煤が付いていますよね、きっと。


 鏡が無いので確認は出来ませんが、髪型もボロボロでしょう。


 終わった後でラクレーム様に謝罪が必要ですね。


 

「惜しいな。とても惜しい」



 気がつくと屋根の上に私を取り囲むように無数の影が立っている。



「それほどの才。一族の中で磨き上げていけば、歴史に残る戦士となったであろう。いずれは一族を率いる立場にもなれたであろうに」



 悔しそうな声が周囲から聞こえてくる。


 なにやら勝手に残念だと思われていますね。



「私は現状を後悔していませんし、これからもしませんよ。主様に出会えて、お近くで過ごせることが本当にありがたいと思っています」


「あの小僧にそれほどお前を惹き付けるモノがあるとは思えないがな」


「私だけが分かっている良さです。優越感があります」


「……そこまで慕っているのであれば、小僧と一緒にあの世に送ってやるのが、元同じ一族としての優しさだ」


「この後ですが、主様とラクレーム様、そして私は観劇をする予定とのことです。あの世とやらには行く予定はありません」


「急遽の予定変更は多々あることだ。受け入れろ」


「主様の命ならば受け入れますが、あなた達ごときの言葉を聞くわけがないでしょ」



 どちらが仕掛けるかタイミングを探っていた時、庭園の方から爆発音が聞こえた。



「っ!?」



 ラクレーム様達に何かがあったのではと思い、そちらへ意識が向いてしまった。



「その隙は見逃せないな」



 致命的な反応の遅れを突いて全周囲から襲いかかってくる攻撃に一部の隙も見つけられなかった。


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