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襲撃 場面:グリオット 1


「本当かっ!?」



 移動中の馬車の中、信じられない念話での連絡内容に思わず、声が出てしまった。



(ご主人からの伝言だ。間違いはない)



 念話の相手、ダダルの主人であるラクレームから俺の命が狙われていると連絡がきた。


 ビーネン一族を離れた一部の者達がアマンディーヌへの復讐のために動いているらしい。


 アマンディーヌではなく俺を狙うというまどろっこしい復讐手段ではある。


 しかし、向こうは知らないだろうが、俺も帝国での戦いでビーネン一族に損害を与えているので、復讐相手として間違ってはいない。



(どうする? ご主人はとりあえず待ち合わせ場所としている劇場に向かっている)


(襲われるのを分かっていて、その場に向かうのは賢くはないが、ここで引き返して屋敷で襲われたら使用人達に被害が出る可能性がある。それは避けたい。私もこのまま待ち合わせ場所に向かう)



 脳裏に浮かぶのは使用人達、特にクローセさんの姿だ。彼女を危険な目に遭わせたくない。



(分かった。ご主人にそのように伝えよう)


(頼む。それと、ダダル)


(なんだ?)


(今回は俺のことよりもラクレームを守ってやれよ)


(言われるまでもない。きさまの命よりもご主人のかすり傷一つを心配するつもりだ)



 念話が途切れた。


 ダダルがラクレームに俺の言葉を伝言しているのだろう。


 俺もラクレームも念話を使うことは出来る。


 ただし、遠距離での念話はダダルを経由しないと難しい。


 まだ念話を扱いきれていない自分の未熟さが悔やまれる。


 悔やんでばかりはいられないと、馬車の中に備え付けていた剣を取る。


 普段使っている剣と同じ作りの剣を用意していたはずだが、握って少し動かしてみると違和感を感じた。


 新品すぎるな。


 まったく使われていないせいで握り手の革の部分がだいぶ硬く、手に馴染んでいない。


 予備の剣であるため仕方はないが、これからビーネン一族と戦うにあたっては不安要素だ。


 戦ったことがあるビーネン一族はシュティ以外にいないので、ビーネン一族としての全体的な実力を俺は分からない。


 帝国ではアマンディーヌに一蹴されているが、アマンディーヌからすれば誰もが弱い判定になってしまうので基準には出来ない。


 軍対軍の戦いであれば過去の戦績、導入されている兵力から実力をある程度は推測できるが、個人同士の戦い、しかも、相手の情報が少ないのであれば、戦ってみるまで相手の実力が分からないのは当然だ。


 

「俺の今の純粋な実力が試されるか」



 剣を握り締めて呟く。


 ここしばらく命がけの戦いの際はダダルの助力があった。


 今回はダダルはラクレームの守りに全力を注ぐだろうから、俺だけの力で切り抜けなくてはいけないだろう。


 ラクレームとシュティと合流して備えることが出来れば一番良いのだが――。



「っ!?」



 外から馬車の中に黒い球体が入ってきた。


 ビーネン一族の使う爆弾!


 狭い馬車内で爆弾の爆発から回避出来る場所はない。


 考えるよりも腕が動き、剣の峰で爆弾を馬車の外へと弾き飛ばした。


 ――がっ!


 爆弾は馬車のすぐ側で爆発をする。


 爆風に押された馬車が傾く。


 馬も突然の爆発の音と衝撃に驚き、走る勢いのまま転倒してしまう。


 俺はソファを足場に横転途中の馬車から飛び出す。


 馬車の窓から飛び出した俺を狙い、ナイフが四方から飛んできた。


 剣と蹴りでナイフを弾き飛ばして、なんとか横転した馬車から抜け出すことが出来た。


 が、一息付く猶予すら与えてもらえないようで、前後から襲撃者の刃が振るわれた。


 剣と鞘を二刀流のように持ち、前後から襲い来る刃を弾く。


 そこでやっと一瞬の間が出来た。


 倒れた御者(ぎょしゃ)や馬の心配をしたかったが、俺は周囲の何人襲撃者がいるのかを把握するので精一杯だ。



「貴様ら、私をいったい誰だと思って――っ!」



 襲撃者は俺と会話するつもりは一切無いらしく、再び目の前に爆弾が投げられた。


 後ろに下がって爆発を回避する中で爆弾の玉が先ほどとは違って、四方に鋭い突起が付いているのに気付く。


 やばいっ!


 体中で危機を察知すると馬車から落ちた扉を掴んで、盾替わりに構えた。


 直後、爆発の衝撃とは別に無数の硬い物が盾代わりにした馬車の扉に当たる衝撃が身体に伝わる。


 前世の知識が久しぶりに活きた。


 細かな金属片などを埋め込むことで、爆発した際の被害を大きくさせる種類の爆弾があることをギリギリで思い出せた。


 爆弾の被害は広く、周囲の壁に鋭い金属片が突き刺さっていた。


 襲撃者達も自分達が被害に遭わないようにと一時的に俺から離れているようだ。


 余裕が出来たが、御者の様子を見に行くことは出来ない。


 俺が様子を見るために近づくと無事だった場合、危険な目に遭わせることになる。


 馬車から少しでも離れる方が関係ない人の被害が無くていい。


 そこまで考えて、ようやく周囲が静かなことに気付く。


 馬車の転倒と二度の爆発、人々の悲鳴や逃げる足音が聞こえてくるはずだが、何もそれらしい音は聞こえてこない。


 遠くに雑踏がかすかに聞こえてくるくらいだ。



「……なるほどな。俺とラクレーム達の待ち合わせ場所が劇場前だとすれば、お前達と俺の待ち合わせ場所はここというわけか」



 襲撃する側からすれば劇場前という一目が多く、警備の兵が常駐している場所で襲う必要はない。


 自分達が襲いやすい場所で襲うのが当然だ。


 つまり、この場所、人払いされた王都の一角が襲撃者が用意した狩場なのだ。



「今からでも考え直す気はないか? 私はフォレノワール公爵家嫡男、グリオットだ。公爵家の人間を害したとなれば、王国として討伐に動くことになる。ビーネン一族にも被害が及ぶだろう。一族を離れたとはいえ、思い入れなどは残っているだろう?」


「どこで我々の情報を知った」



 姿は見えないが、複数の声が周囲から聞こえてきた。



「シュティと貴様の婚約者に情報が伝わったことは知っている。だが、貴様に情報が伝わっているはずはない。そのような時間も手段もなかった」



 念話で知ったなどと言っても信じないだろうし、そもそも教えるつもりはない。



「貴族の特権だ。どうやって知ったかは教えることは出来ないな。興味があるなら拷問でも聞き出してみるか」


「いや、必要ない。貴様が我々の情報を知っていようとも、これから死ぬのであれば関係はない」


「そうか。私を殺すことは止めないんだな」


「我々の誇りを保つためだ。止めることは出来ない」


「誇りというのならアマンディーヌと戦えばいいだろう。私を殺して保たれる誇りは歪んでいるぞ」


「これ以上の問答は不要。準備は整った」


「時間稼ぎだとは思ったよ!」


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