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自分が追放した悪徳貴族に憑依した元国王の話  作者: 枇杷アテル
5:相性追求2

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無表情の少女と初めての街 ⑧

 内容が内容なだけに一度口ごもってしまいますわ。



「我が家がお抱えしている商人がビーネン一族だというのは本当ですの?」


「本当です。王都付近で仕事をしていた時、何度か顔を見ております」



 シュティさんが冗談や嘘を言う理由がないので、真実なのでしょうね。


 改めて言われても信じられない話ですわ。



「彼は王都周辺での情報収集役を担っている者です。私は二度ほど顔を合わせています」


「では、当然向こうもシュティさんのことには気付いていましたわよね。特に変わった様子は――」


「レジェス様が色々と準備をなさっていたようですので、そこから情報収集を行い、ラクレーム様が主様の頼みで私と王都を散策することを嗅ぎつけたのだと思います」


「知っていたから、私たちが店に来店した場合の覚悟は出来ていたと?」


「はい。私の方からビーネン一族で使う合図を何度か送ったのですが、全て無視されました。私は今、一族を抜けている立場なので当たり前ではありますが」



 メディシス家お抱えの商人である男性は私が物心付いた頃には家と付き合いがあった人だ。


 顔を見知った中であり、好みなども当然知られている。


 記念日に際しては贈り物を貰ったこともある。これに関しては商売人として付き合いでの贈り物と言われれば、そうなのでしょうけど。


 何にせよ、ある程度の信頼を向けていた相手でしたわ。


 特に現状で害があるわけではありませんが、裏切られたような感じがありますわね。



「先ほど店で見せてきた道具は実際にビーネン一族で使われる物だったりしますの?」


「いいえ、あれらは物好きなお客用に商品として仕入れていたのだと考えます。一族の仕事で使う道具としては耐久性や使い勝手が悪い品々でしたので」


「暗殺道具を用意するような店だったらと考えたりしましたけど、そうではありませんのね」


「道具の用意はしていました。王都内に構える小物店ですから、外から何かを持ち込んでも怪しまれません。仕事で必要な道具や薬品は店内で受け渡しがされています」


 

 安心しかけたところで愛用していた店の裏の実態が告げられてしまいましたわ。


 私がショックを受けているとレジェスが代わりというようにシュティさんに質問をする。



「シュティさん、私からも確認があります」


「なんでしょうか?」


「まずは一つ。私についてですが、様付けは不要です。同じく主に使える従者でありますので」


「では、レジェスさんとお呼びすればよいでしょうか。屋敷の方々と同じような形で」


「それで構いません」


「承知しました」



 お互いに真面目ですわね。



「確認したいことになりますが、店員は自分の素性がシュティさんから告げられることを想定していると思いますか?」


「想定していると思います。店の中でのやり取りは私からは無視され、相手からはまったくありませんでした。なので高い確率で素性がバラされていることは想定しているはずです。加えて、会員制であるお店に入ったことで、ほぼ確信しているでしょう」


「向こうからお嬢様、またはメディシス家に何かしてくる可能性はありますか?」


「それはありません。ビーネン一族として殺しなどは仕事でのみ行います。それ以外、たとえば今回のように素性がバレて仕事が今までのように出来なくなった場合は静かに姿を消します」



 家族が危険な目に遭うのではないかと不安もあったので、それが解消されてホッとする。


 不安が一つ消えたと同時に疑問が一つ出てきたので、さっそく聞くことにした。



「姿を消すのが通常なのであれば、何故、先ほど店員は店にいたのかしら? 私たちが店を訪ねることで素性がバレるのが分かっていたのなら、店を休みにするなりして、私たちの前に姿を出さないのが正解ではなくて?」


「その理由については当人に聞いた方が早いですね。どうなのでしょうか、先程の店員さん」



 シュティさんが個室の天井に向かって声をかけた。


 次の瞬間にはレジェスが私に覆いかぶさるようにして天井との間に身体を入れてきた。


 今の話を聞かれていた!? 店から付けられていた!?


 このお店は秘密の話し合いをするための場所では!?


 何個か疑問が思い浮かぶが、最後の疑問については、すぐにそうではないと理解する。


 このお店は秘密の話し合いをする場所でなくては、秘密の話し合いをさせる場所。


 ビーネン一族の情報収集のためのお店なのですわね。



「やはり気付くか。一族の麒麟児(きりんじ)と呼ばれていただけはある」



 天井から聞こえてきた声は先程の店員の声とは似ても似つかない枯れ木のこすれるような声だった。



「ラクレーム様、レジェスさん、ご安心を。先ほども言いましたがビーネン一族は仕事以外での殺しはしません。お二人に危害を加えることはありませんのでお座り下さい」


「そのとおりです、ラクレームお嬢様。飲み物を飲んで落ち着いて下さい」



 今度は先程の店員の声が天井から聞こえてきた。

 


「落ち着けと言いますが、落ち着ける状況ではありませんわね。せめて姿を見せてくださらない?」


「申し訳ありませんが、今の姿を見せるわけにはいきませんので、このままでご勘弁を」


「それは残念ですが――分かりましたわ。今は話を続けましょうか」



 小さく深呼吸をして席に座り直すと飲み物を一口含んで、無理やり気持ちを落ち着かせる。



「シュティさんの質問に答えて下さいません? 何故、私たちの前に店員として姿を表したのか?」


「お答えしましょう。姿を表した理由は私はあの店から消えるつもりがないからです」


「消えるつもりがない? 先程のシュティさんの話では――」


「素性がバレて仕事が出来なくなれば姿を消すという話でしたよね」



 私の言葉を遮り、天井からの声が言葉を続けた。



「姿を消すのは仕事が出来なくなった場合です。仕事が続けられるのなら消える必要がないのです」


「私たちになら素性がバレても仕事は今まで通り続けられると判断したというわけですの?」


「理解が早くて素晴らしいです」



 素性を知ったところで、何も出来ないだろうと侮っていますの?



「ラクレームお嬢様、およびメディシス家を侮っているわけではありません」



 考えていたことが顔に出ていたのか、言葉を発する前に否定されてしまいましたわ。



「ラクレームお嬢様なら私たちのことを口外しないと判断したからです。シュティに主であるグリオット様とは情報共有をなさるでしょうが、それで終わりになるでしょう。情報共有されたグリオット様に関しても同様です。あの方も口外はしない」


「その理由は?」


「その娘、シュティが側に居るからです。グリオット様がシュティを有効的に使っておられる。ですが、シュティは現在、一族を離れているとはいえ、彼女はビーネン一族。悪名高いビーネン一族の者を側に置いていると知られるだけで家格は下がるのは必然。貴族として家格が下がるのは避けたいのも必然です」


「自分のことを第三者に話すようなことがあれば、自分たちもシュティさんがビーネン一族であることを話すという脅しですの?」


「そう捉えていただいて構いません。ラクレームお嬢様も婚約者であるグリオット様の不利益になるようなことはなさらないでしょう」



 言いくるめられているようで気分は悪いですが、確かにその通りですわ。


 シュティさんのことが他の貴族、特に王族の方々の耳に入ってしまうのは不利益でしかありません。


 ただでさえ、グリオット様の家、フォレノワール公爵家は今の王族の方々からの印象はよくありませんもの。


 暗殺者と結託しているなどと知られれば、反逆を疑われてもしかたない状況になりますわ。


 反逆――。その言葉が引っかかった。


 根も葉もない噂と切って捨てられないのが厳しいですわね。


 貴族派が王族派に反逆を企てているという噂を何度か耳にしていますもの。


 何度も噂が流れてきているのであれば信憑性は増してくる。


 反逆を企てている急先鋒がフォレノワール公爵家なんて話になってしまうのは避けなくてはいけませんわ。



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